アイテムマイスター物語〜ゴミスキルで能無し認定された主人公はパーティーから追放され好き勝手に生きる事に決めました

嫉妬の女神

　……リーナは相変わらずわからない……。

　……だけど、今回は今までとは少し違う。

　……自分はやはり本心ではリーナが好きなのかも知れない。

　……そして、今、自分とリーナはお互いに特別な感情で繋がっている。

　彼女の猛アタックを受けて飯屋への帰途、ラセルはその考えに至ると……直に自分の身体に違和感を覚えていた。

　急に右手が熱くなり、悪心がして気分が悪い。

　……なにか異常に身体が重い……それに……誰かと喧嘩をしたい……気分が荒ぶる。

　次々に襲いが掛かる異変にラセルは困惑して顔を手で覆い呻く。

「ぐ……あ……」

　少し混雑が緩和しつつある朝市の路上、飯屋の前でラセルは急に唸りだして立ち止まった。

「え？！ど、どうしたの？」

　ラセルの様子がおかしい事に気がついたリーナは振り返り、異変を起こしている彼に驚いた。

　彼の頭髪が少し逆だっていて目が爛々と好戦的な光を帯びている。

　それに……いつもマントの中から見えていた薄っすら光る輝きが今は見えなかった。

『私達を裏切るのは駄目』

　突如、ラセルの脳内に言葉が浮かび上がる。

　身体の中から誰かが語りかけて来るようであった。

『他の女なんかに浮気したら許さない』

　その言葉がラセルの心を捉えて周囲の状況から彼の五感を切り離した。

『なんだ？誰なんだ？』

『私達はずっと一緒だったのに、それは酷いわよ？』

『……はっ』

　その言葉に集中すると……それは指輪の女神の言葉……なのだと気がついた。

　それはラセルのアイテムマイスターとして直感だ。

『私達は貴方に助けられて、全霊で加護すると決めたの……でも浮気は駄目よ』

『助けた？』

『貴方が呪いから助けてくれたのよ』

『……リバースアイテムのことか』

『そう、でもそれは貴方の愛だから……愛は永遠で無くちゃ』

『……』

　……そうだ、僕はアイテム達を愛していた。

　……それは単にアイテムマイスターの称号のせいだと感じていたけれど、根本的に違っていたようだ。

『でも、だからと言ってこんなに気分が悪いのは幾らなんでも酷いよ』

『それはその魔人の剣のせいでしょ』

『は！』

　それで、ラセルは驚いてスキルで次元刀を観察した。

　その次元刀には魔人の魂が宿っていることが、それで察知できる。

『今までは私達の加護でネガティブな効果を排除していたのよ』

『つまり……』

　指輪の女神達の加護が切れたら……こうなる……。

　それで、ラセルは王子のと試合の事を思い出して悟った。

　……次元刀を装備すると魔人の魂の効果で狂戦士化してしまうのだ、と。


『た、頼む！もう浮気はしないから戻ってくれ』

『本当に？』

『本当だ』

『どうやら本気みたいね、私達の親愛なるラセル』

　ラセルは久しぶりに真剣に祈り、それが指輪の女神達に通じたようだ。

　一瞬にしてラセルは元に戻り、次元刀（魔人の魂）の効果が排除された。

　それと同時にラセルの聖光気が戻り気分が良くなる。

『浮気はだめよ』

　それが女神達の最後の言葉であった。

「判ったよ、もう浮気はしない」

「ラセル！大丈夫！？ラセル！」

　それをラセルがつい口にだすと、不審に思ったリーナが心配そうにラセルの両肩を掴んで揺さぶっていた。

「ああ、もう大丈夫だ」

　ラセルはニヤリとして答えた。

「本当に？だっていま凄く様子がおかしかったのよ？」

「ははは」

　ラセルは笑い、彼女の両手から魔法のようにすり抜けて飯屋に入った。

「ま、待ってよ」