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侵入者
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ーー デーメル side ーー
少年らしい服がよく似合っているが、私と揃いのデザインは不満のようで少々寂しい。そしてツィーゲ伯は食堂へ顔を出さなかった。なにを目論んでいるのか。
いつもなら料理をしっかり味わって喜ぶチサトが上の空で、表情も硬い。
「お口に合いましたでしょうか?」
「はっ、はい!美味しかったです!」
……やはりギゼラを心配しているのだろう。
ギゼラにいつ食事を摂るのか聞いてゆっくり食べるよう話していた。
「フィール……」
「どうした?」
「ギゼが頑張ってるのを喜ばなくちゃいけないのに、一緒にご飯を食べられないのが悲しくて……まだ8……9歳なのに働くのって……この世界では普通の事かも知れないけど、おれの世界ではまだまだ遊びながら勉強してる歳なんだよ。だから……もっと子供らしく甘やかしてやりたかったのに……」
「だが、決めたのはギゼだ」
ソファに隣合って座り、目に涙をためて話すチサトの頭を撫でながらギゼラがここが嫌になった時にいつでも温かく迎えてあげる事だと言っておいた。
その直後、ノックをして入って来たギゼラに心配されていたが、ギゼラから皆が良くしてくれていると聞き、安心したようだ。
「せんせい、よるはおしごとおやすみなの。あそびにきても よろしいですか?」
「うん! 良いよ! 一緒に寝る?」
「チサト!?」
「ライナーさんにきいてみます!」
教育係に聞いてくると言って走るように出て行ったギゼラ。私がいるのにチサトはギゼラと眠るのだろうか?許可をもらって戻って来たギゼラと2人でシャワーを浴びて寝間着に着替え、うきうきとベッドに入ってきた。
「ギゼが真ん中ね」
「どうして?」
「なぜ?」
「お願い!!」
ギゼはチサトの隣で不満はないようだが私はギゼラ越しだ。なぜチサトが真ん中ではいけないのか。しばらくおしゃべりをした後、寝息を立て始めたのを確認してギゼを真ん中にしたがった理由を訊ねた。
「あぁ、川の字って言ってね、その……夫婦で子供を挟んで眠るのが……幸せの象徴って言うか……」
「夫婦……?」
「あっ! あの! おやすみなさい!!」
自分で言った事に照れて慌てるチサトにおやすみのキスをねだり、やがて私も眠りに落ちた。
(ツィーゲ伯、夜這いですか)
(違う! 天使達の寝顔に癒されに来たのだ)
(それ以上近づけば容赦しません。まったく仮病なんて使って)
(仮病など! 事実、私は魔女の一撃にやられたのだ)
(それが今、都合よく治ったと?)
(治っていない。寝室から食堂へ歩くこともできないのだ)
(ではどうやってここまで?)
(侍従に背負わせた)
朝早くに入り込んで来たツィーゲを威嚇すれば馬鹿なことばかり言っている。確かにこの2人の寝顔はまさに天使でこの上なく癒されるが、私がそれをこの男に見せる筈がないだろうに。
(……安眠の魔法が効かなかったのか?)
(護衛部隊にそんなものが効くわけないだろう)
(くっ!!)
「……んん……あ……ちさとせんせい、おはようございます。ちゅっ」
「ちゅ……ふぇ? せんせい? あ、ギゼ、おはよう~」
「チサト、ギゼ、おはよう。それからツィーゲ伯、客の部屋に忍び込むとはどんな了見ですか?」
「忍び込むだなんて!! 私はギゼラを起こしに来たんだ。仕事だよ、と」
「ごしゅじんさま!! ねぼうしてしまって もうしわけございません!」
目を覚ましたギゼラに口付けで起こされるチサトに目を奪われる。
はっきりと顔の見える角度ではないだろうが伯爵が感動に打ち震えているのが見て取れる。わざと伯爵の存在を知らせたが2人とも伯爵の言い訳を疑いもしないとは。素直すぎる。
だがチサトが歩けないほどの怪我をした者が使う「車椅子」なる物について語ると、ギゼラは執事に教えたいと部屋を飛び出して行った。
怪我人や足を失くして退役した兵士にはとても有用だ。私もあとで作らせよう。
「チサトは私と似た服がそんなに嫌なのか?」
今日の服に着替えたら又しても不満げな顔をしたので思い切って聞いて見た。
「だって……同じデザインだとフィールが格好良過ぎておれが見劣りというか……」
「見劣り?」
「……子供が大人の真似して似合ってないけど微笑ましい、みたいな?」
「この上なく似合っている! 領主のセンスに嫉妬するほどだ」
「それ、恋は盲目ってやつだと思う」
チサトはこんなに愛らしいのになぜか自己評価が低いようだ。だが、不満の理由がそれならば他の服を着ればいいだけだ。
「……着替えるか?」
「洗濯物増やすのは申し訳ないからこのままで良い」
チサトらしい気遣いで今日もそろいの服になった。私よりもよっぽど人目を惹く事に気づいていないのは不思議だが、愛らしいチサトを眺めてられるのならば気にする必要はないだろう。
姿を見られたためか、朝食にはツィーゲ伯が現れた。
そしてチサトに熱心に車椅子について質問している。恐らくこの後さっそく制作に取り掛かるのだろう。興味深い。
少年らしい服がよく似合っているが、私と揃いのデザインは不満のようで少々寂しい。そしてツィーゲ伯は食堂へ顔を出さなかった。なにを目論んでいるのか。
いつもなら料理をしっかり味わって喜ぶチサトが上の空で、表情も硬い。
「お口に合いましたでしょうか?」
「はっ、はい!美味しかったです!」
……やはりギゼラを心配しているのだろう。
ギゼラにいつ食事を摂るのか聞いてゆっくり食べるよう話していた。
「フィール……」
「どうした?」
「ギゼが頑張ってるのを喜ばなくちゃいけないのに、一緒にご飯を食べられないのが悲しくて……まだ8……9歳なのに働くのって……この世界では普通の事かも知れないけど、おれの世界ではまだまだ遊びながら勉強してる歳なんだよ。だから……もっと子供らしく甘やかしてやりたかったのに……」
「だが、決めたのはギゼだ」
ソファに隣合って座り、目に涙をためて話すチサトの頭を撫でながらギゼラがここが嫌になった時にいつでも温かく迎えてあげる事だと言っておいた。
その直後、ノックをして入って来たギゼラに心配されていたが、ギゼラから皆が良くしてくれていると聞き、安心したようだ。
「せんせい、よるはおしごとおやすみなの。あそびにきても よろしいですか?」
「うん! 良いよ! 一緒に寝る?」
「チサト!?」
「ライナーさんにきいてみます!」
教育係に聞いてくると言って走るように出て行ったギゼラ。私がいるのにチサトはギゼラと眠るのだろうか?許可をもらって戻って来たギゼラと2人でシャワーを浴びて寝間着に着替え、うきうきとベッドに入ってきた。
「ギゼが真ん中ね」
「どうして?」
「なぜ?」
「お願い!!」
ギゼはチサトの隣で不満はないようだが私はギゼラ越しだ。なぜチサトが真ん中ではいけないのか。しばらくおしゃべりをした後、寝息を立て始めたのを確認してギゼを真ん中にしたがった理由を訊ねた。
「あぁ、川の字って言ってね、その……夫婦で子供を挟んで眠るのが……幸せの象徴って言うか……」
「夫婦……?」
「あっ! あの! おやすみなさい!!」
自分で言った事に照れて慌てるチサトにおやすみのキスをねだり、やがて私も眠りに落ちた。
(ツィーゲ伯、夜這いですか)
(違う! 天使達の寝顔に癒されに来たのだ)
(それ以上近づけば容赦しません。まったく仮病なんて使って)
(仮病など! 事実、私は魔女の一撃にやられたのだ)
(それが今、都合よく治ったと?)
(治っていない。寝室から食堂へ歩くこともできないのだ)
(ではどうやってここまで?)
(侍従に背負わせた)
朝早くに入り込んで来たツィーゲを威嚇すれば馬鹿なことばかり言っている。確かにこの2人の寝顔はまさに天使でこの上なく癒されるが、私がそれをこの男に見せる筈がないだろうに。
(……安眠の魔法が効かなかったのか?)
(護衛部隊にそんなものが効くわけないだろう)
(くっ!!)
「……んん……あ……ちさとせんせい、おはようございます。ちゅっ」
「ちゅ……ふぇ? せんせい? あ、ギゼ、おはよう~」
「チサト、ギゼ、おはよう。それからツィーゲ伯、客の部屋に忍び込むとはどんな了見ですか?」
「忍び込むだなんて!! 私はギゼラを起こしに来たんだ。仕事だよ、と」
「ごしゅじんさま!! ねぼうしてしまって もうしわけございません!」
目を覚ましたギゼラに口付けで起こされるチサトに目を奪われる。
はっきりと顔の見える角度ではないだろうが伯爵が感動に打ち震えているのが見て取れる。わざと伯爵の存在を知らせたが2人とも伯爵の言い訳を疑いもしないとは。素直すぎる。
だがチサトが歩けないほどの怪我をした者が使う「車椅子」なる物について語ると、ギゼラは執事に教えたいと部屋を飛び出して行った。
怪我人や足を失くして退役した兵士にはとても有用だ。私もあとで作らせよう。
「チサトは私と似た服がそんなに嫌なのか?」
今日の服に着替えたら又しても不満げな顔をしたので思い切って聞いて見た。
「だって……同じデザインだとフィールが格好良過ぎておれが見劣りというか……」
「見劣り?」
「……子供が大人の真似して似合ってないけど微笑ましい、みたいな?」
「この上なく似合っている! 領主のセンスに嫉妬するほどだ」
「それ、恋は盲目ってやつだと思う」
チサトはこんなに愛らしいのになぜか自己評価が低いようだ。だが、不満の理由がそれならば他の服を着ればいいだけだ。
「……着替えるか?」
「洗濯物増やすのは申し訳ないからこのままで良い」
チサトらしい気遣いで今日もそろいの服になった。私よりもよっぽど人目を惹く事に気づいていないのは不思議だが、愛らしいチサトを眺めてられるのならば気にする必要はないだろう。
姿を見られたためか、朝食にはツィーゲ伯が現れた。
そしてチサトに熱心に車椅子について質問している。恐らくこの後さっそく制作に取り掛かるのだろう。興味深い。
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