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デーメルの事情
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ーー デーメルside ーー
孤児院に預けて来たものの、チサトに説明ができなかった事で不安が拭えない。戸籍がない子供はまず迷子(または捨て子)として孤児院に預け、それから引き取るのが一番だ。
だが、保護された場所が場所だけに時間がかかる可能性もある。……わたしの保護下に置かれる事で早めに許可が出る事を祈ろう。
隊員用の宿舎に部外者を泊める事はできないから、2人で住む家も急いで探さなくては。
本日の午後は休暇だ。
入隊してから自主的に休暇を申請した事はない。いつもは他の者の様子を見て決めていた。
「副隊長、街にはいるので何かあったら連絡を」
「了解致しました! 気に入ったお菓子の家が見つかると良いな」
「お菓子の家?」
「新婚用のお菓子の家を探すんだろ?」
「チサトは子供だ」
「成人を待つんだろうが先を見て選んだ方が良いぞ。チサトも居場所がコロコロ変わるより、落ち着ける場所が欲しいだろう」
なるほど。
言葉も通じない知らない国では不安があるだろう。せめて、好きなだけ居られる落ち着ける場所を与えるべきか。チサトが自分から出て行くなら仕方ないが……そうならないよう、全力で囲い込もう。
「……からかってるのが通じてないのか」
「有益な情報だ。感謝する」
真面目に感謝を伝えれば副隊長は顔を歪めて笑いを堪えている。
「お前も早く幸せを見つけろよ」
「はいはい」
私が言えた義理ではないが、口の悪さに似合わず真面目な副隊長は初恋の相手を想い続け、未だに独り身だ。私のように色恋ではない幸せを探しても良いと思うのだが。
午前中に今後の予定の確認と見回りの報告を受けて昼食を食べ、休暇に入る。まずは家を探そう。
商業ギルドへ行き、希望を伝えると信用できる貸し家屋を紹介された。転売もしているので気に入れば買い取る事もできるようだ。
成人前の子供と2人で暮らすと言ったら小さな一軒家と集合住宅、どちらが良いかと聞かれた。
一軒家は小さな庭もあるし、気楽だが子供が1人で私の帰りを待つのは寂しがるかも知れない。集合住宅は何かあったら近所の大人を頼る事ができるが庭はない。
チサトの好みを知らなくては!
貸し家屋の主人から家を選ぶ時のポイントを聞き、チサトを連れて来てより喜ぶ方に決める事にして、今日は帰る。
チサトが着られそうな服も見繕ってもらおう。
「従卒見習いより小さいとなると、このタイプになります」
服屋が出してきた見本は確かに小さかったが、これから背が伸びる事も考えてある程度サイズ調節ができる服。そんな物があるとは。
シンプルなデザインの服をそのサイズでとりあえず5セット注文した。靴は持っていたから替えを1足……靴はサイズを測らなければならないので後日にする。
……顔を見に行こうか。
説明ができていないから不安になっているかも知れない。せめて顔を見せれば安心してくれるだろうか。
子供達全員に行き渡るように菓子を買い、孤児院に行った。
「おや、デーメル隊長。お知らせしようと思っていたところですが、チサトが今朝突然、言葉を話し始めたんですよ!」
なんだと?
ならば戸籍ができ次第、私と共に暮らそうと説得できるのか!!
