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第八十二話 本気

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「へぇ? 不意打ちにも対応できるとはなかなかだね」
「信じらんない! クズにも程があるでしょ」

 まさか無防備状態のヴィルを狙うだなんて、と苛立ちを抑えられない。とことんこいつはクズだと吐き気がした。

「ヴィル、無事!?」
「あぁ」
「待ってて、すぐに助けるから!」
「ダメだよ。彼は人質だと言っただろう?」
「私はもうここに来てるんだから、人質も何もないでしょう!」
「威勢は十分のようだね。なら、彼を救ってごらん?」

 すかさずヴィルの元へ向かうと、魔王は次々と攻撃を仕掛けてくる。頭上、足元、前後左右とバリエーションに富んだ攻撃を躱しながらヴィルを回収すると、グルーに向かって投げつけた。

「グルー! ヴィルをよろしく!」
「任された!」
「シ、オン……っ」
「私のことは気にしないで。自分のことだけ考えて!」

 グルーがヴィルをしっかりと受け止め、出口の近くにまで下がる。恐らく脱出するのに一番適しているからだろうが、無常にも出口は魔王によって塞がれてしまった。

「おや、残念。まさか全部躱されてしまうとは。さすがにキミを侮りすぎたようだね」
「お生憎さま! って言いたいとこだけど、躱さなかったらアレ誘爆するでしょ! それくらいはわかってるわよ」
「ふふ、なるほど。場数は踏んでいるようだね。面白い。ますますキミのことが好きになったよ、シオン。……さて、人質も無事に回収したことだ。これで心置きなくキミも戦えるよね?」

 魔王の瞳に怪しい光が灯る。
 その瞳を見た瞬間、ゾクゾクゾクと背中を悪寒が走り抜けた。

「シオンになら、ちょっとは本気を出せそうかな」

 魔王が舌なめずりをする。
 私はさらにゾワッと寒気を増しながらも、腕を捲った。

「来るなら来い!」
「相変わらず威勢はいいね。でも、いつまでもつかな?」

 ドン! バン! バシン! ガンッ!

 激しい魔法の応酬だった。
 こちらが魔法を放つと、魔王はそれよりもさらに強い威力の魔法で返してくる。
 まさに倍々ゲームかのごとく、どんどん増していく魔力量にさすがの魔王城も耐えられなくなったのか崩落していった。

「あははは! 楽しいねぇ! こんな強い魔法を出すのはいつぶりだろうか!」
「っく、……っ、」

 腕の感覚も足の感覚もなく、身体は焼き切れそうなほど熱い。
 気を抜いたら一瞬で死んでしまうほどの強大な魔法に、ただ打ち返すだけで必死だった。
 考えるよりもまず先に延々と詠唱をしているせいで口も渇き、喉の酷使で声がかすれる。

「あれ? あんなに啖呵を切ってたというのにもう限界かい? 残念だなぁ、もうちょっと遊んでいたかったのに」
「……っ、は……っ」

 もう体力も魔力も限界だった。
 避けてはいるものの魔王の強烈な魔法はかすっただけでも大ダメージで身体はぼろぼろ。
 しかも何度もヤツの攻撃に見合った魔法を打ち返しているため、魔力はそろそろ底を尽きそうだった。

 そろそろ決着をつけないと、もうもたない。このまま長期戦だと、どうやっても私の方が不利。一か八か賭けるしかない……!

「……全ての始まりはここから。大地、水、生命の起源。我は今、己れの力全てを以てその始まりを行使する……!!」
「その詠唱は……! 凄いな、シオン。まさか禁忌の魔法まで使えるなんて。勇者のみが使えると聞いていたが、なるほど面白い。であれば、僕もその期待に応えよう」

 私は全魔力を膨張させ、肥大させ、拡大させていく。魔力あるものから次々と魔力を奪いながら巨大化したそれは、城をも飲み込むほどの大きさへと変貌していく。

 ゴウンゴウンゴウンゴウン、ピシュン……ッ

 膨らみきった魔力がある一定の大きさまでいくと一気に圧縮され、拳ほどのサイズになる。私はそれを思い切り魔王に向かって投げつけた。

「いけ、ビッグバン……!!」

 魔王に当たった瞬間大爆発を起こす。
 始まりの魔法にして禁忌の魔法であるそれは、爆音と大きな衝撃と共に魔王を飲み込み霧散した。
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