上 下
9 / 52

異国ガリアント

しおりを挟む
 その異国の地で俺たちは完全に迷子になってしまったようだった。大体文字も読めないし、周辺の状況を確認できないのだ。


 「これは……風君にはここがどこか分からないか?」

 「さーねー、でもなんとなく風の精気は感じるよ」


 「なるほど」


 その言葉で俺は土の精気を感じ取ろうとすると若干は感じられた。この地にも土の精霊が居る可能性が高いという事がそれで分かった。それに、土の精気があるという事は土魔法も少しは使えるという事なのだ。


 暫く、皆で街を観察していると道路を”揺り籠”に似た乗り物が通過していくのが見えた。


 「あ、あれ!」


 とミューが指さす先にその揺り籠を見た。という事は風魔法がこの街では普通に使用されているという事なのだろうと分かった。


 だが、圧倒的になにか別の精霊気を感じるのだ。思念を集中すると頭が痛くなるようなそれの正体が知りたくて風達に訊く。


 「この頭痛がするような圧迫感を持つ精霊気の正体はなにか分かるかい?」

 「う~~~ん……」

 「しーらなーい」


 と2人とも分からないという事だった。だがそれは主に街のいたるところから発しているのが段々分かって来た。例えば建物のキラキラ光る看板とか、照明装置、そして不思議な形の乗り物たち。


 「ここがどこか、何か手がかりがあればいいのだが……」


 俺がそういうとミューが目ざとく何かを見つけた。彼女の指さす先には宝飾店のような店が見えた。そこにヒントがあるのかも知れないという事なのだろう、と思い皆でその店に入る。


 すると店員がやってきて理解不能な言語で話しかける。


 身振り手振りで言葉が分からないというと、俺の頭に不思議なデザインのカチューシャを乗せてくる。


 「これで分かりますでしょうか?」

 「分かる!言葉が分かるようになった!」


 それは精霊魔法で動く魔法器の一つのようだ、でもこの感じはさっきから不思議に思っている謎の精霊気だった。それをミューにもそのカチューシャを乗せてもらい質問を始めた。


 「済まんが、ここがどこか教えて欲しい」

 「ここはザリーズの本店です」


 「ザリーズ……?」

 「宝石のブランド店です」


 「ああ、やはり宝飾店なのか……」

 「なにかお探しですか?」


 「ええ、実は地図か案内人を探しているのだ」

 「それですと、当店では扱っておりませんので……あちらの商店案内所を訪ねてみて下さい」


 と指さされるその店?はここから至近距離にある建物だった。ついでに俺はもう一つの質問をしてみた、カバンから財布をだして金貨を見せてこれが店で使えるかどうかという。


 「それでしたら質屋ですね」

 「やはり、異国の通貨ではモノ扱いになるのか」


 店員はそうだという、とりあえずは地図屋と質屋を探すために俺たちは宝飾店を出て商店案内所という建物に向かう。


 「こんにちは」


 というが、やはり上手く言葉が伝わらないようだったので、さっき被せてもらったカチューシャの事を手ぶりで表現すると、その年配の店員は棚から取り出して2人に被せてくれた。


 「ありがとう、助かるよ」

 「外国人かね、最近多いんだよね、観光かい?」


 「いや、まぁそんなところだ、取り急ぎ地図と質屋を教えて欲しいのだが」

 「地図ね、商店街の地図ならここにあるよ、ただで持って行っていいよ」


 「おお、それは助かる」


 その地図が読めないので色々と口で教えてもらい、設置されたペンで書きこんだ。


 「それにしても大きな商店街ですね……」

 「ええ、みなさんそうおっしゃいます」


 「所で、このカチューシャはどこで手に入りますか?」

 「ああ、これね。これで良ければ持って行ってください、どうせうちではほとんど使わないので」


 店主によると、そのカチューシャは本来国からの支給品で非売品だとの事。そしてここの案内所には外国人が沢山くるので山ほど在庫があるという。


 「それは助かる、本当にありがとう」

 「いえいえ、いいんですよ」


 俺は礼をいってその店を出てまずは質屋を目指した。徒歩で行くと小一時間といったところだ。


 地平の果てまで続くかのような巨大な商店街を俺たちは歩き、ようやくたどり着きそうな頃やはり道に迷った。地図では省略されているが、最後の最後に道がYの字に分かれていた。


 「これは……地図ではまっすぐ一本道になっているけど、どっちなんだろう?」


 周りに店を訪ねてみようと見渡すと占い屋が露天をだしていた。


 丁度良かったので、道を尋ねてみようとしたがそんなものは知らないと無下に断られた。だが、その占いオババがミューを見て言う。


 「そこのお嬢ちゃん!あなた二重生活しているね!」


 俺には意味が分からなかったが、オババはミューの瞳を覗き込んでさらに続けて言う。


 「これは因縁深いね……悪い子」

 「……」


 いきなりそんな事を言われたミューは驚くを通り越して固まっていた。

 失礼なオババだなとは思ったがお年寄りにきつく当たるのは俺の性に合わないので無視するほかなかった。


 「真実が知りたくなったらまたおいで」


 などとまだ変な事を言っている。声を掛ける相手を失敗したと思って隣の商店に入り道を訊くと、三軒となりの店だとおしえてくれた。


 「なんだ、すぐそばにあったんだな」


 俺たちは質屋に入り持っていた金貨などを計量してもらいこの街で使える貨幣で買い取ってもらった。ついでに「地図はあるか?」と聞くと沢山あるなかで好きなのをサービスしてやるからで持っていけという。


 この街では地図は値段が付かないほど安いものだったらしい。

 地図を見比べている内に、俺でも読める古い言葉で書いてある地図が見つかった。その大量に外国人がやってくると言う街の名前はガリアントという事がそれで分かった。


 ガリアント……初めて聞いた名前だった。


 改めて地図を見るとその巨大な魔法都市は端から端まで地平のかなたまで続いているように思えた。今日我々が歩いた距離なんて全体のほんの一部でしかないのだ。


 「う~む、とんでもない所に来てしまったようだな……」

 「あの、少しおなか空きませんか?」


 あ、そうだった。こっちに来てからかれこれ大分経つのだ。散々あるいたしお腹もすくだろう。


 俺たちは近所にある軽食屋に入り、それぞれが適当なものを注文してくつろいだ。

 メニューをみてもよく分からないので、メニューの絵をみて美味しそうなものを頼んだのだ。


 いくつか貰った地図の一番広域の物をそこで広げて今どこに居るのだろうかと、4人で検討してみるが良く分からない。俺たちが元居た世界の地形と記憶ですり合わすが、なかなか一致する地形を見いだせないでいた。


 暫く店に居たら夕方なので一旦店を閉めるという。変わった習慣だなとは思ったが、それで店を追い出されて、仕方なく宿屋を探す事にした。比較的近所に古くからやっている旅行者向けの宿があるようなのでそこで部屋を取り休む事にした。宿屋の番頭はミューをみて何か言いたげだったが、それだけだった。


 だが、その晩ミューは悪夢を見てうなされていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~

石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。 しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。 冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。 自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。 ※小説家になろうにも掲載しています。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?

仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。 そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。 「出来の悪い妹で恥ずかしい」 「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」 そう言ってましたよね? ある日、聖王国に神のお告げがあった。 この世界のどこかに聖女が誕生していたと。 「うちの娘のどちらかに違いない」 喜ぶ両親と姉妹。 しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。 因果応報なお話(笑) 今回は、一人称です。

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

処理中です...