15 / 52
追跡
しおりを挟む
「ここみたいです」
と、ミューがいう。その巨大な建物は来る者を見下して威圧するかのようだ。周りの建物よりも数倍高く、上層階は低空の雲に隠れていた。建物を出入りする人々を観察していると殆ど全員が軍服のような同じ服装をしている事に気が付いた。
「ここには簡単には入れないだろう」
酒場などで流される噂というのは大抵こういう国の機関の情報操作だったりするものなのだ。内部にいた人間なのでそのくらいの事は心得ていた。うかつに近寄ると簡単に捕縛される。
ひとまず近所のどこかで監視できる宿でも見つけようかと思っていた所、逆にこちらが監視されていたようだった。軍服の他の連中とは違った風袋の2人組が建物から出てきてこちらを一瞥したのだ。それも計画の内に入っていたので対応は出来ていた。
「監視されていたみたい」
と俺の風君が教えてくれる。
「それでは計画通りに一旦引いて捕まえるからついてきて」
とミューに言い、2人で近くの建物の脇の、先が行き止まりになっている狭い路地に入り込む。歩みながら彼らが後をついてくるのを確認して土魔法を幾つかセットしておく。
「スキンシール」
「アーマープロテクション」
「ゴーレムハンド」
そして、突き当りで振り向き追い込まれた風を演じる。
「何でしょうか?怖いなぁおじさんたち……」
とスキンシールで10代に化けた俺が言う。軍服でない、黒服の彼らは勝ち誇ったように冷笑して何かの鉄の塊の禍々しい魔道具のようなものをこちらに向けた。
「動くんじゃない」
「動いてませんよ」
「黙れ!そのまま両手をこちらに向けて上げろ!」
俺は手を上げるフリをしながら魔法防壁を唱えた。
「アースウォール」
ヴォーンと鈍い音を発して彼らの後ろに魔法の大壁が立ち上がる。
それで、一瞬振り返って驚愕しながらこちらに向けた魔道具を爆発させた。
「何をした!」
パンパン!
と乾いた音がして火の精霊気を纏った小さなつぶてが飛んでくるのが見えた。それらは俺の顔の直前で軽い音をさせて弾かれた。
カン!キン!
アーマープロテクションが効いているのだが、見た感じではそれほどの火力はないのでプロテクションは要らなかったような気がした。
「子供相手に酷いですね、ではこちらから行きますよハンドオン!」
と言うと、巨大な2つの手が石板で舗装された地面をぶち破り現れて2人を鷲掴みにして身動きを封じた。
「ぎゃああ」
俺はミューにキスをしてラムに代わってもらう。
「宜しく、ラム」
「嬉しいわ……もっとキスして、でもその前にこのおバカさんたちにお仕置きをしなくちゃね」
と色っぽくいうと風魔法をとなえた。
「ブレインシャワー!さて色々と教えて頂きましょうか?全部教えてね」
「……はい、お嬢様」
「よろしい、では貴方たちは何?何をしている組織なの?」
「破壊工作を行っております、お嬢様」
「あら、酷い事をしているのね、私たちの事はどおやって調べたの?」
「我々の組織は全土に5万人がネットワークを張っておりますので何かあればすぐに分かります、お嬢様」
「へぇ、大きいのね。それで私たちの事はどこまで把握しているの?」
「判りません、我々は指示を受けて先ほど活動を始めたばかりです、お嬢様」
俺はなぜ彼女が大魔法使いと恐れられていたのかと、その理由が少しだけ判ったような気がした、だが甘かった。
「そう、でも私たちを襲った事への罰は受けて貰わなければだめね、何がいい?火炙りかしら?」
その時、向かいの巨大な建物屋上から突然俺達を砲撃する音がした。
ドーン!ドーン!
と、明らかにこの2人の魔道具より火力は大きい。だが、アースウォールに弾かれてこちらには届かない。
俺はやや強めに土魔法のメテオシャワーを放ち牽制した。
ドガァーン!
