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サンティと異国
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俺たちは町に戻る事なくそのままサンティの遺跡に向かった。
サンティ……そこはおぞましい程に精霊気が枯渇している遺跡だった。通常……精霊気が枯れている場所というは時々はあるが、それでも極限られた場所であってサンティのように全域が枯渇しているという事はあり得ないのだ。例え砂漠地帯であっても土や風の精霊気を感じられるのが普通だ。
魔神によって滅ぼされたと言われる今は砂に埋もれている古代都市、その伝説が真実でることを俺は素肌感覚で感じ取っていた。魔神の正体は判らなくても、かつてそこで禍々しい大事件が起こったのは間違いないと感じたのだ。そして、その凶事はまだ終わっていないという予感もあった。
「アキ……ここ……」
「ああ、判っている……ここにはまだ何かある、気がする」
「私、アキに行ってほしくない」
「どうしたんだ?急に」
「今回引き受けたのは魔物の討伐だけだったもの……アキにもし何かあったら」
「心配してくれたのか、ありがとう。でも大丈夫だ、俺にはお前が居るしコレもある」
と言ってカバンから精霊気を満タンに充填したエナジーキューブを取り出して見せる。
「……」
「お前が居てくれれば大丈夫だ、それに危なくなったら直ぐに撤退するから」
「本当ですか?」
「ああ、約束する」
通常、俺は不審な地域への侵入、探索の際には必ず全土感知の土魔法を使うのだが、ここには精霊気がまるでないのでそれも出来ない。ミューはおそらくそれも心配だったのだろう。だが、俺にはミューが付いているのだ。魔力はモチベーションでカバーできるという事も判っている。
「ここは何時かは攻略しなければならないだろうと思う」
それが今であるかどうかは別にして、さっきのような魔物を産みだしている根源だと思われたのだ。
遺跡の上を飛び、俯瞰している分には特に魔物の気配も感じないし、危険と思われるようなものも発見できなかった。それで一旦降りて徒歩で探索をする事にした。
・
・
・
やはり、とくに何もおかしなものは見つからない。さっき見たような黒光りする石板でもあればと思ったのだが……。これでは埒があかないので、半分以上が砂に埋もれているこの遺跡全体を風の精霊の力を借りて俺とミュー全員で掃除をすることにした。つまり、砂を撤去する工事を始めたのだ。
「グレートトルネード!」
ミューが本気を出すと、とんでもない事になると言う事を俺はその時に知った。ミューの風魔法が巻き起こす竜巻は周辺の気候を操作して、地域全体に巨大な竜巻を巻き起こしたのだ。雷鳴と巨大な暴風が荒れ狂い、遺跡周辺は天変地異のようになってしまっていた。俺の土系の魔法では砂を飛びやすくする補助的なものしか使って居ない。
ゴゴゴゴゴゴ!!!カリカリカリ!ドカーン!!ゴゴゴゴゴゴ!!!ピシャー!!ドカーン!
常人がそれを目撃したら神に懺悔して祈り出すであろうその凄まじい光景は、だがあっけなく終了した。掃除が終わったのだ。
地表を覆っていた砂はあらかた取り除かれ、古代の都市の姿を現した。巨石で出来ている巨大な建造物はそのまま残っていたのだ。単に砂に埋もれていたというだけに見えるそれらは、その砂に埋もれていたので形が残っていたのだという風にも見えた。
「ミュー、お前凄いな」
「へへ……」
俺は久しぶりにミューを褒めた気がした。これまでミューの力を正当に評価していなかったのは間違いなかった。大魔女の伝説は伊達ではないのだ。
「あそこに神殿らしいものがある、行ってみよう」
「はい」
整然と敷き詰められた美しい石畳みの通路のずっと前方に巨大な神殿が見えた。近寄ると、その神殿の巨石で出来た扉が閉じている、それを俺の土魔法で解放した。
「ゲートオフ」
その巨大で重厚な一枚岩の扉が上にスライドして開いた。
ガガガガガガガガ……
巨大で荘厳なとしか言いようがないその神殿の内部には何もなかった。ガランとした空洞が広がっていて、生物の気配がない。数千年そこは、無人のまま放置されたという印象だ。
「凄いな、これは」
「なにか……います」
だが、俺以上に空気に敏感なミューがそう言って神殿の奥にある祭壇を指さした。近寄ると、その祭壇の上には何か人工的な機械のようなものが転がってあった。それは設置してあるというよりも無造作に転がしてあるという風に見えたのだ。
その人工的で無機質な、黒光りする金属の造形はどこかで見た覚えがあった……そうだ、ガリアントで見た、黒服が手にしていた魔導兵器に似た雰囲気をもっていたのだ。ただ、手で握り持つような形にはなってなく、テーブルなどの上に置いて使うという大きさと形状をしていた。グリップがあり、そこに手を置きそのままレバーを握る……その形状自体は黒服が持って居たそれとそっくりだ。
「これは……」
「アキ、触らないほうがいいと思うの……」
確かにこれはなにかの装置で、動くのかどうかは分からないがやはり危険なもののようにみえたのだ。さて、ここで二択に迫られた。このまま放置してこの神殿を元の砂の下に沈めて帰るか、それともこれを動かして試してみるか……。
「やってみよう」
この神殿に入った時から心は決まっていたのだ、スローライフもいいが元来、探索大好きな心が俺を突き動かした。
ミューが緊張して見守る中、俺はその引き金をゆっくり引いた。いや引こうとしたが、さび付いていて簡単には動かなかった。だが、徐々に力を入れるとあっけなく動いた。
チンッ!
と乾いた鉄の音を響かせて、何も変化は起こらなかった……。
「ふぅ、何もなかったな」
と、後ろにいるミューを振り返ると、ミューの顔色が変わっている。
「ああ、あの、あの」
と言って後ろを指さす。振り返り見ると黒い渦がグルグルと回っていた。
これは間違いなく、あの異国へ飛ばす渦だった。
2人でそれを暫く見ていると、渦は次第に遠のき、そう遠のくようにして消えたのだ。
シュン……!
「もしかしてこれって……」
「転移空間の発生装置、かな」
俺は判り切ったことを言った。
サンティ……そこはおぞましい程に精霊気が枯渇している遺跡だった。通常……精霊気が枯れている場所というは時々はあるが、それでも極限られた場所であってサンティのように全域が枯渇しているという事はあり得ないのだ。例え砂漠地帯であっても土や風の精霊気を感じられるのが普通だ。
魔神によって滅ぼされたと言われる今は砂に埋もれている古代都市、その伝説が真実でることを俺は素肌感覚で感じ取っていた。魔神の正体は判らなくても、かつてそこで禍々しい大事件が起こったのは間違いないと感じたのだ。そして、その凶事はまだ終わっていないという予感もあった。
「アキ……ここ……」
「ああ、判っている……ここにはまだ何かある、気がする」
「私、アキに行ってほしくない」
「どうしたんだ?急に」
「今回引き受けたのは魔物の討伐だけだったもの……アキにもし何かあったら」
「心配してくれたのか、ありがとう。でも大丈夫だ、俺にはお前が居るしコレもある」
と言ってカバンから精霊気を満タンに充填したエナジーキューブを取り出して見せる。
「……」
「お前が居てくれれば大丈夫だ、それに危なくなったら直ぐに撤退するから」
「本当ですか?」
「ああ、約束する」
通常、俺は不審な地域への侵入、探索の際には必ず全土感知の土魔法を使うのだが、ここには精霊気がまるでないのでそれも出来ない。ミューはおそらくそれも心配だったのだろう。だが、俺にはミューが付いているのだ。魔力はモチベーションでカバーできるという事も判っている。
「ここは何時かは攻略しなければならないだろうと思う」
それが今であるかどうかは別にして、さっきのような魔物を産みだしている根源だと思われたのだ。
遺跡の上を飛び、俯瞰している分には特に魔物の気配も感じないし、危険と思われるようなものも発見できなかった。それで一旦降りて徒歩で探索をする事にした。
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やはり、とくに何もおかしなものは見つからない。さっき見たような黒光りする石板でもあればと思ったのだが……。これでは埒があかないので、半分以上が砂に埋もれているこの遺跡全体を風の精霊の力を借りて俺とミュー全員で掃除をすることにした。つまり、砂を撤去する工事を始めたのだ。
「グレートトルネード!」
ミューが本気を出すと、とんでもない事になると言う事を俺はその時に知った。ミューの風魔法が巻き起こす竜巻は周辺の気候を操作して、地域全体に巨大な竜巻を巻き起こしたのだ。雷鳴と巨大な暴風が荒れ狂い、遺跡周辺は天変地異のようになってしまっていた。俺の土系の魔法では砂を飛びやすくする補助的なものしか使って居ない。
ゴゴゴゴゴゴ!!!カリカリカリ!ドカーン!!ゴゴゴゴゴゴ!!!ピシャー!!ドカーン!
