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信頼の力

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1週間後に密偵が戻ると帝国の内部では衝撃が広がていた。


 「剣聖のアギトと神仙のブラーフだと?!」


 密偵から報告を受けたアルダイルは少し、という以上に動揺していた。剣聖のアギトというのは以前生意気にも単騎で猿真魔兵とやり合った奴で厄介だったのだが、特に同盟との契約もなくそれっきり出て来なくなったので安心していたのだ。だが今度は伝説の神仙と言われたブラーフとかいう魔法使いの老人までが同盟側に参加しているというのだ。


 ブラーフに関しては殆どまともな資料が存在しないが、都市伝説ではこの老人は超絶の魔法力を持って居ると言われていた。ここ100年以上下界に降りて来たという記録が存在しないので放置しておいたのだが、ここに来て剣聖と共に同盟の盟主であるダレーシア国に入国していると言うのだ。


 「はい、この2名による共同作戦であった可能性が高いと判断しました」


 帝国の密偵は完全に取違をしていた。砦の防衛での神力のような超絶な力によって真魔兵を打ち取ったと言われる2人組。それが剣聖と神仙だと勘違いしていたのだ。だが、それも仕方がない事であった。絶妙なタイミングで2人がダレーシア国に来て王に謁見したという噂が広まっていた事と、2人の神秘的な経歴が密偵の勘違いをもたらしたのだ。


 「神仙のブラーフとはどういう者なのだ?」

 「は、それが‥‥‥」


 密偵は言い淀んでしまう。


 「ハッキリと言え」

 「はい‥‥‥実は詳細に調査を行うまえにこちらの素性が察知されまして、逃亡してまいりました」


 「‥‥‥なんだと!」

 「申し訳もございません」


 密偵の声は小さくなり今にも消え入りそうになっている。この密偵は手練れの者だったのでアルダイルは信用していただけにショックが大きかった。


 「なぜバレた?」  

 「恐らく魔法、法力の類かと存じます、接近するまえに察知されてしまいました」


 「証拠は残してこなかったであろうな?」

 「はい、それは大丈夫であります」


 「クソッ!」


 アルダイルは壁を蹴飛ばして怒鳴った。敵の方がこちらの密偵よりも索敵能力が高いのではどうにもならないのだ。


 「こうなったら、偽の噂を流して情報戦と国内のかく乱に持ち込むしかあるまい」

 「どのようにいたしましょうか?」


 「大量の爆薬と、輸送業者を抑えて置け。あとは王子には我の方から許可を取っておく」

 「承知しました」


 それは、情報かく乱と爆破テロによる混乱を狙ったものだった。いくら敵の攻撃力が高かろうが2方面を同時に守り切れるものではない。国内で事件を起こして、魔獣の襲撃を叫ばせる。国内をパニックに誘導できればオマケで国王の信頼の失墜も狙えるという計算もあった。計画通り行けば砦の剣聖か神仙の1人を王宮の防衛に回して来るはず、そうなれば砦は絶対に落ちるのだ!


 アンダークの砦。アルにとって、ここだけは何としてでも落としておきたかった。街道の戦略的な拠点としても重要だが、それ以上にこの砦が同盟にとっての唯一の希望であるだけに潰して置きたかったのだ。


 「しかし、下界に興味がないと伝承に書かれているのに今頃になって山を下りてくるとはな、まぁいいだろう。今度は絶望を味合わせてやる、下界に降りて来た事を後悔するのだ」


 アルダイルは今までの損失とこれからの軍事力、主に真魔兵の再配置について地図を広げその上に駒を置き戦略を練っていた。こちら側にあった真魔兵の駒を3つ下げて、同盟側の前線の守備に回していた駒をアンダーク砦周辺の2方向の街道に集めて再配置する。その数総計5体。


 「これで終わりだ」


 アルは口をゆがめてにやりと笑った。







 ダレーシア国の王宮では国王がラルフと毎日の定例打合せを行っていた。


 「アンダーク砦の模様替えは進んでおるか?」

 「はい、国王。国内の石工職人の総がかりで強化と飾り付けが進んでおります、皆やる気満々でとても作業が捗っております」


 「おお、それは素晴らしい、それから同盟への宣伝は進んでおるか?」

 「そちらの首尾も完璧に近くなっております、今やアンダーク砦は永久に落ちる事のない無敵の砦と言われております」


 「うむ、よいよい!」

 「それで少し私から提案があるのですが」


 「何じゃ?」

 「はい、砦の外装だけでなく内装も整えても良いかと思います」


 「内装に何か不備でもあるのか?」

 「いえ、そうではありませんが、ゆくゆくは同盟の外交官もお招きする事になるかと思いますので‥‥‥」


 「なるほど、それもそうじゃな。それではあまり豪華になり過ぎない程度であれば国庫に溜めてある資材を使って構わんぞ」

 「はい、ありがとうございます、では早速手配いたします」


 ラルフは一礼してサッと謁見の間を出て行った。王はその頼りがいのある背中を見送った。このところラルフは寝る間も惜しんで本当に忙しく働いていた。王はそんな彼がとても頼もしく思えていた。

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