とそれは上空で凄まじい爆発を起こし、俺達を狙っていた連中はそれで沈黙した。向かい側の建物が壊れていた、少しやり過ぎたようだ……。
「少し騒ぎが大きくなり過ぎたようだ、撤退しようか」
「残念ね、お仕置きはまた今度、じゃあね」
「はい、お嬢様」
俺たちは彼女の持って居るミニ箒に2人乗りして超速度で飛び去った。
「なかなか思い通りには行かないな……こういうのはあまり得意ではないし」
「そんな事はないわ、だって私の騎士様だもの、もっと自信をもっていいのよ」
「ありがとう、ラムはやさしいんだな……なぁ、さっきは本当にお仕置きする積りだったのか?」
「嘘よ」
「良かった……」
ラムはふふ、と意味ありげに笑った。
・
・
・
俺たちは少しやり方を変える必要があった。相手は巨大組織のようなので、それなりの手段を講じないといけないのだが、その選択に俺は葛藤していた。
「選択肢は2つ、1つは罠を張って彼らの上層部を釣る」
「それ良いわね」
「もう1つは、地道に調査をして上層部の連中を捕まえて吐かせる」
「それはあまり良くないわね」
ラムは刺激的な方を選ぶという性癖があるようだ。俺もどちらかと言うと、罠に掛けた方が簡単な気がしていたのだが、問題はどういう罠を仕掛けるかであった。
「アキの土魔法で木偶は作れますよね?」
「それは簡単だな」
「ならそれで行きませんか?」
「う~む、そうだね。何かいい案があれば聞かせてくれる?」
「その後でご褒美下さらない?」
「いいよ」
それは勿論キスの事だった。
と、ミューがいう。その巨大な建物は来る者を見下して威圧するかのようだ。周りの建物よりも数倍高く、上層階は低空の雲に隠れていた。建物を出入りする人々を観察していると殆ど全員が軍服のような同じ服装をしている事に気が付いた。
「ここには簡単には入れないだろう」
酒場などで流される噂というのは大抵こういう国の機関の情報操作だったりするものなのだ。内部にいた人間なのでそのくらいの事は心得ていた。うかつに近寄ると簡単に捕縛される。
ひとまず近所のどこかで監視できる宿でも見つけようかと思っていた所、逆にこちらが監視されていたようだった。軍服の他の連中とは違った風袋の2人組が建物から出てきてこちらを一瞥したのだ。それも計画の内に入っていたので対応は出来ていた。
「監視されていたみたい」
と俺の風君が教えてくれる。
「それでは計画通りに一旦引いて捕まえるからついてきて」
とミューに言い、2人で近くの建物の脇の、先が行き止まりになっている狭い路地に入り込む。歩みながら彼らが後をついてくるのを確認して土魔法を幾つかセットしておく。
「スキンシール」
「アーマープロテクション」
「ゴーレムハンド」
そして、突き当りで振り向き追い込まれた風を演じる。
「何でしょうか?怖いなぁおじさんたち……」
とスキンシールで10代に化けた俺が言う。軍服でない、黒服の彼らは勝ち誇ったように冷笑して何かの鉄の塊の禍々しい魔道具のようなものをこちらに向けた。
「動くんじゃない」
「動いてませんよ」
「黙れ!そのまま両手をこちらに向けて上げろ!」
俺は手を上げるフリをしながら魔法防壁を唱えた。
「アースウォール」
ヴォーンと鈍い音を発して彼らの後ろに魔法の大壁が立ち上がる。
それで、一瞬振り返って驚愕しながらこちらに向けた魔道具を爆発させた。
「何をした!」
パンパン!
と乾いた音がして火の精霊気を纏った小さなつぶてが飛んでくるのが見えた。それらは俺の顔の直前で軽い音をさせて弾かれた。
カン!キン!
アーマープロテクションが効いているのだが、見た感じではそれほどの火力はないのでプロテクションは要らなかったような気がした。
「子供相手に酷いですね、ではこちらから行きますよハンドオン!」
と言うと、巨大な2つの手が石板で舗装された地面をぶち破り現れて2人を鷲掴みにして身動きを封じた。
「ぎゃああ」
俺はミューにキスをしてラムに代わってもらう。
「宜しく、ラム」
「嬉しいわ……もっとキスして、でもその前にこのおバカさんたちにお仕置きをしなくちゃね」
と色っぽくいうと風魔法をとなえた。
「ブレインシャワー!さて色々と教えて頂きましょうか?全部教えてね」
「……はい、お嬢様」
「よろしい、では貴方たちは何?何をしている組織なの?」
「破壊工作を行っております、お嬢様」
「あら、酷い事をしているのね、私たちの事はどおやって調べたの?」
「我々の組織は全土に5万人がネットワークを張っておりますので何かあればすぐに分かります、お嬢様」
「へぇ、大きいのね。それで私たちの事はどこまで把握しているの?」
「判りません、我々は指示を受けて先ほど活動を始めたばかりです、お嬢様」
俺はなぜ彼女が大魔法使いと恐れられていたのかと、その理由が少しだけ判ったような気がした、だが甘かった。
「そう、でも私たちを襲った事への罰は受けて貰わなければだめね、何がいい?火炙りかしら?」
その時、向かいの巨大な建物屋上から突然俺達を砲撃する音がした。
ドーン!ドーン!
と、明らかにこの2人の魔道具より火力は大きい。だが、アースウォールに弾かれてこちらには届かない。
俺はやや強めに土魔法のメテオシャワーを放ち牽制した。
ドガァーン!
とそれは上空で凄まじい爆発を起こし、俺達を狙っていた連中はそれで沈黙した。向かい側の建物が壊れていた、少しやり過ぎたようだ……。
「少し騒ぎが大きくなり過ぎたようだ、撤退しようか」
「残念ね、お仕置きはまた今度、じゃあね」
「はい、お嬢様」
俺たちは彼女の持って居るミニ箒に2人乗りして超速度で飛び去った。
「なかなか思い通りには行かないな……こういうのはあまり得意ではないし」
「そんな事はないわ、だって私の騎士様だもの、もっと自信をもっていいのよ」
「ありがとう、ラムはやさしいんだな……なぁ、さっきは本当にお仕置きする積りだったのか?」
「嘘よ」
「良かった……」
ラムはふふ、と意味ありげに笑った。
・
・
・
俺たちは少しやり方を変える必要があった。相手は巨大組織のようなので、それなりの手段を講じないといけないのだが、その選択に俺は葛藤していた。
「選択肢は2つ、1つは罠を張って彼らの上層部を釣る」
「それ良いわね」
「もう1つは、地道に調査をして上層部の連中を捕まえて吐かせる」
「それはあまり良くないわね」
ラムは刺激的な方を選ぶという性癖があるようだ。俺もどちらかと言うと、罠に掛けた方が簡単な気がしていたのだが、問題はどういう罠を仕掛けるかであった。
「アキの土魔法で木偶は作れますよね?」
「それは簡単だな」
「ならそれで行きませんか?」
「う~む、そうだね。何かいい案があれば聞かせてくれる?」
「その後でご褒美下さらない?」
「いいよ」
それは勿論キスの事だった。
49
お気に入りに追加
9,169
あなたにおすすめの小説
異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!
コスモクイーンハート
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生の合田結菜はある高難度ダンジョンで一人放置されていた。そんな結菜を冒険者育成クラン《炎樹の森》の冒険者達が保護してくれる。ダンジョンの大きな狼さんをもふもふしたり、テイムしちゃったり……。
何気にチートな結菜だが、本人は普通の生活がしたかった。
本人の望み通りしばらくは普通の生活をすることができたが……。勇者に担がれて早朝に誘拐された日を境にそんな生活も終わりを告げる。
何で⁉私を誘拐してもいいことないよ⁉
何だかんだ、半分無意識にチートっぷりを炸裂しながらも己の普通の生活の(自分が自由に行動できるようにする)ために今日も元気に異世界を爆走します‼
※現代の知識活かしちゃいます‼料理と物作りで改革します‼←地球と比べてむっちゃ不便だから。
#更新は不定期になりそう
#一話だいたい2000字をめどにして書いています(長くも短くもなるかも……)
#感想お待ちしてます‼どしどしカモン‼(誹謗中傷はNGだよ?)
#頑張るので、暖かく見守ってください笑
#誤字脱字があれば指摘お願いします!
#いいなと思ったらお気に入り登録してくれると幸いです(〃∇〃)
#チートがずっとあるわけではないです。(何気なく時たまありますが……。)普通にファンタジーです。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
無能を装って廃嫡された最強賢者は新生活を満喫したい!
えながゆうき
ファンタジー
五歳のときに妖精と出会った少年は、彼女から自分の置かれている立場が危ういことを告げられた。
このままではお母様と同じように殺されてしまう。
自分の行く末に絶望した少年に、妖精は一つの策を授けた。それは少年が持っている「子爵家の嫡男」という立場を捨てること。
その日から、少年はひそかに妖精から魔法を教えてもらいながら無能者を演じ続けた。
それから十年後、予定通りに廃嫡された少年は自分の夢に向かって歩き出す。
膨大な魔力を内包する少年は、妖精に教えてもらった、古い時代の魔法を武器に冒険者として生計を立てることにした。
だがしかし、魔法の知識はあっても、一般常識については乏しい二人。やや常識外れな魔法を使いながらも、周囲の人たちの支えによって名を上げていく。
そして彼らは「かつてこの世界で起こった危機」について知ることになる。それが少年の夢につながっているとは知らずに……。
最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか
鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。
王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、
大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。
「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」
乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン──
手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。
スキルで快適!異世界ライフ(笑)
夜夢
ファンタジー
若くして死んだゲスい彼「工藤 蓮(23)」は現代文明から中世文明ほどの農民の子へと異世界転生し現在15才。
あまり文明の発達していない世界でもっと快適な生活を送りたいと思った彼は、真面目に勉強した。神からスキルを貰った彼は豹変し、異世界改革に乗り出す。
そんなお話。
ただのエロ小説になるかも。
※不定期更新です。思いついたら書くので…。
最推しの義兄を愛でるため、長生きします!
朝陽天満
BL
前世の最推しが母の再婚により義兄になりました。
ここは育成シミュレーション乙女ゲームの世界。俺の義兄は攻略対象者だった。
そして俺は、兄のパソストで思い出の弟として出てくる、死ぬ前提の弟だった!
最推しの弟とか、もう死んでもいい!いや、最推しの成長を見届けるまでは死ねない!俺、生きる!死亡フラグなんて叩き壊して今日も最推しを愛でるのだ!
乙女ゲームに転生してしまった死亡フラグだらけの弟奮闘記。
濡れ場は最後の方にしか出てこない気がします。
※2022年11月書籍化しました( *´艸`)
よろしくお願いします
ただいま感想返信停止中です。申し訳ありません。でも皆様の感想はとても楽しく嬉しく拝読しております!ありがとうございます!
異世界転移したので、のんびり楽しみます。
ゆーふー
ファンタジー
信号無視した車に轢かれ、命を落としたことをきっかけに異世界に転移することに。異世界で長生きするために主人公が望んだのは、「のんびり過ごせる力」
主人公は神様に貰った力でのんびり平和に長生きできるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる