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第三章 カーテンコールまで駆け抜けろ
68、者共、祭りの始まりだ!
しおりを挟む翌日は式典だ。
まず最初は王宮内のホールにて、王国内の有力貴族や、聖国・皇国の面々も見守る中、執り行われる。
「『我は魔女ピーリカの祝福を受けし者。第十一代フェルニス王ラームニード・ロエン・フェルニスなり』」
式典の内容は昨夜の儀式を簡略化し、少し改変したようなものだった。
昨日とは打って変わり、豪華絢爛な式典用の衣装を着たラームニードがそう宣言する。
「『フェルニスの子らに力と幸運を。そしてフェルニスの大地に平穏を。古き盟約と契約に従い、我が存在を持って、古き盟約と契約の継続を為さん』」
そうして、差し出された儀礼用の杖を手にする。
それを頭上に掲げると、先端に嵌められた石が光り輝いた。
杖は魔道具であり、王としての資格を持つ者が持たねば光らないのだという。
その場にいる全員の目の前で王としての証明を突き付け、ラムニードは高らかに言った。
「契約は為された! フェルニスに栄光あれ!!」
ホールに歓声が満ちる。
服がハジけずに無事に終える事が出来、リューイリーゼは肩の荷が少しだけ下りたような気がした。
***
その次は、民衆達に向けてのものだ。
王の姿を直接目に出来るチャンスともあって、王宮前広場には多くの民衆が集まっている。
もしかしたら、王都中の民が集まったのではないかと思ってしまう程だ。この日の為に地方からやって来るという人々もいるというので、もしかしたらそれ以上かもしれない。
広場を見渡す事が出来る王宮のバルコニーで、護衛であるアーカルドとノイスを左右の斜め後ろに従えたラームニードは、輝く杖を掲げた。
その姿を目にして、民衆が歓声を上げる。
──その時だった。
「聞け! フェルニスの民達よ!!」
ラームニードの声が大きく広場に響き渡った。
「え」
思ってもなかった事態に、王付きの面々が目配せし合う。
それは民衆達も同じだったようだ。
さっきまでの歓声がぴたりと止まり、予想だにしなかった国王からの直接のお言葉に、喜ぶよりも戸惑うように周囲の人間達と顔を見合わせている。
本来ならば、杖を掲げた後に花火を打ち上げ、それで終わりの筈だった。
こんなのは予定には無かったし、聞いてもいない。どうするんだ。
「え、あれって拡声の魔道具まで使ってますよね……?」
「止めた方が?」
「いやこれ、下手に止めるのは却って不味いでしょう……」
「既に民衆に向けてお声を掛けてしまっている訳ですしね……。民衆達の目の前で簀巻きにして撤収する訳にもいかないし」
王付き侍女・侍従として他国の要人の前で醜態を晒す訳にはいかない、と綺麗な姿勢と微笑みを保ったままの小声での応酬だったが、大混乱だ。
お願いです、お願いです。
全裸だけは止めて下さい。半裸も出来れば止めて下さい、頼むから。
心の底からそう念を送るリューイリーゼ達の気持ちなど気にもせず、ラームニードが続ける。
「かつて建国の際に、初代国王バルテロスはこう言った。『これまで、この地で多くの争いがあり、多くの血が流れた。だからこそ、一年に一度のこの日だけは、恨みも憎しみも全て忘れて、皆で仲良く呑み騒ぎ明かそうではないか』と」
初代国王バルテロスは戦乱の世を駆け抜けた武人だが、それと同時にとても慈悲深い人だったとされている。
その強さと優しさは、かつて刃を交えた敵でさえも魅了した。この男に付いていきたいとさえ思わせた。
そんな彼だからこそ、魔女も愛したのだ。
「バルテロスは願っていたのだ。この地の平穏を、そしてこの地に住む民の幸福を。なればこそ、私も願おう! かつて我が祖が願ったように、この愛しきフェルニスの大地の平穏を、そして愛すべきフェルニスの子らの幸福を! 全てのフェルニスの民に祝福あらん事を!!」
杖を掲げそう宣言したラームニードに、民衆達が大きな歓声を上げる。
その時、タイミング良く花火が打ち上がった。
それを受けて、民衆達の熱気が更に増す。割れんばかりの歓声と指笛の音に、ラームニードが笑みを深めた。
「──さあ、祭りの始まりだ! 愛する者と飲んで歌って、大いに楽しめ!! 年に一度の祭りを心ゆくまで堪能せよ、者共よ!!!」
杖を持った腕を高く掲げたラームニードに釣られるように、民衆達も腕を掲げて声を上げた。
歓声が轟き、うねりとなってリューイリーゼ達の元へと届く。
あまりにも雄々しいその様は、最早式典なのか何なのか分からない状態だ。
確かに王なのに、王らしくない。けれど、それがラームニードらしいような気がした。
「何だ、その顔は。呪いが発動するとでも思っていたのではないだろうな?」
壇上から降りて、何処か呆然としていた側近達を見て、ラームニードが眉を顰めた。
リューイリーゼを含めた面々は互いの顔をチラリと見合わせ、そして言った。
「正直思ってました」
「申し訳ありませんでした!」
「陛下の醜聞が王都中に広がるとか思って、すみませんでした!」
「明日の新聞の一面になると思っていました」
「お前ら、本当に後で覚悟しておけよ!」
側近一同は素直に謝る。
それでも、彼らの表情から笑みが消える事はなかった。
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