上 下
38 / 134

いざお見舞い

しおりを挟む
ーー チサト side ーー

お風呂…… 恥ずかしかった。
パウルには馬鹿にされるし、エディトにはフォローされて逆に辛いし、ドロテアには面白がられるし。
もう一緒に入らない!って言ったらカイが泣くし。

しょぼーん……



次の日、迎えに来たフィールからツィーゲ伯爵が寝込んでいると聞いた。大丈夫なのかな?

「それで、領主が見舞いに行くそうなんだがチサトも行かないか?」
「行って良いの!?」
「あぁ。うちの領主がツィーゲ伯が気に入っている私とチサトも連れて行きたいと言っている。先ほどイーヴァイン院長に休みの許可を取った」

ギゼラがお世話になってるんだから行かなくちゃ! そんなに具合悪いのかなぁ?

「酷ければうちの領主が飛んで行くだろうから大した事ないだろう」
「良かった! ……隣町までどれくらい?」
「馬車で片道1日だな」
「1日!? じゃ、泊まりなの?」
「そうだ。向こうの町に2泊する」

じゅ、準備!
着替えとタオルと……お弁当?

「持ち物の準備は? なにを持って行けば良い?」
「着替えくらいだな。昼食は領主のお抱え料理人が作るし、宿泊は向こうの町だ」
「お見舞いの品は?」
「領主が用意してるから必要ない」

……なんか、遊びに行くみたいじゃない? って言ったら、似たようなものだって。……フィールって意外と適当? カタブツ感あったような……あれぇ?



着替えだけなので準備はすぐに終わってしまった。

「チサト、提案があるのだが」
「提案?」
「この家にバスタブを置こうかと……」
「バスタブ! 欲しい! 肩まで浸かれるのが良い!」
「分かった。2人で浸かろう」
「ふっ……」

2人で浸かる、って事は……後ろから抱っこで……ぴったりくっついて、とか!?

「顔が赤いよ?」
「だっ……だって……想像しちゃって……」
「明日は1日中馬車だから、手加減するからね?」
「ふゃんっ!」

恥ずかしい想像しちゃった上に耳元で囁かれて身体の奥がきゅうんとしちゃうぅ……快楽に流されるダメなおれがいる……



朝です!
良い天気です! 良い朝でもあります!
いつの間に着せてもらったのか分からないけど、すべすべの手触りのシャツを着て寝ていました。フィールはトランクスだけ履いてる。……ふんどしじゃなかった。

成長する子供はサイズフリーのふんどしで、大人になるとトランクス型の下着になるんだって。

トランクスの方がいいけど、成長が止まった事になると思うと踏ん切りがつかない。まだ成長期は終わってないはずだし! ウエストは紐だから少し大きめでも構わないだろうけど。

やっぱり今度、買ってこよう!



朝食を食べて支度を終えたら領主の屋敷に行く。

フィールは護衛なので馬で、おれは料理人さん達と馬車で。良い人たちばかりでみんなで可愛がってくれるけど、16歳って微妙に信じてくれてない気もする。

「本当に16歳ですよ?」
「分かったよ。栄養が足りなかったんだろう? 今はたくさん食べられてるかい?」
「ちゃんとお腹いっぱい食べてます」
「ならこれから大きくなれるね」

子供の頃は偏食だったけど好き嫌い克服したし、食べさせてもらってないと思われるとじーちゃんばーちゃんに申し訳ない。頑張るぞ!



「少ない! そんなだから大きくならないんだ」
「普通です! これ以上食べたら吐きます」
「普通……?」
「むしろ多めに食べました!」


料理人さんとのやり取り。
この人の言う「たくさん」は無理だった。そう言えば孤児院のみんなもおれより食べるっけ。

「料理長、職業柄たくさん食べさせたいんだろうが無理をさせてはいけないよ」
「旦那様!」

領主様は先に食べ終えて様子を見に来たそうだ。あ、フィール。

「チサト、馬車はどうだ?」
「うん、快適だよ。みんな優しいし」
「チサトくん、デーメル隊長の馬に乗っても良いんだよ」

護衛の馬に足手まといが乗っちゃダメだろうと思うけど、本当は護衛がいらないくらい安全な道なのか。ツィーゲ伯爵がフィールを気に入ってるからお見舞いに連れて来たんだって。なら乗せてもらっても良いかな?

「わっ!」
「ほら、リタもチサトを乗せたいって言ってるよ」

前にも乗せてくれた馬のリタがおれの袖を優しく噛んで引っ張る。かわいい!!

「リタ! おれの事覚えててくれたの? わぁ! ちょっ、くすぐったいって!」

お腹のあたりに鼻面を擦り付けてくる。
耳の付け根を掻いてやると、いたずらをやめてうっとりと目を閉じた。

「それでは、出発する!」

領主様の一声で迅速にそれぞれの持ち場に付き、おれはフィールの前に乗せてもらった。街道の左右は穀倉地帯で麦らしき作物が青々と茂っていた。

「フィール、あれは何?」
「三日月羊だ」

確かに白っぽくてモコモコした生き物が畑の中に点々といる。ツノがおでこに1本で、反っている。ツノの形から三日月羊の名前がついたようだ。

「あの茶色いのは?」
「牛」

そのままだった。ツノは水牛のように大きくて尖ってる。牛乳を絞ってバターやチーズを作ったり、捌いて肉にする。今日の昼食のローストビーフサンドもあの牛の肉だった。

こちらの家畜は基本放し飼いで町の近くには豚や鶏がいるそうだ。馬車の中からは見られなかったから、やっぱり馬は楽しい。リタ、ありがとう!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします

muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。 非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。 両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。 そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。 非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。 ※全年齢向け作品です。

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

EDEN ―孕ませ―

豆たん
BL
目覚めた所は、地獄(エデン)だった―――。 平凡な大学生だった主人公が、拉致監禁され、不特定多数の男にひたすら孕ませられるお話です。 【ご注意】 ※この物語の世界には、「男子」と呼ばれる妊娠可能な少数の男性が存在しますが、オメガバースのような発情期・フェロモンなどはありません。女性の妊娠・出産とは全く異なるサイクル・仕組みになっており、作者の都合のいいように作られた独自の世界観による、倫理観ゼロのフィクションです。その点ご了承の上お読み下さい。 ※近親・出産シーンあり。女性蔑視のような発言が出る箇所があります。気になる方はお読みにならないことをお勧め致します。 ※前半はほとんどがエロシーンです。

処理中です...