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1章【出会い編】

29 王からの密命

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「で、一体どういうことなんだ?」

なぜ、私が問い詰められているような構図なのか。

晩餐会は時間変更にはなったものの、無事に終了した。歓談も終え、本来私はお役御免のはずだが、このように国王の私室で私だけ呼び出しを食らって詰問されているような状態である。

「どういった経緯かはわかりませんが、食材に水仙が混ざっておりました。水仙は食すと嘔吐や下痢などの中毒症状を起こし、最悪、死に至らしめることもあります」
「メニューは事前に決めてあって、食材も間違いなく対応したものだと」
「はい」
「で、何か見解があるんだろう?有能なメイド殿」

嫌味のように言われるが、恐らく、私が何か勘付いていることを察しての言葉だろう。事実、思うところはある。確証はないが。

「確証はありませんが、意図的に混入された可能性が高いかと。そもそも、食材にニラを使うというのは稀ですし、交流する上で相手方が普段食べているものを出すというのはあり得る話だとは思いますが、調理方法もわからない、見分けもつかないと言ったものはリスクになります。それをわざわざ用意し、かつ今回は2つも混ぜていることに違和感は感じざるを得ません」
「だろうな」

はぁぁぁぁ、と大きく溜息をつかれる。私もそれくらい大きな溜息をつきたい。今日の一番の功労者なんだから労って欲しい。口が裂けても言えないが。

「今回の交流が、どのような目的であったかはわかったな?」
「通訳しましたので一応は」

そう、今回の会談の目的は同盟である。昨今の情勢が危うい中、比較的友好的かつ資源の豊富なカジェ国と富に潤った我が国コルジールで同盟を結ぼうという話になっていた。

もし、今回この会談が成功すれば、隣国に比べて情勢は有利に傾くと思われる。

「オフレコだが、隣国マルダスとゴードジューズ帝国が同盟を組む話が浮上しているらしい」

帝国の名に途端に汗が噴き出す。

忘れもしない、かつての仇。まさかここでその名を聞くとは思わず、カッと頭に血が上りそうになるのを、拳を握りしめることで必死に堪えた。

「つまり、この同盟を崩そうとしているものが内通者としているかもしれない、ということだ」
「それで、それを私に聞かせてどうしろと」
「ただのメイドではないだろう?貴様」

鋭い視線で射抜かれて、何も言えない。

下手にここでウソを言っていいのか、それとも正直に言ったほうがいいのか、ぐるぐると思考が苦しいくらいに動いている。

息が詰まって上手く息ができない。

長い沈黙が続く。沈黙は即ち肯定であるが、下手なことを言って大事になるのだけは御免被ごめんこうむりたかった。

「……ふん、まぁいい。こちらに対して害意がないのはわかっている。クエリーシェルも気に入っているようだしな。ただ、もしお前が少しでも害意を持てば、即刻首が飛ぶことを忘れるな」
「はい、心得ております」

ふぅ、と息をつく。とりあえずは私の素性に関しては見逃してくれるということだろうか。

「あぁ、ちなみに今回の件は、料理人には口止めをしてある」
「はい」
「そして、今回の食材を用意したところはあのシュタッズ家だ。もし何かわかったことがあれば、すぐに伝えるように。また、先の私の独り言は忘れろ」
「承知致しました」

(なるほど、オフレコの件は独り言で済ますか)

「あぁ、ついでだがお前の主人には今回の件について言わんでいい」
「はぁ。いいんですか?」
「あいつはこの手のことはサッパリだから、言うだけ無駄だ」

なるほど、確かに、と思ってしまうところは使用人として失格だろうが、あの慌てぶりようではどうにも嘘を隠し通せるとは思いにくい。

(とりあえず私は不問にするから、密偵として役立て、と言ったところか)

こういうことを想定して、今まで私を試していたのだろうか。さすが大きな国の王は違う。

安らかに死ぬための道のりは険しいと思いつつも、リーシェは自分のやるべきことをやるために励むのだった。
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