25 / 35
これまでの裏話
ケース2裏 side アルバータ神3 全てがもう遅い
しおりを挟むアルバータに帰った私は、呆然とその光景を見つめていた。
魔女が死の瞬間放った瘴気は、王都を丸ごと飲み込んでいた。
瘴気に毒された民衆は病に倒れ、また心を蝕まれて正気を失ったり、命を落とす者も徐々に増えてきている。
聖女ミルリアも必死に浄化の力でそれに対抗しようとしてはいるが、状況は芳しくない。
カンダの言った通りだ。
ミルリアは魔女──チエミ程の聖女としての才はない。
チエミ程の力の出力を、彼女に求めてはいけないのだ。
ミルリアも頑張ってはいるが限界も近く、浄化の力も徐々に弱まってきていた。
このまま力を行使し続ければ、いずれミルリアは力尽きてしまう。
そうすれば、命を落とす民衆が一気に急増するだろう。
そして、その民衆の亡骸から再び瘴気が湧き、いずれ国を──そして世界を飲み込む。
別の国で新たな聖女を探す事も考えた。
しかし、居ても一人か二人、ミルリアと同等程度の力の者しかいない。
その程度の力しか持たない聖女に、ひとつの国を飲み込む程の瘴気を浄化を求めるなど荷が重すぎる。焼石に水でしかないからだ。
慌てて異世界に戻って、チエミの代わりの聖女を見繕うしたが、それも無理だった。
例の異世界へと続く門が、どう足掻いても開かないのだ。
『──二度とお会いする機会がありませんように』
カンダが最後に残した言葉を思い出す。
あの男は、あれでも神の一柱だ。奴が何かをしたのだ。
そう確信すると同時に、もう打つ手が無いと絶望的な気持ちになる。
──どうしてこんな事になってしまったんだろう。
壊れかけた世界で、私はそう呟いた。
異世界から聖女を召喚したから?
その聖女が殺されるのを、黙って見過ごしたから?
墜ち神に堕ちてしまう程、聖女に絶望を与えたから?
……いいや、違う。
もう、理解している。
そもそも、瘴気が生まれた時点で止めなければならなかったのだ。
全ては、聖女から始まった訳ではない。
戦争の道具として使う為に行われた魔獣を使った非道な実験と、そこから生まれた瘴気から全てが始まったのだ。
幾ら愛し子らの仕業だったとしても、ちゃんと諌めなければならなかった。
その尻拭いを、何の関係もない異世界の聖女に押し付けるべきではなかった。
聖女が瘴気を浄化してくれるからと、実験を再開させた子らを止めるべきだった。
もし、初期段階で止められていたならば。
もし、聖女に魅了の力なんて与えなければ。
もし、聖女をちゃんと大事に扱っていたならば。
……そう気付いても、もう遅い。
幾ら神とはいえ、私にこの状態を打破する力などないのだ。
──────本当に、どうしてこんな事になってしまったのだろう。
私は嘆きながら、愛した世界の終わりを見守り続ける。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
悪役令嬢ですが最強ですよ??
鈴の音
ファンタジー
乙女ゲームでありながら戦闘ゲームでもあるこの世界の悪役令嬢である私、前世の記憶があります。
で??ヒロインを怖がるかって?ありえないw
ここはゲームじゃないですからね!しかも、私ゲームと違って何故か魂がすごく特別らしく、全属性持ちの神と精霊の愛し子なのですよ。
だからなにかあっても死なないから怖くないのでしてよw
主人公最強系の話です。
苦手な方はバックで!
兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?
志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。
そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄?
え、なにをやってんの兄よ!?
…‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。
今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。
※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる