召喚農夫の田舎暮らし

香月ミツほ

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魔力の新たな使い道2

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「スイ様はブリアン様を幸せにして下さってる上に、領民に甘味を提供できるようお考えくださり、それを行動に移しておいでです。夫を支え、領民を思いやる心が何よりですが、さらに高位の召喚術師でもおられます。これ以上相応しい方がおられましょうか」
「そんなに褒められるような事じゃないです! ただ思った事をさせてもらってるだけだし、高位の召喚術師だなんて!!」
「冒険者登録してみろ。Sランクは間違いねぇぞ」

召喚術については自信を持っていいのかな?

「えへへ…… ロルカンもファーガスさんもありがとう」
「さ、ご自分で歩けるようになるまでお休み下さい。ご無理なされませんよう」

優しさだけど恥ずかしい。
もう、こんな事の無いように、疲労回復ポーションをたくさん作ろう!



*********************



部屋に戻るとマンドラゴラがスイ水ボールを鉢から落としたところだった。魔力を吸い取り終わったのかな? ファーガスさんがぼくをベッドに寝かせて今朝のシーツを濯いだ水にボールを浸けて戻すと、また抱っこした。

うん、お代わりだったみたい。

ファーガスさんが外から土を持って来て、それを素材にしてボールをたくさん作ってすすぎ水の桶の中にぽいぽい入れて行く。そんな作業を見守りながら午前中が過ぎた。

「あーっ、疲れた!! スイ、少しだけ魔力分けてくれ」
「ん…… もちろん…… んちゅ……」
「ありがとな」
「え…… もう終わり?」
「なんだ、キスでイくまでして欲しいのか?」
「そー言う訳じゃ無いけどっ!!」

ちょっと物足りないって言うか……

「ほら、メシをちゃんと食って、薬草園に行くぞ」

お昼ご飯を食べてスイ水ボールを持って薬草園に行った。

「違いがわかるようにこっち側だけ埋めるぞ」
「はい」

東西に畝を作っているから西側に埋める。
これでスイ水ボールの魔力が植物に直接作用するのか、間接的に作用するのかをみる。間接的と言うのは多分、ミミズやモグラ、ネズミ、虫たちが集まって来て結果的に土地が豊かになるってことだと思うんだけど、それってそんなに早く結果が出るのかな?

「焦るな。作物なんて時間をかけて育てるもんだろ?」
「そうでした」
「お前はワームに甘やかされ過ぎてるからな。少しせっかちになってるんじゃ無いか?」
「そんなことない! ……と、思うけど、でも…… うぅ……」 

ファーガスさん、元貴族で冒険者なのに農家みたいな事を言う。

「土属性魔術師だからな。農家や農地の相談事の依頼が多くなるんだ」

新しい畑の中の大岩を砕いて欲しい、とか水捌けを良くして欲しい、肥料を土に馴染ませて欲しい、などなど。

「魔獣退治とかじゃないの?」
「それもやるし、調査もする。植物系の魔獣は苦手だが切っちまえばなんとかなるしな」

意外と色々するんだね、って話をしながら部屋に戻った。

ぽとん

マンドラゴラの鉢からスイ水ボールが落ちた。

「またお代わり?」
「魔力が少なかったか?」

ファーガスさんと顔を見合わせて…… 照れる。
今回は我慢しなかったからかなぁ?
でもいっぱいしてるから今しても魔力は薄いような気がするので、夜まで待ってもらおう。

「いやらしい顔になってんぞ?」

うわーん! ファーガスさんのバカー!!
ちょっと期待しちゃっただけなのに耳を舐めながら囁くとか、感じちゃうに決まってるでしょー!!

ぼくは部屋を飛び出して、ブリアンの所に駆け込んだ。

「どうしたんですか?」

お仕事中なのに蕩けるような笑顔で迎えてくれる。

「ごっ! ごめんなさい! お客様がいらっしゃってるとは知らず、失礼いたしました」
「母ですから問題ありません」
「そうだよ。今日はわざわざキミを迎えに来たんだから来てくれた方が嬉しいよ」
「へ? ぼくを迎えに???」
「そう。もう一度よく見て確かめてから、と思って来てみたけどやっぱり気に入った。その地味な顔は…… 私の美貌を引き立てるのにピッタリ!!」

何を言ってるんだろう?

「そう言うだろうと思ってました」
「あ! ブリアンが言ってたお母様はぼくの事、気に入り過ぎて欲しがるだろうからって…… この事?」
「そうです。この自分勝手な人に付き合う必要はありませんよ」
「ブリアン! 嫁を紹介するのは貴族の務めでしょう!」
「スイをおもちゃにする気ですか?」
「そんな事しないって。ただ、ブロデウウェッド公爵夫人が嫁を見せろってうるさいから、仕方ないかなー、って」
「もうあの方と張り合うのは止めて下さい」
「向こうが張り合ってくるんですー!」
「無視すればいいでしょう」
「負け犬呼ばわりされたくない!」
「……あの、ぼくが行くと余計に負けませんか?」
「だぁーいじょーぶ! 来てくれる?」

義母の頼みを無碍にはできません。 

すぐにも連れて帰ると言われたんだけど、植物の世話が実験中だからお茶会の日にちを聞いて後から行くことを約束した。しかも!ブリアンも一緒に行ってくれることになった。心配だからだって。

貴族のお茶会なんて何していいのか、何をしたらダメなのか分からないから嬉しい!
早速お茶会の衣装作りと作法を教わった。

主催者はエルネッド様なのでぼくは隣に控えてニコニコしてれば良い、と自分から先に声をかけてはいけない、以外の作法は全然頭に入らない……。

お茶会は半月後だそうです。


*********************


秋も深まり、朝晩の冷え込みが厳しくなって来た。
外の薬草園は寒さに強いものや枯れてから収穫するものを残してお休み中。
寒さを感じないと発芽しないマンドラゴラのタネは10粒ほど鉢植えにして外に置いている。貴重な品だから盗まれないように見張りまでつけた!

……見張りはネズミさん。

交代で見張ってくれてるけど、鳥や虫やリスが来てはほじくり返して食べようとするので撃退してくれる。時々怪我をしているので心配になってポーションを水に混ぜてあげたら全体的にワイルドな感じになってきた。

「普通のタネならともかく、マンドラゴラのタネを欲しがるのか」
「やっぱり効能がすごいって動物さん達も知ってるんだよ。見張りのネズミさんもタネを狙って来た時にぼくと仲良くなったんだもん」

取りこぼしたタネを大怪我をしてまで奪い合っていたから、喧嘩を止めてポーションをあげたら仲良くなれたんだよね。怪我をして回復するごとに強くなる種族みたいで、リーダーはぼくの両手サイズのマッチョネズミになっている。若い鹿くらいなら1匹で倒せるんじゃないかな?

群れで行動するのが多いレギオン・ラットだけど、リーダーは単体でも強いからたまに1匹で獲物を捕って来る。繁殖期に多く見られる行動だから母子達のために頑張ってるのかな?

ただ、寿命が短くて2~3年で世代交代するから、際限なく強くなることはない。ポーション入り団子をあげようと考えたこともあるけど、リーダー争いが激化するから止めた。

「新しいタネはそろそろ出来るのか?」
「スイ水ボールあげてたからたくさんできたんじゃないかな? お茶会へ行く前に収穫しようか?」

まだ鉢植えのまま室内に置いてあるので、夜ブリアンが帰って来たら収穫しよう。 
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