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第一章 王様と呪い

33、事件の後処理2ー第十一回全裸対策会議

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 事件後、とある会議が開かれた。
 毎度お馴染みとなってしまった『第十一回全裸対策会議』だ。
 
 ここまで定期的に開かれていると、参加者も慣れた様子で平然と席に着いている。

 ただ一人、ラームニードだけが「毎度思うが、何だこの会議名。馬鹿にしてるのか」と不愉快そうだったが、リューイリーゼは「簡潔で分かりやすくて良いではないですか」と宥めた。
 簡潔すぎる気もしなくはないけれど、ここまで回数を重ねてしまったら今更他の名前になる事もないだろう。諦めが肝心だ。

 何だか妙に緊張感がない主従は放って、会議は始まった。
 まず口火を切ったのは、宰相である。


「呪いについて、進展がありました。判明したのは、呪いの詳しい発動方法です。──魔法師団長」
「はい」


 魔法師団長が立ち上がり、話し始める。
 

「これまで『他者へ悪意を向ける事』が発動条件だと考えられていましたが、今回の件を踏まえると『王に相応しくない言動をする』と言った方が正しいかと思われます」


 魔法師団長の言葉で、その意図が察せなかった何人かが眉を顰めた。
 その様子を見て、魔法師団長が会議用の黒板に白墨で文字を書く。


 ──酷く傲慢で、哀れな王よ。人を慈しむ言葉を知らなければ、お前は永遠に【裸の王】のまま、孤独に死んでいく事だろう。


 魔女が残した言葉をそのまま書き出し、参加者達へと向き直る。


「これが魔女が残した言葉です。この言葉自体が呪いであり、魔女がかけた魔法の本質を表しています。これが魔法をかける標的を指していて」


 そう言って、『酷く傲慢で、哀れな王』の部分を丸で囲う。


「これが魔法の発動条件」


 次は『人を慈しむ心を知らなければ』の部分を三角で囲う。


「そして、これが魔法の効果です」


 最後に、『裸の王』の部分を四角で囲った。


「つまり、『国王陛下』が『人を慈しまなければ』『裸の王』になる、と。これまでは、そう考えられてきました」
「これまでは、ということは、そうではないのですね?」
「我々人間が使う魔法であるならば、この解釈のままで正しかったでしょう。ですが、これは魔女の魔法です。それよりも前に、前提条件があったのだと気付く事が出来ませんでした」


 宰相の言葉にそう頷いて、魔法師団長は『王』部分の下部に波線を書いて強調した。


「魔女は国王陛下が『王』である事を望んでいた。決して傲慢ではなく、人を慈しみ、多くの人間に愛されるような王であるよう、願いをかけていたのでしょう。そして、それはちゃんと魔法に反映されている」
「話が長い、もっと簡潔に言え」


 丁寧過ぎる物言いに、うんざりしたラームニードが口を挟んだ。
 魔法師団長はハッとして、コホンと咳払いをする。


「つまりは、『王』として相応しい言動であるならば──国のためになる害意や悪意ならば問題ないという事です」
「国の為の害意……?」
「例えば『コイツ、ムカつくから処そう』という理由では、問答無用で服がハジけます。ですが、『コイツ、悪い奴だから処そう』という理由であるなら、呪いは発動しないという事です」


 説明が一気に軽くなりすぎでは、というツッコミも無くはなかったのだが、その場の全員が何も言わなかった。

 それよりも、新たな発見に対しての衝撃が凄かったのだ。

 誰かが、ポツリと零す。



「それは……逆賊を暴く手段になり得るという事か?」



 例えば、ラームニードが誰かに「この逆賊め、処刑してやる」と告げるとする。
 そして、それによって呪いが発動したのならば、その者はシロだ。叛意などとは縁がない忠臣だと分かる。
 しかし、逆に服がハジけなかった場合は、逆賊である可能性が限りなく高いという事になる。

 王の服が犠牲にはなるが、確実に敵味方を判別出来る判別方法が爆誕してしまった。
 

 けれども、一同は思った。



 ──そんな方法で忠誠を測られるのは、物凄く嫌だなぁ。


 
 そして、それと共にリューイリーゼの頭にとある単語が浮かんだ。浮かんでしまったのだ。


 思わず呟いていた。



「……全裸の嘘発見器」
「ノッフォッ!!」


 シンと静まり返っていた部屋の中で、その呟きは妙に響いてしまった。
 あ、まずいと思っても既に遅く、それを聞き逃さなかったらしい宰相が噴き出し、それに釣られるように次々と大臣達の肩が震え出す。

 流石に腹が立ったらしいラームニードに、丸めた書類で叩かれた。
 当然、服はハジけ飛ぶ。

 ポコン、パァン! というあまりのリズムの良さに、我慢出来ないと言わんばかりに噴き出していく者が増えていく。
 もはや会議だという事も忘れて、笑いが次々と感染していった。
 笑いのデススパイラルである。

 多いがけず笑いの発信源となってしまったリューイリーゼは、腹を抱える人々の中で、恐る恐るラームニードの様子を窺った。
 これは流石に怒られる……というか、むしろクビになるのではないだろうか。
 ショボンと気を落とすリューイリーゼに、赤い視線が向けられる。

 振り返ったラームニードはキッとリューイリーゼを睨み付けた。
 こちらへ寄れという無言の圧力を受けて体を寄せると、こう囁かれる。



「後で説教だからな。覚悟しておけよ」


 
 ラームニードの瞳には、イシュレアに向けたような猛烈な怒りはなかった。
 まるで宰相らに対するかのような親しげな色が浮かんでいるのを見取って、リューイリーゼの表情は自然と緩んでいく。



「はい、仰せのままに」


 
 斯くして、リューイリーゼが言うところの『全裸の嘘発見器』は満場一致で緊急時以外は封印される事が決定した。
 というもの、それを連想させる単語を耳にしただけで笑い出す人間が後を絶たなかったからである。

 その筆頭である宰相の腹筋は死に、その現場を目にする度にリューイリーゼがラームニードに説教される事となった。



「とりあえず、クビにならなかったならいいか」
「……リューイリーゼ殿、神経が図太いと言われませんか」
「……類は友を呼ぶって言葉、知ってます?」



 そんな呟きを耳にしたアーカルドは、ドン引いた顔をしていた。
 そうでなければ王付きなんてやっていられないと知っている筈なのに、その言い草は誠に遺憾である。


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