9 / 437
1章【出会い編】
8 招待状
しおりを挟む
「あの娘、有能すぎるんだが」
「それは、いいことじゃないか」
適当にあしらわれているような気がして、クエリーシェルはなおも食い下がるように畳み掛ける。
「まだ齢16だというのに、薬湯やらマッサージやらまで知識があるんだぞ。実際に効用があるようで、切り傷も軽くなっているし、マッサージのおかげか腰痛も軽くなったし、何より安眠できたのだ……!」
「ほう、薬湯。聞いたことはあるが試したことはないな。そんなに優秀ならそのメイドを城に登用しようか」
「何を言ってる、ダメに決まってるだろう!」
「じゃあ、わざわざ有能さを自慢するでない」
国王クイードにピシャリと言われて、それもそうだ、とクエリーシェルはそこで納得する。
「それにしてもマシュ族の娘だったか?随分と珍しいものを拾ったな」
「マシュ族の生き残りとのことだが、そんなに有名なのか?」
自国のことは詳しいものの、他は興味があまりないクイードがこのように興味を示すのは珍しい。だから私も、普段追及することはないのだが、話を掘り下げてみた。
「マシュ族が有名というか、一時期流行ったのだよ、占術が。占術と言えば、少々離れた国でのことらしいが、それで争いが起きてな、怨みをかっただか何かで虐殺されたとかどうとか」
「虐殺……」
「噂では、なんでも占術で運命や未来がわかるとかどうとか、それを信じて戦争を起こして見事に敗退したそうでな」
(完全な逆恨みじゃないか)
占いというものを信じない身からしたら到底信じられない話である。馬鹿馬鹿しいとすら思うが、まさかそんな理由で国民が虐殺されるだなんて。
「……つまり、その責任を取らされて」
「まぁ、本当か嘘かは知らんがな。俄かに信じられない内容ではあるし、眉唾物の話だ。そもそも、詳しくは本人に聞けばいいだろう。あの一族は東洋の占術もかじっていたと聞いているし、その娘もそれでそのような物事に詳しいのだろう」
言われて納得する。なるほど、年の割に知識に長けているのは、元々一族としてそういう知識に長けていたからということか。
「まぁ、一度会って話してみたいものだがな。あと、ぜひともマッサージを受けたい」
「王妃様にそのようなことを聞かれたら大事だぞ」
王妃はこのだらしない国王に比べて、とてもしっかりしている姉さん女房だ。だが、それゆえか、嫉妬深いのも事実である。愛されている証拠ではあるのだろうが。
「で、わざわざこの話をしに呼んだのか?休暇だというから、せっかく羽を伸ばそうと……」
「どうせ、家でぐうたらしてるだけだろう?お前宛ての手紙だ、そろそろ宛先を自宅に変えて欲しいのだがね」
「王城や軍本部にいることの方が多いのだから、都合がよいだろう?」
「もう、有能なメイドがいるのだから必要ないだろう?こうしてわざわざ呼び出すのも面倒だしな」
言われて差し出された手紙を見れば、国内でも1、2を争う大富豪であり大貴族であるシュタッズ家からのパーティーの招待状だった。日程は1週間後であるようだ。
「使用人もいることだし、そろそろ本格的に婚活でもしたらどうだ?いい年だろう?」
「クイードも同い年だろう」
「私は誰かと違って結婚もしているし、娘も息子もいるからな。そろそろマルグリッダも心配してるんじゃないか?」
「姉さんは、私のことを未だに幼い坊やだと思っているからな」
「だったら、一人前になって安心させてやれ」
幼馴染であるクイードに諭されて、なんとも言えない気持ちになる。
本音を話せるという間柄ではあるが、身分は違えどやはりそれなりの地位である分別はあるので、それが最もな言葉であることは理解していた。
「わかってはいるんだがな、こればかりは」
「今回のパーティーは規模が大きい。誰かしら気の合う人はいるだろうから、出会いは自ら作っていかんとな。あぁ、そうだ。服も新調して身なりもきちんと整えておけよ。なんなら、そのメイドに一通り誂えてもらえ。優秀であれば、そういうこともそつなくこなしてくれるのではないか?」
「……そうだな、頼んでみる」
「返信は早くするのだぞ」
「わかっている」
クイードの自室から退室すると、手紙を眺める。
「はぁ……、パーティーか」
気が重い。だが、領主の長男として産まれたからには逃れられないものでもある。
「リーシェに頼んでみるか」
あまり人に頼ることのないクエリーシェルはそうぼやくと、王城から自宅へと戻るために馬車に乗り込んだ。
「それは、いいことじゃないか」
適当にあしらわれているような気がして、クエリーシェルはなおも食い下がるように畳み掛ける。
「まだ齢16だというのに、薬湯やらマッサージやらまで知識があるんだぞ。実際に効用があるようで、切り傷も軽くなっているし、マッサージのおかげか腰痛も軽くなったし、何より安眠できたのだ……!」
「ほう、薬湯。聞いたことはあるが試したことはないな。そんなに優秀ならそのメイドを城に登用しようか」
「何を言ってる、ダメに決まってるだろう!」
「じゃあ、わざわざ有能さを自慢するでない」
国王クイードにピシャリと言われて、それもそうだ、とクエリーシェルはそこで納得する。
「それにしてもマシュ族の娘だったか?随分と珍しいものを拾ったな」
「マシュ族の生き残りとのことだが、そんなに有名なのか?」
自国のことは詳しいものの、他は興味があまりないクイードがこのように興味を示すのは珍しい。だから私も、普段追及することはないのだが、話を掘り下げてみた。
「マシュ族が有名というか、一時期流行ったのだよ、占術が。占術と言えば、少々離れた国でのことらしいが、それで争いが起きてな、怨みをかっただか何かで虐殺されたとかどうとか」
「虐殺……」
「噂では、なんでも占術で運命や未来がわかるとかどうとか、それを信じて戦争を起こして見事に敗退したそうでな」
(完全な逆恨みじゃないか)
占いというものを信じない身からしたら到底信じられない話である。馬鹿馬鹿しいとすら思うが、まさかそんな理由で国民が虐殺されるだなんて。
「……つまり、その責任を取らされて」
