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ダレーシア王国防衛戦へ

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まず、初めに取り掛かったのは北のガンドア大陸の勢力調査だった。大陸の町々で市民に訊き込みを行うと全体像が見えて来た。


 この大陸では現在では大きく勢力が二分されていて、東側の約半分をロンバルキア帝国が支配している。そこにアルダイルが入り込んで加担しているのは間違いない。そして西側は大アイギス同盟という複数の諸国が加盟するの軍事同盟があり、ロンバルキア帝国の侵略に対抗していた。


 抵抗と言っても実際には連戦連敗であり、もはや政治的にも、軍事力的にも敗色濃厚であった。最近では同盟から離脱して帝国への敗北を認め、屈従して植民地になる事を受け入れようという国まで出始めているのだ。


 その同盟の中での筆頭のダレーシア国の王は悩んでいた。軍事費は底を尽き、前線に赴く兵士は激減し、国民の厭戦気分が蔓延し始めたのだ。連戦連敗して敗北していった国々が悲惨な末路をたどった事の噂が広まると一気に反戦への国民の運気が盛り上がり始めていた。


 諸国の中で最大規模を誇り、唯一貴族制を廃止した絶対君主制のダレーシア国ですらこの体たらくである。


 前線に着く兵士が激減した事を受けて、ダレーシアでは国中の荒くれ者やマフィア、自称冒険者の類も無選別に緊急募集していた。もはや贅沢を言っている場合ではないのだ、誰であろうが前線で戦ってくれるだけで御の字なのだった。







 俺とミューはダレーシアの王都の派遣斡旋ギルドで王国の兵士募集に申し込んだ。なるべく目立たずにアルダイルの率いる化け物を始末して、裏から同盟を支えて帝国の侵略を阻止しようという事になったのだ。


 この世界の文字は読めないし、書けもしないのだが今はどんな人でもOKだという。


 「念のためお兄さんの職業を聞かせてください、あとお嬢さんも行くのかい?」

 「俺達の前職は聖霊守護騎士、そしてこの子も歴戦の冒険者として戦う予定だ、いいかい?」


 「ええ。守護‥‥‥騎士ね。つまり騎士てことね、それは心強い、早速だが明日出陣式が有るので王宮前広場に朝8時にこれ持って集まってくれ」


 と、ギルド受付の爺さんが俺とミューに前金と首飾りのようなものを差し出す。


 「これは?」

 「認識票だ、これがあれば死んでも身元の確認くらいはできるからな‥‥‥ああ、お兄さんたちなら大丈夫だ死なないよ」


 などと気休めを言う。俺たちは使い捨ての前線の駒として投入されるのだから、死んで当然の身分なのだ。


 「ああ、宿ならこの先にあるから紹介状を持って行ってくれ」


 と言って王国のサイン入りのビラを貰う。そのあと、案内役というのがやって来て俺達を宿まで案内してくれた、至れり尽くせりだと思ったのだが‥‥‥前金だけ取って逃げる奴が多いらしい事がそれで判った。





・ 

 翌朝起きると、既に宿屋の荒くれもの達は準備に入っていて俺とミューは朝食もそこそこにして案内役に連れられて王宮前に向かった。広場にはすでに大勢があつまっている、みなどこか雰囲気が荒んでいて常人ではない事が判る。ミューを見つけた彼らの目つきが怪しいので、俺はこっそりと2人で後ろを向いてミューに魔法を掛けて、ミューを少年の顔にした。


 「ごめんな、少し我慢してくれ」

 「いいの」


 とミューは言葉少なに許してくれた。




 会場に設置された演壇に、諸国の作戦統合本部の前線指揮官だというアルキメデク准将が立ち演説をおこなっていた。


 「‥‥‥であるからして、我が陣営の最重要拠点の防衛を諸君等にしてもらう事になる」


 話の細かい内容はよくわからないが、つまり王国の防衛拠点で帝国の尖兵としてやってくる怪物の攻撃に耐えてくれ、と言う事だけは判った。それからの、話の続きは武勲によっては作戦本部の参謀として迎えるだの、莫大な報奨金を用意してあるだのと言った事だったのでほとんど聞き流していた。


 そんな事よりも全土感知をして周辺の異常を探るほうが重要だったのだ。調査の結果、特に敵意の気配はなかったのだが、少し気になる事があった。俺の全土感知に反応したかのようにして大きな気配が5つ消えたのだ。


 「ふむ‥‥‥」

 「アキ、どうしたの?」

 「いや、危険はないようだけど何か居たみたいだ」


 「えー!であるからして、今回の防衛任務は非常に重要なのである!諸君の頑張りに大いに期待するところである!」


 ドーン!ドーン!


 准将の演説が終わったようで、終了の合図のドラムがなる。


 「それでは、皆さんはこちらに来てください」


 と、その直後に案内役が登壇して移動荷馬車に全員を誘導していく。怪しまれてもいけないので2人もその指示に従い狭い輸送用の馬車に乗せられて移動する。


 その防衛拠点というのは、王宮からそれほど離れて居なくて馬車で半日の距離にあった。昔はそこが王国の城塞であった事は見て取れたのだが、今は放棄されたボロボロの砦だ。馬車から降りてそれを見た御同輩はみな口々に不平を言う。


 「こんなもので防衛なんてできるのかよ」

 「弓の塔すら、使えるものは半分も無いじゃないか‥‥‥」

 「投擲具はあるのか‥‥‥?」


 彼らの気持ちはよくわかる、俺だって魔法もなしにこんな拠点の防衛を任されたら同じ気分になるだろう。


 だが、俺とミューは一応は歴戦の戦士としての視点ももっていた。その砦としての急所や長所、隠れる場所の調査もあっという間にすまして、傭兵休憩所に集まった。


 「あの塔の裏側が陰になって居て丁度いいな」

 「はい!あそこなら見られずに‥‥‥使えると思います」 


 2人でニヤリとして、休憩所で振る舞われる飲み物と軽食を楽しんだ。

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