3 / 52
インフレの朝
しおりを挟む
お目当てのパン屋の屋台は直ぐに見つかった。
朝早かったらしく、パン屋は店を開けたばかりのようだ。
「やぁ、ロングパンを1つくれないか?」
「あいよ、銀貨3枚だよ」
「え?……銀貨3枚かい?」
聞き間違いかと思い、ラセルは復唱するように訊き返した。
無愛想な屋台の婆さんは怪訝そうにしてラセルを見返しながら返事をする。
「そうだよ買わないのかい?」
「……いつの間にそんな値段に、この間は銀貨1枚だったと思うけど」
そうこうしている間に後ろからやってきた何処かの召使い風の女性が婆さんに金貨3枚を渡して袋に入ったパンを丸ごと買い取って行った。
「はい、毎度ね」
婆さんは相変わらずニコリともせず短い挨拶の後に金をしまう。
ゴクリ…
思わずラセルはつばを飲み込み余りの値段の高さに冷や汗をかいていた。
「いつからこんなにも高くなったのだい?」
「割と最近さね、街道の商隊が相次いで襲われるようになったからね、小麦粉が手に入らないのさ……小麦粉だけじゃないがね」
「……なるほど」
そんな話をしていると更に後から後から客がやってきて婆さんから次々とパンを買っていく。
「ああ……」
「はい、今日はもう売り切れだよ」
ラセルの目の前でパンはあっという間に売り切れてしまった。
グルゥ……
空腹で腹がなる音がしてラセルを更に情けない気分にさせる。
「まさか……他の食い物も高騰してはいまいか……?」
店を畳む支度をしている婆さんにそれとなく訊くと首を左右に振る。
「そりゃそうさね、何せ大都会だからね」
「……そうなのか」
事態は思った以上に深刻なようだった。
こんなにも値段が高くなると自分のように食い物にありつけない下層の住民が沢山居るはずではないか?
「これは……」
大変だと言おうとした瞬間に別の所からその悲鳴があがった。
「大変!だれか~だれか~」
ラセルが振り向くと先程パンを袋買いしていった召使い風の女性が立ちすくんで叫んでいる様子だ。
女性の視線の先を見ると、パンの袋を担いで走り去る子供達の姿が人垣の隙間からチラチラと視界に入った。
「……なるほど」
この大都会の王都では皆生きるのに必死なのだ。
「盗みは良くないが……」
かと言って空腹の子供達を捕まえるのは気が進まなかったし、それに走って追いかけると腹が減る。
結局、朝一で何も買うことが出来ないままラセルはギルドに戻ることにした。
ギルドに戻るとニコル達の姿はもう見えなかった。
それで今度こそクエストの依頼書をカウンターに差し出して正式に依頼を請ける事にする。
「これを頼みたい」
「どれ……1人でか……?」
ギルマスはラセルに1人で大丈夫なのか?と訊いていた。
表情には表さないが明らかにラセルを心配している事が感じられる。
「多分」
そもそも今は誰とも組む気分ではない。
極度の人間不審から脱却出来ない今のラセルが信じられるのはギルマスくらいなのだ。
「そうか、あまり無理はしないこった」
ギルマスはそう言いながらクエストの依頼書に受付のサインを書き込んでラセル返した。
「分かっているさ」
相手はサンドゴーレム。
重戦士のジョブなら申し分ないが武装がアイアンタワーシールドのみというのが心もとない。
……いや、サンドゴーレムは大抵は別のサポートモンスターとつるんでいるから、寧ろそちらの方が気になる。
いざとなってられる鈍足のサンドゴーレムから逃げ切ることは容易でも囲まれてしまう危険は避けたいのだ。
「なるようになるさ」
その日、初めて前向きな言葉が口からでてラセル自身驚いた。
朝早かったらしく、パン屋は店を開けたばかりのようだ。
「やぁ、ロングパンを1つくれないか?」
「あいよ、銀貨3枚だよ」
「え?……銀貨3枚かい?」
聞き間違いかと思い、ラセルは復唱するように訊き返した。
無愛想な屋台の婆さんは怪訝そうにしてラセルを見返しながら返事をする。
「そうだよ買わないのかい?」
「……いつの間にそんな値段に、この間は銀貨1枚だったと思うけど」
そうこうしている間に後ろからやってきた何処かの召使い風の女性が婆さんに金貨3枚を渡して袋に入ったパンを丸ごと買い取って行った。
「はい、毎度ね」
婆さんは相変わらずニコリともせず短い挨拶の後に金をしまう。
ゴクリ…
思わずラセルはつばを飲み込み余りの値段の高さに冷や汗をかいていた。
「いつからこんなにも高くなったのだい?」
「割と最近さね、街道の商隊が相次いで襲われるようになったからね、小麦粉が手に入らないのさ……小麦粉だけじゃないがね」
「……なるほど」
そんな話をしていると更に後から後から客がやってきて婆さんから次々とパンを買っていく。
「ああ……」
「はい、今日はもう売り切れだよ」
ラセルの目の前でパンはあっという間に売り切れてしまった。
グルゥ……
空腹で腹がなる音がしてラセルを更に情けない気分にさせる。
「まさか……他の食い物も高騰してはいまいか……?」
店を畳む支度をしている婆さんにそれとなく訊くと首を左右に振る。
「そりゃそうさね、何せ大都会だからね」
「……そうなのか」
事態は思った以上に深刻なようだった。
こんなにも値段が高くなると自分のように食い物にありつけない下層の住民が沢山居るはずではないか?