「まぁ、本当か嘘かは知らんがな。俄かに信じられない内容ではあるし、眉唾物の話だ。そもそも、詳しくは本人に聞けばいいだろう。あの一族は東洋の占術もかじっていたと聞いているし、その娘もそれでそのような物事に詳しいのだろう」
言われて納得する。なるほど、年の割に知識に長けているのは、元々一族としてそういう知識に長けていたからということか。
「まぁ、一度会って話してみたいものだがな。あと、ぜひともマッサージを受けたい」
「王妃様にそのようなことを聞かれたら大事だぞ」
王妃はこのだらしない国王に比べて、とてもしっかりしている姉さん女房だ。だが、それゆえか、嫉妬深いのも事実である。愛されている証拠ではあるのだろうが。
「で、わざわざこの話をしに呼んだのか?休暇だというから、せっかく羽を伸ばそうと……」
「どうせ、家でぐうたらしてるだけだろう?お前宛ての手紙だ、そろそろ宛先を自宅に変えて欲しいのだがね」
「王城や軍本部にいることの方が多いのだから、都合がよいだろう?」
「もう、有能なメイドがいるのだから必要ないだろう?こうしてわざわざ呼び出すのも面倒だしな」
言われて差し出された手紙を見れば、国内でも1、2を争う大富豪であり大貴族であるシュタッズ家からのパーティーの招待状だった。日程は1週間後であるようだ。
「使用人もいることだし、そろそろ本格的に婚活でもしたらどうだ?いい年だろう?」
「クイードも同い年だろう」
「私は誰かと違って結婚もしているし、娘も息子もいるからな。そろそろマルグリッダも心配してるんじゃないか?」
「姉さんは、私のことを未だに幼い坊やだと思っているからな」
「だったら、一人前になって安心させてやれ」
幼馴染であるクイードに諭されて、なんとも言えない気持ちになる。
本音を話せるという間柄ではあるが、身分は違えどやはりそれなりの地位である分別はあるので、それが最もな言葉であることは理解していた。
「わかってはいるんだがな、こればかりは」
「今回のパーティーは規模が大きい。誰かしら気の合う人はいるだろうから、出会いは自ら作っていかんとな。あぁ、そうだ。服も新調して身なりもきちんと整えておけよ。なんなら、そのメイドに一通り誂えてもらえ。優秀であれば、そういうこともそつなくこなしてくれるのではないか?」
「……そうだな、頼んでみる」
「返信は早くするのだぞ」
「わかっている」
クイードの自室から退室すると、手紙を眺める。
「はぁ……、パーティーか」
気が重い。だが、領主の長男として産まれたからには逃れられないものでもある。
「リーシェに頼んでみるか」
あまり人に頼ることのないクエリーシェルはそうぼやくと、王城から自宅へと戻るために馬車に乗り込んだ。
0
お気に入りに追加
1,921
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
悪役令嬢はお断りです
あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。
この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。
その小説は王子と侍女との切ない恋物語。
そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。
侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。
このまま進めば断罪コースは確定。
寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。
何とかしないと。
でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。
そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。
剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が
女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。
そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。
●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
●毎日21時更新(サクサク進みます)
●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)
(第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。
伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。
しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。
当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。
……本当に好きな人を、諦めてまで。
幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。
そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。
このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。
夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。
愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。
一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる