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1章【出会い編】

14 頼られたい男

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馬車内では、妙にギスギスとした空気が流れていた。もちろん、その根源はニールである。向かい合って座っているため、彼の不機嫌さが余計に目につく。

「お席、変わりましょうか?」
「……いや、大丈夫だ」

素っ気ない返事に、つい苛立ちが移りそうになる。なぜ、こんな理不尽に怒りをぶつけられなければならないのか。

(いけないいけない、冷静に、冷静に)

「ヴァンデッダ様、この挙式のあとはどのようなご予定で?」
「粗方の仕事は午前中に終わらせたから、先程の刺繍が終わったら手隙の予定だ」
「でしたら、久しぶりにチェスなどいかがでしょうか?」
「あぁ、そうしようか。リーシェもそれでいいか?」

(なぜ、私に聞く……!)

明らかに、黒い感情がこちらに向いているのがまざまざとわかる。そりゃ、このタイミングで私に聞いたらそういう反応になるでしょうよ。この領主、たまにボンクラになるのはわざとなのか?

「もちろん、構いません。では、ご夕食はお2人分のご用意でよろしいでしょうか?」
「そうしてくれ」
「ニール様はお泊りに?」
「ヴァンデッダ様がよろしければ」
「いや、明日はパーティー前日で色々と用意せねばならないから、泊まりは後日にしてほしい」

再び、黒い感情ダダ漏れの男に辟易する。

(ひぇー、もう勘弁して欲しいー!)

理不尽に嫌われていることを不快に思いながらも、あえて気づかないフリをする。リーシェはただひたすら外を眺めながら、今日の夕飯何を作ろう、明日の朝食は何にしよう、と違うことを考えながら、ジッと耐えることに決めた。






「領主様!本日はお越しいただきありがとうございます!」
「よい天気に恵まれて、よい門出の日になりそうだな」

到着するなり領民がわっと集まる。本日の主役の両親だろう、領主を盛大に出迎えていた。

(結婚式に来るだけで、めちゃくちゃ疲れた……)

馬車に乗っている時間は然程でもなかったはずなのだが、到着するなりドッと疲れが押し寄せてきた。ストレスは本当に身体によくない。悪意は向け慣れているが、とはいえいい気持ちはしないのは、人であれば当然のことだろう。

「……あまり調子に乗るなよ」

すすす、と領主が離れたのをいいことに近づいてくるニールに、内心溜息をつく。

(本当にまぁ、しつこいというか根に持つタイプだな、こいつ)

段々と思考も口が汚くなってくるのは、この際仕方がない。

「不快なことは承知しておりますが、今日はハレノヒですので、そういうのは抑えていただいたほうが賢明かと」
「そんなことはわかっている。……ヴァンデッダ様に気に入られたからと言って、一番信頼されているのは俺なんだからな」
「存じております」

(なるほど、そういうことか)

何に対して憤っているのかと思いきや、彼に頼られたいということか。なるほど、それで現在、身近で頼られている私が目障りだと。原因がわかれば御し易い。リーシェは攻略法を見つけて、内心ほくそ笑んだ。

「ニール様のご心配には及びません。私は一介の使用人に過ぎません。領主様は今まで使用人を雇ってなかったため、あまり勝手がわからず、私に目をかけてくださってますが、あくまで領主様の右腕であり、頼れるのはニール様のみです」
「そりゃそうだ。何だ、ちゃんとわかっているじゃないか。わかればいいんだ。俺がヴァンデッダ様の右腕として信頼を得るために、日々弛まぬ努力をだな……」
「リーシェ、ニール行くぞ」
「「はい、今行きます」」

(ふ、これである程度は抑制できただろう)

先程の話しぶり的に、だいぶ悪意は削ぐことができたようだ。こういう単純な男は再燃するのも早いから注意せねばならないけど、と内心で舌を出しながら、ニールと共に足早に領主の元へと向かった。
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