上 下
20 / 95

第二十話 魔物避けの結界

しおりを挟む
「何するんだよっ」
「そっちが悪いんでしょ」
「オレは王子なんだぞ」
「知ってる」

 小声での応酬に、「ぐぬぬぬ」となってるヴィルを尻目に、「それで魔物の脅威があるとのことですが、現在どのような状況か教えていただけますか?」と村長に話を尋ねる。

「実は、我が村の結界が解けかかっておりまして。以前、魔物避けの結界をかけてから二十年ほど経っておりまして、そのせいで先日より綻びから魔物が入ってきたのです」
「に、二十年ですか!?」
「はい。私が村長を引き継いだ年と同じですので、間違いなく二十年ほどは経っているかと」

 よくそこまでもってたわね……。
 長期間放っておいていたのに今まで無事だったのは凄いけど。

 魔物避けの結界は本来、定期的に強化魔法をかけねばならないのだが、それもなしに二十年もったというのは素直に感心する。先代の聖女には会ったことがないが、八十まで聖女を続けていただけあって相当な力の持ち主だったようだ。

「それで? この村に何が起きたかご説明いただけますでしょうか。私が見る限り、魔物が入ってきたというわりにはまだそこまで被害が出ていないように思えますが」
「実は、魔物が侵入した際に『贄を出せ。贄を出さぬならこの村を滅ぼす』と言われまして。我々は滅ぼされたくない一心で毎月動物などの生け贄を捧げておりました。ですが、先日とうとう『動物は飽きた。今度は村人を生け贄として捧げよ』と言われまして……」
「生け贄、ですか」
「はい。初の人間の生け贄として名乗り出てくれたのが、そこにいるジュンなのですが……」

 ここまで案内してくれた物憂げな男性はジュンというらしい。ぺこりと私に頭を下げるその姿に、やっぱり素敵と目を細める。

 なるほど、それで儚げだったのか。そりゃ、あとちょっとで魔物に食べられる運命ならそうなっても仕方ないわよね。

 世を儚んでいたというのはあながち間違ってなかったということか、と合点がいく。そして、この素敵な男性ジュンをこのまま魔物の餌にするわけにはいかないと、私の中でやる気がぐんぐん湧いてくる。

「このままではジュンは魔物に喰われてしまいます。しかもその次の月には新たな犠牲者も……! ですから、それを止めるためにも魔物避けの結界をより強固なものにしていただきたいのです!! どうか、どうか、お願い致します!!」
「もちろんですわ! こんな儚げで素敵な男性を生け贄にするなどと、断じてあってはならないことです! ですが、魔物避けの結界の強化だけでは心許ありません。脅威そのものを取り払わないと」
「と、おっしゃいますと……?」
「つまりですね」

 私がにっこりと微笑むと、ヴィルと村長とジュンは不思議そうな顔で私のことを見つめるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

じい様が行く 「いのちだいじに」異世界ゆるり旅

蛍石(ふろ~らいと)
ファンタジー
のんびり茶畑の世話をしながら、茶園を営む晴太郎73歳。 夜は孫と一緒にオンラインゲームをこなす若々しいじい様。 そんなじい様が間違いで異世界転生? いえ孫の身代わりで異世界行くんです。 じい様は今日も元気に異世界ライフを満喫します。 2日に1本を目安に更新したいところです。 1話2,000文字程度と短めですが。 頑張らない程度に頑張ります。 ほぼほぼシリアスはありません。 描けませんので。 感想もたくさんありがとうです。 ネタバレ設定してません。 なるべく返事を書きたいところです。 ふわっとした知識で書いてるのでツッコミ処が多いかもしれません。 申し訳ないです。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...