上 下
48 / 52

信頼の力

しおりを挟む
1週間後に密偵が戻ると帝国の内部では衝撃が広がていた。


 「剣聖のアギトと神仙のブラーフだと?!」


 密偵から報告を受けたアルダイルは少し、という以上に動揺していた。剣聖のアギトというのは以前生意気にも単騎で猿真魔兵とやり合った奴で厄介だったのだが、特に同盟との契約もなくそれっきり出て来なくなったので安心していたのだ。だが今度は伝説の神仙と言われたブラーフとかいう魔法使いの老人までが同盟側に参加しているというのだ。


 ブラーフに関しては殆どまともな資料が存在しないが、都市伝説ではこの老人は超絶の魔法力を持って居ると言われていた。ここ100年以上下界に降りて来たという記録が存在しないので放置しておいたのだが、ここに来て剣聖と共に同盟の盟主であるダレーシア国に入国していると言うのだ。


 「はい、この2名による共同作戦であった可能性が高いと判断しました」


 帝国の密偵は完全に取違をしていた。砦の防衛での神力のような超絶な力によって真魔兵を打ち取ったと言われる2人組。それが剣聖と神仙だと勘違いしていたのだ。だが、それも仕方がない事であった。絶妙なタイミングで2人がダレーシア国に来て王に謁見したという噂が広まっていた事と、2人の神秘的な経歴が密偵の勘違いをもたらしたのだ。


 「神仙のブラーフとはどういう者なのだ?」

 「は、それが‥‥‥」


 密偵は言い淀んでしまう。


 「ハッキリと言え」

 「はい‥‥‥実は詳細に調査を行うまえにこちらの素性が察知されまして、逃亡してまいりました」


 「‥‥‥なんだと!」

 「申し訳もございません」


 密偵の声は小さくなり今にも消え入りそうになっている。この密偵は手練れの者だったのでアルダイルは信用していただけにショックが大きかった。


 「なぜバレた?」  

 「恐らく魔法、法力の類かと存じます、接近するまえに察知されてしまいました」


 「証拠は残してこなかったであろうな?」

 「はい、それは大丈夫であります」


 「クソッ!」


 アルダイルは壁を蹴飛ばして怒鳴った。敵の方がこちらの密偵よりも索敵能力が高いのではどうにもならないのだ。


 「こうなったら、偽の噂を流して情報戦と国内のかく乱に持ち込むしかあるまい」

 「どのようにいたしましょうか?」


 「大量の爆薬と、輸送業者を抑えて置け。あとは王子には我の方から許可を取っておく」

 「承知しました」


 それは、情報かく乱と爆破テロによる混乱を狙ったものだった。いくら敵の攻撃力が高かろうが2方面を同時に守り切れるものではない。国内で事件を起こして、魔獣の襲撃を叫ばせる。国内をパニックに誘導できればオマケで国王の信頼の失墜も狙えるという計算もあった。計画通り行けば砦の剣聖か神仙の1人を王宮の防衛に回して来るはず、そうなれば砦は絶対に落ちるのだ!


 アンダークの砦。アルにとって、ここだけは何としてでも落としておきたかった。街道の戦略的な拠点としても重要だが、それ以上にこの砦が同盟にとっての唯一の希望であるだけに潰して置きたかったのだ。


 「しかし、下界に興味がないと伝承に書かれているのに今頃になって山を下りてくるとはな、まぁいいだろう。今度は絶望を味合わせてやる、下界に降りて来た事を後悔するのだ」


 アルダイルは今までの損失とこれからの軍事力、主に真魔兵の再配置について地図を広げその上に駒を置き戦略を練っていた。こちら側にあった真魔兵の駒を3つ下げて、同盟側の前線の守備に回していた駒をアンダーク砦周辺の2方向の街道に集めて再配置する。その数総計5体。


 「これで終わりだ」


 アルは口をゆがめてにやりと笑った。







 ダレーシア国の王宮では国王がラルフと毎日の定例打合せを行っていた。


 「アンダーク砦の模様替えは進んでおるか?」

 「はい、国王。国内の石工職人の総がかりで強化と飾り付けが進んでおります、皆やる気満々でとても作業が捗っております」


 「おお、それは素晴らしい、それから同盟への宣伝は進んでおるか?」

 「そちらの首尾も完璧に近くなっております、今やアンダーク砦は永久に落ちる事のない無敵の砦と言われております」


 「うむ、よいよい!」

 「それで少し私から提案があるのですが」


 「何じゃ?」

 「はい、砦の外装だけでなく内装も整えても良いかと思います」


 「内装に何か不備でもあるのか?」

 「いえ、そうではありませんが、ゆくゆくは同盟の外交官もお招きする事になるかと思いますので‥‥‥」


 「なるほど、それもそうじゃな。それではあまり豪華になり過ぎない程度であれば国庫に溜めてある資材を使って構わんぞ」

 「はい、ありがとうございます、では早速手配いたします」


 ラルフは一礼してサッと謁見の間を出て行った。王はその頼りがいのある背中を見送った。このところラルフは寝る間も惜しんで本当に忙しく働いていた。王はそんな彼がとても頼もしく思えていた。

しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

隠された第四皇女

山田ランチ
ファンタジー
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...