常人がそれを目撃したら神に懺悔して祈り出すであろうその凄まじい光景は、だがあっけなく終了した。掃除が終わったのだ。
地表を覆っていた砂はあらかた取り除かれ、古代の都市の姿を現した。巨石で出来ている巨大な建造物はそのまま残っていたのだ。単に砂に埋もれていたというだけに見えるそれらは、その砂に埋もれていたので形が残っていたのだという風にも見えた。
「ミュー、お前凄いな」
「へへ……」
俺は久しぶりにミューを褒めた気がした。これまでミューの力を正当に評価していなかったのは間違いなかった。大魔女の伝説は伊達ではないのだ。
「あそこに神殿らしいものがある、行ってみよう」
「はい」
整然と敷き詰められた美しい石畳みの通路のずっと前方に巨大な神殿が見えた。近寄ると、その神殿の巨石で出来た扉が閉じている、それを俺の土魔法で解放した。
「ゲートオフ」
その巨大で重厚な一枚岩の扉が上にスライドして開いた。
ガガガガガガガガ……
巨大で荘厳なとしか言いようがないその神殿の内部には何もなかった。ガランとした空洞が広がっていて、生物の気配がない。数千年そこは、無人のまま放置されたという印象だ。
「凄いな、これは」
「なにか……います」
だが、俺以上に空気に敏感なミューがそう言って神殿の奥にある祭壇を指さした。近寄ると、その祭壇の上には何か人工的な機械のようなものが転がってあった。それは設置してあるというよりも無造作に転がしてあるという風に見えたのだ。
その人工的で無機質な、黒光りする金属の造形はどこかで見た覚えがあった……そうだ、ガリアントで見た、黒服が手にしていた魔導兵器に似た雰囲気をもっていたのだ。ただ、手で握り持つような形にはなってなく、テーブルなどの上に置いて使うという大きさと形状をしていた。グリップがあり、そこに手を置きそのままレバーを握る……その形状自体は黒服が持って居たそれとそっくりだ。
「これは……」
「アキ、触らないほうがいいと思うの……」
確かにこれはなにかの装置で、動くのかどうかは分からないがやはり危険なもののようにみえたのだ。さて、ここで二択に迫られた。このまま放置してこの神殿を元の砂の下に沈めて帰るか、それともこれを動かして試してみるか……。
「やってみよう」
この神殿に入った時から心は決まっていたのだ、スローライフもいいが元来、探索大好きな心が俺を突き動かした。
ミューが緊張して見守る中、俺はその引き金をゆっくり引いた。いや引こうとしたが、さび付いていて簡単には動かなかった。だが、徐々に力を入れるとあっけなく動いた。
チンッ!
と乾いた鉄の音を響かせて、何も変化は起こらなかった……。
「ふぅ、何もなかったな」
と、後ろにいるミューを振り返ると、ミューの顔色が変わっている。
「ああ、あの、あの」
と言って後ろを指さす。振り返り見ると黒い渦がグルグルと回っていた。
これは間違いなく、あの異国へ飛ばす渦だった。
2人でそれを暫く見ていると、渦は次第に遠のき、そう遠のくようにして消えたのだ。
シュン……!
「もしかしてこれって……」
「転移空間の発生装置、かな」
俺は判り切ったことを言った。
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