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追跡

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「ここみたいです」


 と、ミューがいう。その巨大な建物は来る者を見下して威圧するかのようだ。周りの建物よりも数倍高く、上層階は低空の雲に隠れていた。建物を出入りする人々を観察していると殆ど全員が軍服のような同じ服装をしている事に気が付いた。


 「ここには簡単には入れないだろう」


 酒場などで流される噂というのは大抵こういう国の機関の情報操作だったりするものなのだ。内部にいた人間なのでそのくらいの事は心得ていた。うかつに近寄ると簡単に捕縛される。


 ひとまず近所のどこかで監視できる宿でも見つけようかと思っていた所、逆にこちらが監視されていたようだった。軍服の他の連中とは違った風袋の2人組が建物から出てきてこちらを一瞥したのだ。それも計画の内に入っていたので対応は出来ていた。


 「監視されていたみたい」


 と俺の風君が教えてくれる。


 「それでは計画通りに一旦引いて捕まえるからついてきて」


 とミューに言い、2人で近くの建物の脇の、先が行き止まりになっている狭い路地に入り込む。歩みながら彼らが後をついてくるのを確認して土魔法を幾つかセットしておく。


 「スキンシール」

 「アーマープロテクション」

 「ゴーレムハンド」


 そして、突き当りで振り向き追い込まれた風を演じる。


 「何でしょうか?怖いなぁおじさんたち……」


 とスキンシールで10代に化けた俺が言う。軍服でない、黒服の彼らは勝ち誇ったように冷笑して何かの鉄の塊の禍々しい魔道具のようなものをこちらに向けた。


 「動くんじゃない」

 「動いてませんよ」

 「黙れ!そのまま両手をこちらに向けて上げろ!」


 俺は手を上げるフリをしながら魔法防壁を唱えた。


 「アースウォール」


 ヴォーンと鈍い音を発して彼らの後ろに魔法の大壁が立ち上がる。

 それで、一瞬振り返って驚愕しながらこちらに向けた魔道具を爆発させた。


 「何をした!」


 パンパン!


 と乾いた音がして火の精霊気を纏った小さなつぶてが飛んでくるのが見えた。それらは俺の顔の直前で軽い音をさせて弾かれた。


 カン!キン!


 アーマープロテクションが効いているのだが、見た感じではそれほどの火力はないのでプロテクションは要らなかったような気がした。


 「子供相手に酷いですね、ではこちらから行きますよハンドオン!」


 と言うと、巨大な2つの手が石板で舗装された地面をぶち破り現れて2人を鷲掴みにして身動きを封じた。


 「ぎゃああ」


 俺はミューにキスをしてラムに代わってもらう。


 「宜しく、ラム」


 「嬉しいわ……もっとキスして、でもその前にこのおバカさんたちにお仕置きをしなくちゃね」


 と色っぽくいうと風魔法をとなえた。


 「ブレインシャワー!さて色々と教えて頂きましょうか?全部教えてね」

 「……はい、お嬢様」


 「よろしい、では貴方たちは何?何をしている組織なの?」

 「破壊工作を行っております、お嬢様」


 「あら、酷い事をしているのね、私たちの事はどおやって調べたの?」 

 「我々の組織は全土に5万人がネットワークを張っておりますので何かあればすぐに分かります、お嬢様」


 「へぇ、大きいのね。それで私たちの事はどこまで把握しているの?」

 「判りません、我々は指示を受けて先ほど活動を始めたばかりです、お嬢様」


 俺はなぜ彼女が大魔法使いと恐れられていたのかと、その理由が少しだけ判ったような気がした、だが甘かった。


 「そう、でも私たちを襲った事への罰は受けて貰わなければだめね、何がいい?火炙りかしら?」


 その時、向かいの巨大な建物屋上から突然俺達を砲撃する音がした。


 ドーン!ドーン!


 と、明らかにこの2人の魔道具より火力は大きい。だが、アースウォールに弾かれてこちらには届かない。


 俺はやや強めに土魔法のメテオシャワーを放ち牽制した。


 ドガァーン!


 とそれは上空で凄まじい爆発を起こし、俺達を狙っていた連中はそれで沈黙した。向かい側の建物が壊れていた、少しやり過ぎたようだ……。


 「少し騒ぎが大きくなり過ぎたようだ、撤退しようか」

 「残念ね、お仕置きはまた今度、じゃあね」

 「はい、お嬢様」


 俺たちは彼女の持って居るミニ箒に2人乗りして超速度で飛び去った。


 「なかなか思い通りには行かないな……こういうのはあまり得意ではないし」

 「そんな事はないわ、だって私の騎士様だもの、もっと自信をもっていいのよ」


 「ありがとう、ラムはやさしいんだな……なぁ、さっきは本当にお仕置きする積りだったのか?」

 「嘘よ」

 「良かった……」


 ラムはふふ、と意味ありげに笑った。







 俺たちは少しやり方を変える必要があった。相手は巨大組織のようなので、それなりの手段を講じないといけないのだが、その選択に俺は葛藤していた。


 「選択肢は2つ、1つは罠を張って彼らの上層部を釣る」

 「それ良いわね」


 「もう1つは、地道に調査をして上層部の連中を捕まえて吐かせる」

 「それはあまり良くないわね」


 ラムは刺激的な方を選ぶという性癖があるようだ。俺もどちらかと言うと、罠に掛けた方が簡単な気がしていたのだが、問題はどういう罠を仕掛けるかであった。


 「アキの土魔法で木偶は作れますよね?」

 「それは簡単だな」


 「ならそれで行きませんか?」

 「う~む、そうだね。何かいい案があれば聞かせてくれる?」


 「その後でご褒美下さらない?」

 「いいよ」


 それは勿論キスの事だった。

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