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巨牛モンスター
しおりを挟む意味不明な高揚感に包まれて、空腹も忘れいつの間にか全力疾走をしていた。体がやけに軽く感じ、まるで風になったような気分だ。
「気もちぃい!いやっほぅ!!」
今までは苦労して超えていた巨岩も一気に跳びあがり、飛び降り、僕をみてびっくりしている野生の動物をしり目に飽きるまで走り倒した。
気が付くと潮の香りがしている。崖の縁まで行くと、遠くに真っ白な砂浜とキラキラと陽光を反射する海面が見えた。
いつの間にか僕は数百キロを疾走して南の海岸に到達していたのだ。
「すげえぇえ」
その美しさに感動して、一刻も早く砂浜に達しようと更に走り出す。そこから小一時間も走り、南の浜にでた。
一息ついて砂浜に腰を下ろし、浜を撫でるさざ波の音に聞き入る。
ザザー‥‥ザザザー‥‥
その変化しつつも単調なノイズが心地よくていつまでも浜風と音に身をゆだねて居た。どれだけ経ったか覚えていないが陽が大分傾いた頃に後ろから突然声がする。
「お、あんなところに」
「兄貴、丁度いいですぜ」
なんだろう?と振り向くと10人を超える賊がワラワラとこちらに歩いてくる。でも僕は慌てない、なにせ無一文なのだから。
「おい!お前!」
「えっへっへっへ」
「おら!立てよ!」
賊は口々に罵り僕を煽る。
「僕は無一文だぞ、なにも持っていないんだ」
「へっ!信じられるかよ!」
「全部脱げ!」
それで少し腹が立ったが、僕はレベル1で最弱だ。逆らわずに着ている上着とズボンを抜いで渡す。
「あれ?本当だ、兄貴こいつマジでなにももってませんぜ」
「なんだとぉ‥‥しけた野郎だな」
「まぁいい、こいつを捕まえて奴隷にして売り飛ばせ」
「な!‥‥」
それで一応僕のヨレヨレの服は返してもらえたので着るとそのまま賊に連行されしまった。いやだったけど多勢に無勢、絶対に勝てるわけもなく初めから諦めていたのだ。
「おう、おとなしいのは良い事だぞ、へっへっへっへ」
子分の1人が僕の腕をロープで縛り上げて連行する。その後、賊の馬車に乗せられると僕の他に似たようにして捕まった女の子が3人乗っていた。3人とも口にさるぐつわを噛まされ声すら上げられないようにされていた。
「これは酷い‥‥」
噂には聞いていたけど、本当に居たのだ。現実を目の当たりにすると沸々と怒りがこみあげて来た。もし僕が強い冒険者だったら、こんな奴らコテンパンに痛めつけてやるのに‥‥。
その馬車で暫く揺られていると、突然とまって叫び声が聞こえてくる。
「ぎゃぁああ、兄貴~~」
「良いから逃げろ!!」
何が起ったのか?閉じられた馬車の幌の隙間から外を覗くと、賊が大急ぎで馬や徒歩で来た道を逃げて行くのが見えた。
ズーンズーンズーンズーン!
凄く大きな足音が聞こえ、これは間違いなく巨獣クラスのモンスターだと悟った。その瞬間僕は全力で後ろ手に縛ってある縄を解こうとあがいた‥‥すると簡単に外れる。
ポロッ‥‥
「あれ?まぁいいや、皆ここでじっとしてて」
丁度その時馬車がグワングワンと揺さぶられた。モンスターが人間の臭いを嗅ぎつけて馬車に襲いかかったのだと思い、僕は幌を思いっきり開き飛び出す。
「おーい!こっちだ!こっち!」
絶叫しながら賊が逃げ走っていった方向に向けて全力で走りだす。
ドーン!ズズン!ズズン!ズズン!ズズン!
僕を追いかけて走り出すモンスターの足音を聞きながらそのまま、走った。振り返ると恐怖で足がすくみそうになるので、振り向かずに全力で走るといつ間にか前に逃げ出した賊に追いついている。
「兄貴ーきたきたきたきた」
「うるせー」
賊は恐慌に捕らわれていた。
僕が走りながら石を拾い、それを前方の馬に投げつけると、ぶつかった馬が混乱して暴れて賊が落馬する。
「やった!」
僕は嬉しくなり、そのまま大ジャンプをして賊をまとめて跳び越える。
「いやっほぅうう」
少し走り後ろを振り向くと、巨牛のモンスターが仁王立ちをして賊の前に居た。
「ぎゃぁあああああああ」
ドドーン、ドドーン!
賊の悲鳴とモンスターの暴れる音がして、その隙に近くの高い木に上りその様子を眺める。
暫くしてモンスターが賊を腹いっぱい喰らってから谷底の方に歩き去るのを見て、僕はさっきの馬車に戻った。
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