30 / 437
1章【出会い編】
29 王からの密命
しおりを挟む
「で、一体どういうことなんだ?」
なぜ、私が問い詰められているような構図なのか。
晩餐会は時間変更にはなったものの、無事に終了した。歓談も終え、本来私はお役御免のはずだが、このように国王の私室で私だけ呼び出しを食らって詰問されているような状態である。
「どういった経緯かはわかりませんが、食材に水仙が混ざっておりました。水仙は食すと嘔吐や下痢などの中毒症状を起こし、最悪、死に至らしめることもあります」
「メニューは事前に決めてあって、食材も間違いなく対応したものだと」
「はい」
「で、何か見解があるんだろう?有能なメイド殿」
嫌味のように言われるが、恐らく、私が何か勘付いていることを察しての言葉だろう。事実、思うところはある。確証はないが。
「確証はありませんが、意図的に混入された可能性が高いかと。そもそも、食材にニラを使うというのは稀ですし、交流する上で相手方が普段食べているものを出すというのはあり得る話だとは思いますが、調理方法もわからない、見分けもつかないと言ったものはリスクになります。それをわざわざ用意し、かつ今回は2つも混ぜていることに違和感は感じざるを得ません」
「だろうな」
はぁぁぁぁ、と大きく溜息をつかれる。私もそれくらい大きな溜息をつきたい。今日の一番の功労者なんだから労って欲しい。口が裂けても言えないが。
「今回の交流が、どのような目的であったかはわかったな?」
「通訳しましたので一応は」
そう、今回の会談の目的は同盟である。昨今の情勢が危うい中、比較的友好的かつ資源の豊富なカジェ国と富に潤った我が国コルジールで同盟を結ぼうという話になっていた。
もし、今回この会談が成功すれば、隣国に比べて情勢は有利に傾くと思われる。
「オフレコだが、隣国マルダスとゴードジューズ帝国が同盟を組む話が浮上しているらしい」
帝国の名に途端に汗が噴き出す。
忘れもしない、かつての仇。まさかここでその名を聞くとは思わず、カッと頭に血が上りそうになるのを、拳を握りしめることで必死に堪えた。
「つまり、この同盟を崩そうとしているものが内通者としているかもしれない、ということだ」
「それで、それを私に聞かせてどうしろと」
「ただのメイドではないだろう?貴様」
鋭い視線で射抜かれて、何も言えない。
下手にここでウソを言っていいのか、それとも正直に言ったほうがいいのか、ぐるぐると思考が苦しいくらいに動いている。
息が詰まって上手く息ができない。
長い沈黙が続く。沈黙は即ち肯定であるが、下手なことを言って大事になるのだけは御免被りたかった。
「……ふん、まぁいい。こちらに対して害意がないのはわかっている。クエリーシェルも気に入っているようだしな。ただ、もしお前が少しでも害意を持てば、即刻首が飛ぶことを忘れるな」
「はい、心得ております」
ふぅ、と息をつく。とりあえずは私の素性に関しては見逃してくれるということだろうか。
「あぁ、ちなみに今回の件は、料理人には口止めをしてある」
「はい」
「そして、今回の食材を用意したところはあのシュタッズ家だ。もし何かわかったことがあれば、すぐに伝えるように。また、先の私の独り言は忘れろ」
「承知致しました」
(なるほど、オフレコの件は独り言で済ますか)
「あぁ、ついでだがお前の主人には今回の件について言わんでいい」
「はぁ。いいんですか?」
「あいつはこの手のことはサッパリだから、言うだけ無駄だ」
なるほど、確かに、と思ってしまうところは使用人として失格だろうが、あの慌てぶりようではどうにも嘘を隠し通せるとは思いにくい。
(とりあえず私は不問にするから、密偵として役立て、と言ったところか)
こういうことを想定して、今まで私を試していたのだろうか。さすが大きな国の王は違う。
安らかに死ぬための道のりは険しいと思いつつも、リーシェは自分のやるべきことをやるために励むのだった。
なぜ、私が問い詰められているような構図なのか。
晩餐会は時間変更にはなったものの、無事に終了した。歓談も終え、本来私はお役御免のはずだが、このように国王の私室で私だけ呼び出しを食らって詰問されているような状態である。
「どういった経緯かはわかりませんが、食材に水仙が混ざっておりました。水仙は食すと嘔吐や下痢などの中毒症状を起こし、最悪、死に至らしめることもあります」
「メニューは事前に決めてあって、食材も間違いなく対応したものだと」
「はい」
「で、何か見解があるんだろう?有能なメイド殿」
嫌味のように言われるが、恐らく、私が何か勘付いていることを察しての言葉だろう。事実、思うところはある。確証はないが。
「確証はありませんが、意図的に混入された可能性が高いかと。そもそも、食材にニラを使うというのは稀ですし、交流する上で相手方が普段食べているものを出すというのはあり得る話だとは思いますが、調理方法もわからない、見分けもつかないと言ったものはリスクになります。それをわざわざ用意し、かつ今回は2つも混ぜていることに違和感は感じざるを得ません」
「だろうな」
はぁぁぁぁ、と大きく溜息をつかれる。私もそれくらい大きな溜息をつきたい。今日の一番の功労者なんだから労って欲しい。口が裂けても言えないが。
「今回の交流が、どのような目的であったかはわかったな?」
「通訳しましたので一応は」
そう、今回の会談の目的は同盟である。昨今の情勢が危うい中、比較的友好的かつ資源の豊富なカジェ国と富に潤った我が国コルジールで同盟を結ぼうという話になっていた。
もし、今回この会談が成功すれば、隣国に比べて情勢は有利に傾くと思われる。
「オフレコだが、隣国マルダスとゴードジューズ帝国が同盟を組む話が浮上しているらしい」
帝国の名に途端に汗が噴き出す。
忘れもしない、かつての仇。まさかここでその名を聞くとは思わず、カッと頭に血が上りそうになるのを、拳を握りしめることで必死に堪えた。
「つまり、この同盟を崩そうとしているものが内通者としているかもしれない、ということだ」
「それで、それを私に聞かせてどうしろと」
「ただのメイドではないだろう?貴様」
鋭い視線で射抜かれて、何も言えない。
下手にここでウソを言っていいのか、それとも正直に言ったほうがいいのか、ぐるぐると思考が苦しいくらいに動いている。
息が詰まって上手く息ができない。
長い沈黙が続く。沈黙は即ち肯定であるが、下手なことを言って大事になるのだけは御免被りたかった。
「……ふん、まぁいい。こちらに対して害意がないのはわかっている。クエリーシェルも気に入っているようだしな。ただ、もしお前が少しでも害意を持てば、即刻首が飛ぶことを忘れるな」
「はい、心得ております」
ふぅ、と息をつく。とりあえずは私の素性に関しては見逃してくれるということだろうか。
「あぁ、ちなみに今回の件は、料理人には口止めをしてある」
「はい」
「そして、今回の食材を用意したところはあのシュタッズ家だ。もし何かわかったことがあれば、すぐに伝えるように。また、先の私の独り言は忘れろ」
「承知致しました」
(なるほど、オフレコの件は独り言で済ますか)
「あぁ、ついでだがお前の主人には今回の件について言わんでいい」
「はぁ。いいんですか?」
「あいつはこの手のことはサッパリだから、言うだけ無駄だ」
なるほど、確かに、と思ってしまうところは使用人として失格だろうが、あの慌てぶりようではどうにも嘘を隠し通せるとは思いにくい。
(とりあえず私は不問にするから、密偵として役立て、と言ったところか)
こういうことを想定して、今まで私を試していたのだろうか。さすが大きな国の王は違う。
安らかに死ぬための道のりは険しいと思いつつも、リーシェは自分のやるべきことをやるために励むのだった。
0
お気に入りに追加
1,921
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~
扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。
公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。
はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。
しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。
拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。
▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる