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追放は唐突に

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 ~白の牙~

 ラセル達5人は新進気鋭の冒険者パーティーとしてそう名乗っている。

 彼らのギルド内での地位・評価は史上最速で上昇していた。

 FランクからAランクに到達するまで僅か1年という偉業を成し遂げたのだ。

 その晩、彼らはギルドでも最高のAランク入りを果たした。


「おめでとうございます、今回のクエスト達成にて白の牙はAランクと認定されました」

 冒険者ギルドの受付嬢であるミリアがにっこり微笑みながら、パーティーのリーダーであるニコルに伝える。

「そうか、ではAランクのプレートを頂いていく」

 魔剣士のニコルは金髪のイケメンでいつもクールを装っているが根は自己中で短気である。

 ミスリルの装備を全て揃えているのはパーティーでも彼だけ。他のメンバーは彼の好みで装備を整えているという有様だ。

 中でも、荷物持ち係のラセルは一番粗末な扱いである。武器は一切装備させて貰えず、鉄のタワーシールドのみである。

 荷物持ちとは言え彼も前線で戦える重戦士のジョブであるのだが、ニコルの活躍が華々しく前線でのラセルの出番はほとんど回ってこなかった。

 いや、なるべく活躍する場を与えられない。ニコルが故意にそうしているのだとラセルは感じていた。

 過去には何度かゴーレムの魔窟で剣撃がほとんど通らないアイアンゴーレムと、素早いファイアリザードの群れに遭遇した際に撤退の殿(しんがり)としてラセルが活躍したことがある。

 痛い役はいつもラセルの仕事だったが、重戦士ジョブならそれも当然と引き受けていた。


 結局、そのアイアンゴーレム達の群れは撤退戦の最中に発動した魔窟のトラップの大きな穴に落ち、そこを魔法の集中放火で打ち勝ったという結末であった。

 命拾いをして、なおかつパーティーを勝利に導いたのはラセルのアイテムマイスターのスキル故であったのだが、それには誰も気付かずにクエストは完了した。

 彼のアイテムマイスターとしてのスキルで魔窟内に仕掛けられているトラップを何度も事前に発動を停止させたり、トラップを逆に利用してモンスターからパーティーを守ってきたという事を誰も知りもしないのだ。



 彼にとってはトラップすらも一つのアイテムとして扱える、とんでもないチートスキルであるのだが……。

 それを説明しようとしても「そんなスキルがあるはずもない」と爆笑されて終わる。

 いつも、ニコルの運の良さで回避されたのだとパーティーには認知されていた。

 3度目にはラセルはスキルを説明しようと言う気力すら無くなっていた。



「よう、戻ったぞ」

 ニコルは白の牙の面々が集まって待機していたテーブルにやってきて上機嫌でAランクの赤に輝くプレート5枚を前に掲げて言う。

「どうだ、遂にAランクだ」

 白の牙結成時からの目標の一つであったAランクのプレートを手に入れ、パーティーの全員が赤いプレートに目を輝かせていた。

「うわーやったわね!ニコル!」

「流石ね、もっとよく見せて!」

「ふふふ、これで私達もこのギルド最高ランクね」

 ニコルから手渡された赤いプレートを受け取りながら、黒魔法使いのラム、赤魔道士のアリス、白魔道士のマームがそれぞれ感想を述べる。

「僕にも早くくれよ」

 最後の一枚をもらうべくラセルはニコルに手を伸ばすが、ニコルはヒョイとプレートを懐にしまった。

「は!どういう事なんだよ?」

「ラセル、これはお前にはやれない」

 ニコルがニヤニヤとしながら言う。

 ラセルはその顔を見て思い出す、ニコルがこの顔をするときはいつも悪意があるのだ……と。

 他のパーティーの面々をふと見ると、皆がニヤニヤとしていてラセルはゾッとしてしまっていた。

 今までこんな事はなかったのだ。


「……どうして?」

「なぜなら、今日でお前はクビだからだよ役立たずのラセル」

「え!それは本気で言っているのか?」

 それでパーティーの全員がニヤついている理由をラセルは悟った。

 今回のクエストの後にラセルをクビにしようと……事前に彼らで話がついていたのだろう。

「嘘ではない、これがお前にやれる退職金だ」

 懐にプレートをしまった手で硬貨が詰まった小袋を取り出してラセルの手に置いた。


「Aランクには役立たずは不要なんだよ」

 傲然と言い放つ彼にラセルは返す言葉が見当たらず、堪らず俯いて背を向けた。


 その背中にはいつもパーティーを守ってきた鉄の巨大なタワーシールドがあり、寂しそうに鈍く光りパーティーの面々を見返している。

「じゃあな」

「それでさー、今度の5人目って……」


 ラセルが歩き去る前に白の牙の面々は新しいメンバーについて話し合いを始めているのが彼の耳に入り、それがより一層心を陰鬱とさせていた。


「なんでこうなる……」

 ラセルはギルドを出てから小袋の中身を確認しながら呟いた。

 そこには銀貨が10枚ほども入ってなく、宿屋に3日も泊まったら全部なくなる程度のものだった。


「そお言う事なのか」

 それは退職金とも呼べない程度の端金で、ラセルはパーティーから捨てられたのだと悟った。

 結局、持ち金があまりにも少ないので彼は宿に泊まる事を躊躇して町外れにある馬屋に頼み込んで泊まる事にした。

「こんなのは久しぶりだなぁ」

 白の牙を結成した時に数度やった事を思い出し、夜空を見上げて呟き歩き始めた。
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