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[二巻]

四限、コミフリ戦士……1

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 緊急総会から一週間が経った水曜日の放課後。
 鉄也は絶望の淵に立たされていた。
 座り込む鉄也を、舞子、丸山、そして逓信部の仲枝が囲んでいた。
 本来ならば逓信部の放課後の活動拠点は内信が収集された部室。
 にもかかわらず、部長である彼女がここにいるのには理由があった。
 机の上に束ねられた茶封筒の山を指すと彼女は忠告を始めた。
「鉄也くん。ボクもこれが活動だから運んでやるけど、この量の受取拒絶は見たことないよ」
「郵便って『この人はいません』っての以外にも返ってくるんだな」
「切手も金融商品だから、お金払ってる人には悪いとは思うけど。たださ、逓信部はあくまでも学外の本物を模倣してるだけに過ぎないし、できれば受け取ってくれるかどうかを相談してから差し出してくれないかな。その分の苦情を受けるのはボクらなんだよ?」
 実はこの束、鉄也が舞子支持者を集めるために一斉に差し出したものであった。
 舞子に「気を引き締めろ」と釘を差しておきながら、彼自らが後手に回ってしまっていたのだ。
 そのため中堅どころの部の引き込みは、既に各候補者によって目処がついていた。
 そこで少人数の部に向けて懇願書を送ったつもりだったのだが。
 これが読まれるどころか切り跡一つもない状態で送り返されてきたというわけだ。
(八方塞がりだ。やべぇぞ、日曜日ヘコんでる場合じゃなかったな)

 ――ミーンミンミンミン

 用件を済ませた仲枝が部屋を出ると、鉄也はおもむろに立ち上がった。
 熱した窓を引くなり、近辺で鳴き喚く油蝉を威嚇するように奇声をあげた。
「ミーンミンミンミンミン! ギューンガチャギューンガチャ! ギュインギュイン!」
「もー静かにしてよ!」
「殿、ご乱心なり」
「うるせぇ、殿は俺じゃねぇ!」
 丸山に羽交い締めにされると、鉄也は強制的に座席へと引きずり戻された。
 舞子は教室の出入り口を施錠すると、遮光カーテンを締めた。
 座り込む三者は一様に消沈している。
「で、西極氏。今どういう状況?」
 こう問われ、鉄也は引き出しから開封済みの封書を引っ張り出した。
 月曜日に届けられた選挙管理委員会からの速達。
 封中には最終的な概要とトーナメント表の結果が入っていた。
 鉄也がこれを広げると、丸山と舞子は覗き込むように屈んだ。
「Aブロックは入江と圭佑。ざまぁとしか言いようがねぇな。Bブロックは鈴川と小原になってる。まぁ、高鍋に期待するしかねぇ。Cブロックは譲とルーシー。初っ端から内紛って感じだ。そして、栄えあるDブロックは足立とお前だ」
「いきなりだね」
「ああ。けど、もう逃げねぇぞ。これ以上みっともねぇ姿晒してられねぇし」
 鉄也は椅子の背もたれを沿うようにして仰け反った。
「問題はそこじゃねぇ。奴ら、金曜の放課後から各部の取り込みに動いてたんだ」
「唆したのはてっちゃんじゃん」
「お前だって乗り気じゃなかったろ。それに選挙ポスターもうちが一番ショボい」
 黒板脇に目をやると、鉄也は溜め息をついた。
 フォント依存の文字の羅列に、取って付けたような舞子の写真。
 さながら履歴書を彷彿とさせる。
「完全にブーメランですな」
「どこも広報ポスターを作る能力があったんだよね。ほら、よその部活動って鈴川さん以外はみんな大会とか発表会の告知しないといけないから。私、そういうのやったことないし」
「パソコン打てただけでも大したもんさ」
 鉄也はボールペンの芯を出し入れしながら、
「ババアもババアだ。あれだけ人に入れ知恵しときながら、肝心なところは丸投げだ」
 こう言い捨てると、引き出しを探り始めた。
 すると、こつんと何かが当たった。
 引っ張り出されたのは、入江工業から納品された統領選専用端末。
 帰りのホームルームで仕様の落とし込みがあったばかりだった。
 電源を入れると、出来映えの良い高グラフィックの起動画面が『ラタス・バタリア』の文字を泳がせる。
 英梨から情報を掻い摘んだ下城が改めた缶蹴り合戦の新名称ということだった。
 そこで、鉄也はひらめいた。
「おい、丸山。これ作ったパソコン部の下城って知ってるか」
「知ってるも何も、小生西極氏の次に親しくしているのは下城氏ですし」
「えっ、ほんと?」
「パソ部ならアニ研とのコネがあるから、最低でも十人弱は集まると思われ」
 鉄也は思わず立ち上がった。
「でかしたぞ、ブタ!」
「小生みたいな二次元に生きる戦士は、三次元に興味ありませんしおすし」
 丸山のこの言葉を鉄也はもっと精査すべきだった。
 加えて言うなれば、里見の話にも耳を傾けておくべきだった。
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