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おお!っと王都で驚いた

イルカに乗った少年達

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コリンさんがオルトさんと仕入れにかこつけたデートに行っている午前中、おれ達は庭で水遊び。オスカーは足が水に浸かるのは好きなのに顔に水がかかると泣く。一滴で泣く。

海、行ける……?

それから少し早めの昼食を食べて馬車でオルトさん達を迎えに行った。



「まま! うみ?」
「そうだよ、ここも海だよ。あれは船」
「ふね!」
「「ふねー!」」

港で合流して帆船を見ると、みんなきゃっきゃと喜んでいる。アレクは何も言わないけど、目がきらっきらしてる。大きな船、カッコいいよねぇ。

しばらく船を眺めて気が済んでから海プールに行く。そう言えば温泉が引き込まれてて涼しくても入れるんだった。

「「「「うみーーーーー!!」」」」

水着に着替えさせてトイレを済ませ、いざ大海原の!! …………隅っこへ。

アレクは大人用(?)プールで泳ぎたいらしいのでまずはマインラートくんに付き添ってもらう。オルトさんとコリンさんはオスカーと遊んであげて、ヨハンとハルトはおれと一緒に子供用プール。

「ぅえぇぇぇぇん!!」

腰まで水に浸かるのは平気なのに顔にほんのちょっと水が跳ねただけで泣き出すオスカー。情けない!ってコリンさんが水鉄砲で水をかけたら更に泣いた。

意外とスパルタ?
いや、それほどでもないか。

まだ強い陽射しをキラキラと反射する水面、打ち寄せる波、磯の香りを運ぶ潮風。言葉にすると夏なのに感じる秋の気配は雲のせいかな?

ふとオスカーが泣き止んだ。

「キューイ!」
「あー!」
「キュイーーー!!」
「おぉーーー!」

海の上に突然現れるピンク色のイルカの群れ。オスカーと会話してるみたい。
浅いから海プールの側までは来られないみたいだけど、おれ達を誘うようにキュイキュイ鳴いている。もしかしてオスカーを慰めてる?

イルカに向かって手を伸ばすオスカーをオルトさんが肩に乗せ、平泳ぎでイルカに近づいた。すごい、全然逃げて行かない!

羨ましい…… おれもイルカと触れ合いたい…… でもあんなに遠くまで行く自信はないんだよなぁ。

「チサト、僕たちも行こうよ!」
「え、でも……」
「ほら、あそこで舟が借りられるよ」

食べ物屋台が並ぶ区画の端に確かに貸し舟屋さんがあった。これなら行ける!

アレク、ヨハン、ハルト、コリンさんとおれ、マインラートくんで乗り込む。コリンさんが意外にも上手に漕いでくれて、イルカ達の側まで行けた。

ぐんっ!

突然上がるスピード。揺れる舟。落ちないように子供達をしっかり抱きしめて踏ん張るといつの間にかイルカが舟を押して運んでくれて、群れに囲まれていた。

「オスカー! オルト!」
「かーしゃ!」

オルトさんは乗れなかったのでオスカーを船に乗せ、辺りを見回すとイルカ達が遊んで欲しそうにしていた。

「チサト! ぼく行ってくる!!」
「アレク?」

アレクが舟から海に飛び込むと、1頭のイルカが下からすくい上げるように背に乗せたのでアレクは背びれに掴まった。

「イルカはやいー!」
「あれく、しゅご!!」
「よはんもいるかしゃんのりたい!」
「ヨハンももっと泳げるようになったらね」

心配してそう言ったのにイルカが1頭、誘いに来た。大丈夫かなぁ?

「いざとなったらオルトが助けに行くよ」

コリンさんがそう言うので誘ってくれたイルカにヨハンを乗せたら、イルカはゆっくり泳いでくれた。イルカさん、賢い! 幸いハルトとオスカーはイルカに乗るより母の抱っこでイルカを間近に眺めるのが嬉しいらしく、おれ達に掴まりながらきゃっきゃっと喜んでいた。

20分ほど遊んでくれたイルカはヨハンを舟に戻し、アレクにも降りろと言うように舟に横付けして夕日を背に帰って行った。

「すごかったね!」
「いるか かわいい!」
「ちがうの! かっこいいの!」

興奮冷めやらぬ子供達を乗せて、オルトさんがバタ足で舟を押してくれた。オスカー、お父さんも凄いよ!?

夕方になって疲れたちびっ子2人はウトウトし始め、舟の上で舟を漕いでいる。(笑) 辻馬車でヨハンを家に送ってみんなでうちに帰るろうとしたらヨハンがなぜ自分だけ離れなければいけないのかと大泣きした。お泊まりしても良いんだけどもう寝るだけだよ? と宥めたら寝グズだったようでヨハンの家の前で抱っこで寝落ちした。

家に帰ってハルトとオスカーはそのまま寝かせ、アレクはなんとか夕飯を食べた。でもシャワー中に寝落ちしたらしい。ちなみに大人たちの夕飯はおれのリクエストでカレー。

「オスカーは魔獣使いの才能があるのかも知れないな」
「あぁ、そうかもな」

帰ってきたフィールが夕食後にオルトさんとお酒を飲みながらそんな話をしている。魔獣使いって職業があるの?

「いや、特技だな。そこから研究者になったり馭者や酪農家になったり狩人になったりする」

狩人、懐かしい。じーちゃん達、みんな狩猟免許持ってたしばーちゃん達は罠猟の資格を持ってたもんなぁ。時々玄関先に鹿の足が置いてあったりイノシシが獲れると宴会したり。でも危なくない?

「そんな先のことを心配してどうする。チサトはハルトの将来を今から心配してるのか?」
「どんな職業があるのか知らないし、何が向いてるかわからないけどハルトはおれに似て華奢だから強くはなれないんじゃないかな、って」
「デーメル家の子だぞ?」
「本人が望むなら応援しますけど、ドレスやリボンが大好きなのでそう言う道に進むなら危険はないかな、って」
「オスカーもどうなるんだろうね? オルト」
「興味を持ったら何でもやらせて見るしかないさ」

子供達の将来を想像させて不安と期待をもたらした晩酌は小1時間で終わり、あと2泊。明日は何をしようかな?
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