「これは……」
大変だと言おうとした瞬間に別の所からその悲鳴があがった。
「大変!だれか~だれか~」
ラセルが振り向くと先程パンを袋買いしていった召使い風の女性が立ちすくんで叫んでいる様子だ。
女性の視線の先を見ると、パンの袋を担いで走り去る子供達の姿が人垣の隙間からチラチラと視界に入った。
「……なるほど」
この大都会の王都では皆生きるのに必死なのだ。
「盗みは良くないが……」
かと言って空腹の子供達を捕まえるのは気が進まなかったし、それに走って追いかけると腹が減る。
結局、朝一で何も買うことが出来ないままラセルはギルドに戻ることにした。
ギルドに戻るとニコル達の姿はもう見えなかった。
それで今度こそクエストの依頼書をカウンターに差し出して正式に依頼を請ける事にする。
「これを頼みたい」
「どれ……1人でか……?」
ギルマスはラセルに1人で大丈夫なのか?と訊いていた。
表情には表さないが明らかにラセルを心配している事が感じられる。
「多分」
そもそも今は誰とも組む気分ではない。
極度の人間不審から脱却出来ない今のラセルが信じられるのはギルマスくらいなのだ。
「そうか、あまり無理はしないこった」
ギルマスはそう言いながらクエストの依頼書に受付のサインを書き込んでラセル返した。
「分かっているさ」
相手はサンドゴーレム。
重戦士のジョブなら申し分ないが武装がアイアンタワーシールドのみというのが心もとない。
……いや、サンドゴーレムは大抵は別のサポートモンスターとつるんでいるから、寧ろそちらの方が気になる。
いざとなってられる鈍足のサンドゴーレムから逃げ切ることは容易でも囲まれてしまう危険は避けたいのだ。
「なるようになるさ」
その日、初めて前向きな言葉が口からでてラセル自身驚いた。
0
お気に入りに追加
1,258
あなたにおすすめの小説
石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!
うどん五段
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。
皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。
この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。
召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。
確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!?
「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」
気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。
★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします!
★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
薄幸召喚士令嬢もふもふの霊獣の未来予知で破滅フラグをへし折ります
盛平
ファンタジー
レティシアは薄幸な少女だった。亡くなった母の再婚相手に辛く当たられ、使用人のように働かされていた。そんなレティシアにも幸せになれるかもしれないチャンスがおとずれた。亡くなった母の遺言で、十八歳になったら召喚の儀式をするようにといわれていたのだ。レティシアが召喚の儀式をすると、可愛いシマリスの霊獣があらわれた。これから幸せがおとずれると思っていた矢先、レティシアはハンサムな王子からプロポーズされた。だがこれは、レティシアの契約霊獣の力を手に入れるための結婚だった。レティシアは冷血王子の策略により、無惨に殺される運命にあった。レティシアは霊獣の力で、未来の夢を視ていたのだ。最悪の未来を変えるため、レティシアは剣を取り戦う道を選んだ。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~
桜井正宗
ファンタジー
元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。
仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。
気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?
2回目チート人生、まじですか
ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆
ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで!
わっは!!!テンプレ!!!!
じゃない!!!!なんで〝また!?〟
実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。
その時はしっかり魔王退治?
しましたよ!!
でもね
辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!!
ということで2回目のチート人生。
勇者じゃなく自由に生きます?
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
140文字で語るファンタジー話
照り焼き侍
ファンタジー
流し読みで出来るファンタジー
3つの単語を組み合わせて140字小説のファンタジーを自由気ままに作ります
趣味目的で週1一斉投稿
話数は構想が思いつく限り書いていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる