上 下
19 / 95

第十九話 庇護欲

しおりを挟む
「私、要請を受けて王都より聖女としてこちらに参りましたシオンと申します」
「せ、聖女様、ですか……!?」
「はい。先日任命された若輩者ですが、貴方様のためにぜひこの力を奮わせてください……!」
「聖女様が来てくださるなんて……っ! ま、まずは村長のところへ案内しますねっ」

 耳まで真っ赤にしながら、もたつきつつ足早に村長のところに案内してくれる男性。動揺しているのが見てとれて微笑ましい。

 はぁ……眼福。物憂げなイケメン素敵。

 胸がきゅんきゅんと高鳴り、惚けたような顔をしていると横から小声でヴィルが指摘してくる。

「……さっきと言ってること違うぞ」
「ん? 何が?」
「言い方。というか、さっきからその猫撫で声はなんなんだ。気味が悪いんだが」
「何のことかしら? 私はいつもこの声よ?」
「まさかとは思うが……あの陰気そうな男がいいのか?」
「陰気そうとか言わないで。物憂げで儚そうなイケメンじゃない。はぁ……素敵」
「守備範囲広すぎだろ」

 ヴィルに呆れたように言われるが、好みなのだから仕方がない。性癖に刺さってしまったものはどうしようもないのだ。

「アレならオレの方がいい男だろ」
「何よ、嫉妬?」
「違っ、嫉妬じゃない! ただの一般論だ! とにかく、好みの男だからって必要以上にデレデレするなよ。過度に甘やかすのは……」
「わかってるわかってる。あくまで聖女としての案件が第一で、次に婚活でしょ? ちゃんと弁えてますよーだ」
「絶対わかってないだろ」

 小声でやり合っていると、村長の家に着く。村長の家というだけあってとても立派な建物であった。

「これはこれは、貴女が聖女様ですか! お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
「ありがとうございます。お邪魔させていただきます」

 先程の男性が近くにいると思うと下手な行いはできない。私は聖女らしく淑女として振る舞い、すまして見せる。
 そんな姿をジト目で見つめてくるヴィルを気づかないフリをしながら、私は勧められた席に着いた。

「聞いていましたお話とは違い、お若くいらっしゃって驚きました」
「最近、世代交代致しまして。先代の聖女ではこちらに参れなかったとのことで早速参りました」
「なんと……! 聖女様のお優しい寛大なお心遣い、感謝致します!」
「いえいえ、国のため……いえ、国民のためなら当然ですわ」
「……よく言う。結婚相手探しが目的のくせに」

 小声で嫌味を言うヴィル。
 私が密かにパチンと指を鳴らすと「熱っ!」とヴィルは声を上げて飛び跳ねた。村長に「どうかされましたか?」と不審な目で見られているのを見て溜飲を下げる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

男女比1/100の世界で《悪男》は大海を知る

イコ
ファンタジー
男女貞操逆転世界を舞台にして。 《悪男》としてのレッテルを貼られたマクシム・ブラックウッド。 彼は己が運命を嘆きながら、処刑されてしまう。 だが、彼が次に目覚めた時。 そこは十三歳の自分だった。 処刑されたことで、自分の行いを悔い改めて、人生をやり直す。 これは、本物の《悪男》として生きる決意をして女性が多い世界で生きる男の話である。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...