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婚約
第四十二話
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水菓子を食べて終わったところで、保がふと話を切り出した。
「そういえば、まだ合格祝い聞いてなかったな」
「そうだね」
「決めたか?」
「んー、決めてはいるけど今は言えない」
「いつなら教えてくれる?」
「もう少し先かな」
「いつでもいいから言ってくれよ?」
「うん」
「んじゃ、これはバレンタインデーのお返しだ」
「猫屋のマカロンっ!」
「好きだろ?」
「好き!超好き!ありがと、先生」
「もう先生と生徒じゃないんだ。先生は止めてくれ」
「んじゃ、何て呼べばいいの?」
「普通に名前でいいんじゃないか?」
「名前…」
「"保"だ」
桃は言おうとするが、恥ずかしいのか鯉のように口をパクパクさせている。
「……」
「無理に言おうとしなくていい。言えるタイミングで言ってくれればいいから」
「…ごめんなさい」
「謝る必要はないさ」
「でも…」
「そろそろ出るか。送って行く」
「うん」
桃はうまく保と呼べなかったことが悔しかった。
落ち込んでいる桃をとある場所へ連れて行こうと保は思った。
二人は車に乗り込み、保の運転で桃の家に向かい始めた。
それも最初のうちだけで、どんどん山の方へ向かっていく。
「先生、家と反対方向だよ?」
「分かってる。いい所に連れてってやるよ」
保が連れて来たのは、山の頂上にある展望台だった。
住んでいる街が眼下に見渡せ、街の光がキラキラしていた。
「綺麗…」
「だろ?たまに来るんだ」
「いい所だね」
「俺のお気に入りの場所。教えたのは桃が初めてだ」
「そうなの?」
「あぁ。桃になら教えられると思ったんだ」
「先生の特別みたいだね」
「"みたい"じゃなくて特別なんだ」
保は桃を後ろから抱きしめた。
「ずっとこうやって抱きしめたいと思ってた」
「うん」
「これからもずっと俺の腕の中にいてくれるか?」
「もちろんだよ」
「なぁ、桃。…キスしたい」
「えっ…」
「桃が嫌だったらいいんだ。ただ今すごく桃にキスしたいと思ってる」
「正直言うとね、怖いんだ」
「あの事件があったからか?」
「うん。でも、先生にならいいよ」
「怖いんだろ?無理しなくていいんだぞ?」
「無理してない。あたしもしたい。先生とキスしたい」
「いいんだな?」
「うん」
桃は静かに目を閉じた。
保は桃の柔らかな唇に自分のそれを重ねた。
重なった瞬間、桃の体がビクッとしたが、それ以降は何もなかった。
触れるだけのキスをして、唇を離す。
まるで、唇から火が出ているような感覚に陥るくらい熱く感じた。
桃は物足りなさそうな目で保を見ている。
これ以上すると保の理性が吹き飛んでしまうので、保は大人の余裕を見せつつ、桃を宥めることにした。
「ありがとな。体が冷え切る前に帰るか」
「うん」
展望台から桃の家まで二人は無言だった。
保は嬉しさで舞い上がってしまっていたから。
桃は恥ずかしさで何を話していいか分からなかったから。
それぞれ思う所は違えど、最初の一歩を踏み出したのだった。
「そういえば、まだ合格祝い聞いてなかったな」
「そうだね」
「決めたか?」
「んー、決めてはいるけど今は言えない」
「いつなら教えてくれる?」
「もう少し先かな」
「いつでもいいから言ってくれよ?」
「うん」
「んじゃ、これはバレンタインデーのお返しだ」
「猫屋のマカロンっ!」
「好きだろ?」
「好き!超好き!ありがと、先生」
「もう先生と生徒じゃないんだ。先生は止めてくれ」
「んじゃ、何て呼べばいいの?」
「普通に名前でいいんじゃないか?」
「名前…」
「"保"だ」
桃は言おうとするが、恥ずかしいのか鯉のように口をパクパクさせている。
「……」
「無理に言おうとしなくていい。言えるタイミングで言ってくれればいいから」
「…ごめんなさい」
「謝る必要はないさ」
「でも…」
「そろそろ出るか。送って行く」
「うん」
桃はうまく保と呼べなかったことが悔しかった。
落ち込んでいる桃をとある場所へ連れて行こうと保は思った。
二人は車に乗り込み、保の運転で桃の家に向かい始めた。
それも最初のうちだけで、どんどん山の方へ向かっていく。
「先生、家と反対方向だよ?」
「分かってる。いい所に連れてってやるよ」
保が連れて来たのは、山の頂上にある展望台だった。
住んでいる街が眼下に見渡せ、街の光がキラキラしていた。
「綺麗…」
「だろ?たまに来るんだ」
「いい所だね」
「俺のお気に入りの場所。教えたのは桃が初めてだ」
「そうなの?」
「あぁ。桃になら教えられると思ったんだ」
「先生の特別みたいだね」
「"みたい"じゃなくて特別なんだ」
保は桃を後ろから抱きしめた。
「ずっとこうやって抱きしめたいと思ってた」
「うん」
「これからもずっと俺の腕の中にいてくれるか?」
「もちろんだよ」
「なぁ、桃。…キスしたい」
「えっ…」
「桃が嫌だったらいいんだ。ただ今すごく桃にキスしたいと思ってる」
「正直言うとね、怖いんだ」
「あの事件があったからか?」
「うん。でも、先生にならいいよ」
「怖いんだろ?無理しなくていいんだぞ?」
「無理してない。あたしもしたい。先生とキスしたい」
「いいんだな?」
「うん」
桃は静かに目を閉じた。
保は桃の柔らかな唇に自分のそれを重ねた。
重なった瞬間、桃の体がビクッとしたが、それ以降は何もなかった。
触れるだけのキスをして、唇を離す。
まるで、唇から火が出ているような感覚に陥るくらい熱く感じた。
桃は物足りなさそうな目で保を見ている。
これ以上すると保の理性が吹き飛んでしまうので、保は大人の余裕を見せつつ、桃を宥めることにした。
「ありがとな。体が冷え切る前に帰るか」
「うん」
展望台から桃の家まで二人は無言だった。
保は嬉しさで舞い上がってしまっていたから。
桃は恥ずかしさで何を話していいか分からなかったから。
それぞれ思う所は違えど、最初の一歩を踏み出したのだった。
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