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アルダイルは策士ですら無い

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王宮に剣聖と神仙の2人がやってきてから10日が経った朝に王宮に魔獣襲来の知らせが入って来た。


 俺とミューが毎朝定例の挨拶をしに王宮に行くと王がニコニコとして挨拶の後におしえてくれた。


 「いよいよ帝国の第3次攻撃が始まったようじゃ」

 「いつ頃砦に到着する予定ですか?」


 「明日の朝との観測がでておる、今回は街道の二方面からの同時攻撃の模様じゃ」

 「承知しました。それでは詳細は隊長殿から伺い、今晩から砦で待機することにしましょう」


 「宜しくお願いするのじゃ」

 「はい、行ってまいりますわ」


 ミューは王には可愛らしいお嬢様言葉で挨拶をしていた。傍目には不思議な少年だったが、王にだけはミューがお嬢様であることを伝えていたのだ。


 謁見の間をでていこうとしたところ、走ってやってくる伝令の近衛兵とすれ違った。


 「お急ぎお知らせいたします!只今、6番街で爆発がして魔獣の襲撃があったという目撃情報がはいりました!」


 近衛兵は息を切らせて、はぁはぁとしながら伝えた。


 「それはまことか!」

 「ハイ!」


 王は困ったという顔をして謁見の間の扉の所にいる俺とミューを見た。


 「良いですよ、隠密で対処しましょう」

 「それは有難い!」


 「では」と言って俺とミューは王宮の早馬で現場に駆け付ける事にした。




 王宮から暫く馬で走ると、現場からかなり離れた場所からもモクモクとした黒煙が上がっているのが見えた。その黒煙を頼りに馬を走らせると現場周辺は騒然として、逃げ出す市民、倒れている人々や救護に当たっている衛士の姿がみられた。


 一見して爆発は本物だとは分かったのだが、さっきから何度も全土感知を行っているが魔獣の気配は全くなかった。そして魔獣ではないが、敵意のある人の気配はいくつか感じた。


 「これは演出だな。ミューコンビ魔法をやろう」


 2人で手と額を合わせて詳細に調査をすると、5人の帝国軍の兵士が紛れ込んでいるのが見えた。それぞれが別々の所で大騒ぎしているのが分かる。同時に我々に好意的な夜鷹ともう一つの存在も察知した。彼等は手出しはして来ずに我々の動きを観察しているように感じた。


 「魔獣だぁ~!魔獣が出たぞー!」


 そいつは王国の衛士の装備を着込んでいるが、俺達にはバレバレであった。


 「おい、お前ちょっとまて」


 そいつがビクっとしてこちらを見たのでミューが暗示魔法を発動すると直ぐにくたっとして、操り人形のようになった。


 「よし、こっちにこい」


 順々に5人とも捕縛して、衛士の馬車に載せてテロの容疑者として王宮に送り届ける。





 謁見の間に連れて行きその場で王に彼らを問い正してもらう。


 「犯人はこいつらです、王よ」

 「うむ、流石じゃ‥‥‥全く素晴らしいとしか言いようがないのぅ」


 「この5人になんでも質問してみてください、全部正直に答えるようにしてあります」

 「なんと!‥‥‥では、全員の名前と所属を訊こうか、それぞれ順に答えよ」


 テロ容疑者が順に自分の名前と所属を答え始める。全員が帝国の専門の破壊工作員だった。


 「おお‥‥‥なんと」


 王はひとしきり驚いていた。こんなにスムーズに何もかもが明らかになる事など一度も無かったのだから当然だが。


 「次に、誰の指示でやったのか、それと魔獣‥‥‥真魔兵といったかな、それの王都攻撃は事実なのか?」

 「指示されたのはアルダイル様です、そして王都の真魔兵の攻撃は嘘です」


 「‥‥‥嘘なのか」

 「はい、混乱させる為の嘘です」


 「それで、その作戦の工作員は他にも居るのか?」

 「はい、今夜も波状攻撃を仕掛ける予定になっています」


 「なんじゃと!どこから侵入するのじゃ?」

 「7番街の検問と9番街の船着き場からです」


 王は手が震えていた。これほどの大規模のテロを用意周到に計画していたとは、やはりアルダイルという奴はとんでもない策士だった。


 王は側近の近衛兵に命令して全地区の点検と顔をしらぬ衛士の拘束、それと7日間をめどにした検問封鎖の指示をだした。



 「本当に助かったのじゃ‥‥‥まことに素晴らしい力じゃのぅ、まさに奇跡のようじゃ」


 王は謁見の間に残った俺とミューを大絶賛していた。今後の事は夜鷹に任せるので安心して砦に向かって欲しいという。



 「では」


 そういって一度楽園に戻って休憩することにした。夜まではしばらく時間があるのでミューとのんびりするのだ。








 「なに?!破壊工作が露見しただと!?」


 報告を受けたアルダイルは又も驚愕する事になった。その、破壊工作は完璧で成功の方程式通りに行われたはずだが、またしても相手の方が上手であったのだ。


 「これはどうなっているんだ?……こんなにも手こずるとは」


 今回の破壊工作の失敗はアルダイルを慌てさせるのに十分だった。そして、その結果アルは作戦を変更せざるを得なくなった。


 「こうなったら力押しで行くしかあるまい……総力戦だ!」


 その日、アルは派遣した真魔兵部隊に一時撤退を命じた。少し時間が掛かるが、全ての城に配備してある真魔兵を投入する事に決めたのだ。小手先の策が効かない相手なら力押しの一手、それがアルの流儀であった。




 そして、5日後。真魔兵の大軍勢が砦に迫っている事を告げる知らせが王宮に入ってきた。


 推定15体もの観測が報告され、王は震えていた。


 「いくら何でも……こんな物は防ぎようが無いではないか」


 だが、俺はミューの肩をポンとしながらアッサリと答える。


 「大丈夫、この子が居れば誰が相手でも追い返しますよ」


 王は俺の言葉を信じられぬという、絶望的な顔で見返していた。余りにも言葉が軽くそして楽観的すぎて実感が沸かないのだ。


 「ふぅー……」


 王は深いため息をついた。

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