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第六十七話 インキュバス

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「な、ちょ、シオン、何を」

 ヴィルとグルーはあまりの勢いにガクブルしながらあわあわしている。
 村長も呆気に取られ、妻であるリリエは我に返ると「ダグラスーー!? せ、聖女様、何をなさるんですか!」と食ってかかられた。

「申し訳ありません。彼に魔物がついているのが見えましたので、祓ったのです」
「へ? 彼に魔物が……?」
「えぇ、恐らくインキュバスだと思われますが、身に覚えはありませんか? その、女性関係にだらしがない、とか……」
「は、はい。確かに、その、常々彼はそういうところが」
「実は彼にインキュバスが取り憑いていたようでして。ですが、もう安心です。祓いましたので」
「そ、そうだったのですね! まさか、そうとは知らず、私ったら聖女様に失礼を。どうもありがとうございます!! なんとお礼を言ったらよいか!」
「いえいえ、お気になさらず」

 にっこりと聖母のごとく微笑むと、リリエに感謝される。隣にいるヴィルとグルーは未だにガクブルしているが。

「なるほど。ヤツの浮気性は魔物のせいだったのか」
「そうだったみたいですね。でも、聖女様に祓っていただいたなら安心だわ」
「念のためきちんと祓いきれたか確認して参りますね。危ないですから、少々ここでお待ちください」

 そう言って私だけダグラスのところへ行く。
 吹っ飛んだ勢いで伸びてるダグラスの胸ぐらを掴んでペチペチと頬を軽く叩いた。

「……っ、シオン! お前、何す……っ」
「煩い。黙れ。この浮気男が。よくも子供が産まれたばかりのくせに私にアプローチしてきたわね」

 気を取り戻した途端に噛み付いてくるダグラスを容赦なく睨みつける。魔力を取り戻した私の睨みのプレッシャーは常人には耐えられないのか、「はひ」と目を白黒させていた。

「いい? 今後浮気とかするようだったら、あんたのアレがもげ落ちるように呪いをかけたから」
「なっ!? じょ、冗談だろ?」
「試してみる?」
「無理無理無理無理」
「大丈夫よ。悪ささえしなければいいんだから。ね、パパ?」
「ひぃっ!!」

 手をパッと離すと地面に落ちるダグラス。その顔は誰が見ても真っ青だった。

「大丈夫でした。確認しましたが、インキュバスは討伐できていました」
「なんと!」
「さすが聖女様ですわ!」
「憑依されていたせいかまだ体調が悪いようなので、彼はもう少しそっとしておいてあげてください。あぁ、では忘れないうちにこの子に加護と祝福を」

 パチンと指を弾くとパッと赤子の上に光が降り注ぐ。加護と祝福の魔法を受けると、赤子はスヤスヤと眠り出した。

「まぁ、凄い! どうもありがとうございます」
「いえいえ。リリエさんにもどうか今後平穏な生活が送れるようご加護を」

 再びパチンと指を鳴らすとリリエにも加護を授ける。

「では、私はこれで」
「どうもありがとうございます、聖女様」
「また何かありましたらぜひともお立ち寄りを」
「えぇ、ぜひ」

 にっこりと聖女らしく微笑む。そして、私達はモルドーの村を出たのだった。
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