私は院長がチサトを連れて来てくれるのを待った。
「お待たせいたしました。……それで、言いにくいのですが」
「どうした?」
「また喋れなくなってしまいまして……ほら、チサトご挨拶なさい」
「でーめう?」
促されて入って来たチサトは今にも泣きそうで院長の後ろに隠れながらおずおずと声を出した。
「なぜ突然喋れるようになったのか、なぜ喋れなくなったのか分かりませんが、隊長からの伝言があったら喋れるようになった時に伝えますよ」
「チサト、おいで」
おずおずと近づいて手を伸ばしたチサトを膝に乗せ、抱きしめて背中をポンポン叩いてやればぎゅっとしがみついてくる。不安なのだな。
「ずいぶん懐いていますね。ここでは年長者らしく振舞って甘えようとはしないのに」
「そうなのか? 詰所では子供らしく振舞っていたが……」
「聡い子は相手の気持ちを汲んで期待に応えようとします。また、そうする事で身を守ろうとするのです」
確かに隊員は庇護欲の強い者が多い。
こんな小さな子なら庇護を求めて「良い子」になろうとするのだろう。
「院長、言葉が通じたならチサトに伝えて欲しい。チサトが良ければ引き取って一緒に暮らしたい、と。国の許可が降り次第迎えに来るから、と」
「伝えます。それと、チサトは16歳だそうですから、子供としてではなく、戸籍を作ることになると思います」
「16!?」
自分の口で伝えたいところだが、突然喋れるようになったり喋れなくなったりするのでは機会を逃す可能性が高いと考え、院長に頼んだのだが。16歳……、まさか……。
今は通じていないのも構わず、チサトに向かって一緒に暮らそう、と語りかけた。
……しかし成人していたなんて。
『お菓子の家を探すんだろ?』
副隊長の言葉を思い出し、鼓動の変化に戸惑った。
孤児院に預けて来たものの、チサトに説明ができなかった事で不安が拭えない。戸籍がない子供はまず迷子(または捨て子)として孤児院に預け、それから引き取るのが一番だ。
だが、保護された場所が場所だけに時間がかかる可能性もある。……わたしの保護下に置かれる事で早めに許可が出る事を祈ろう。
隊員用の宿舎に部外者を泊める事はできないから、2人で住む家も急いで探さなくては。
本日の午後は休暇だ。
入隊してから自主的に休暇を申請した事はない。いつもは他の者の様子を見て決めていた。
「副隊長、街にはいるので何かあったら連絡を」
「了解致しました! 気に入ったお菓子の家が見つかると良いな」
「お菓子の家?」
「新婚用のお菓子の家を探すんだろ?」
「チサトは子供だ」
「成人を待つんだろうが先を見て選んだ方が良いぞ。チサトも居場所がコロコロ変わるより、落ち着ける場所が欲しいだろう」
なるほど。
言葉も通じない知らない国では不安があるだろう。せめて、好きなだけ居られる落ち着ける場所を与えるべきか。チサトが自分から出て行くなら仕方ないが……そうならないよう、全力で囲い込もう。
「……からかってるのが通じてないのか」
「有益な情報だ。感謝する」
真面目に感謝を伝えれば副隊長は顔を歪めて笑いを堪えている。
「お前も早く幸せを見つけろよ」
「はいはい」
私が言えた義理ではないが、口の悪さに似合わず真面目な副隊長は初恋の相手を想い続け、未だに独り身だ。私のように色恋ではない幸せを探しても良いと思うのだが。
午前中に今後の予定の確認と見回りの報告を受けて昼食を食べ、休暇に入る。まずは家を探そう。
商業ギルドへ行き、希望を伝えると信用できる貸し家屋を紹介された。転売もしているので気に入れば買い取る事もできるようだ。
成人前の子供と2人で暮らすと言ったら小さな一軒家と集合住宅、どちらが良いかと聞かれた。
一軒家は小さな庭もあるし、気楽だが子供が1人で私の帰りを待つのは寂しがるかも知れない。集合住宅は何かあったら近所の大人を頼る事ができるが庭はない。
チサトの好みを知らなくては!
貸し家屋の主人から家を選ぶ時のポイントを聞き、チサトを連れて来てより喜ぶ方に決める事にして、今日は帰る。
チサトが着られそうな服も見繕ってもらおう。
「従卒見習いより小さいとなると、このタイプになります」
服屋が出してきた見本は確かに小さかったが、これから背が伸びる事も考えてある程度サイズ調節ができる服。そんな物があるとは。
シンプルなデザインの服をそのサイズでとりあえず5セット注文した。靴は持っていたから替えを1足……靴はサイズを測らなければならないので後日にする。
……顔を見に行こうか。
説明ができていないから不安になっているかも知れない。せめて顔を見せれば安心してくれるだろうか。
子供達全員に行き渡るように菓子を買い、孤児院に行った。
「おや、デーメル隊長。お知らせしようと思っていたところですが、チサトが今朝突然、言葉を話し始めたんですよ!」
なんだと?
ならば戸籍ができ次第、私と共に暮らそうと説得できるのか!!
私は院長がチサトを連れて来てくれるのを待った。
「お待たせいたしました。……それで、言いにくいのですが」
「どうした?」
「また喋れなくなってしまいまして……ほら、チサトご挨拶なさい」
「でーめう?」
促されて入って来たチサトは今にも泣きそうで院長の後ろに隠れながらおずおずと声を出した。
「なぜ突然喋れるようになったのか、なぜ喋れなくなったのか分かりませんが、隊長からの伝言があったら喋れるようになった時に伝えますよ」
「チサト、おいで」
おずおずと近づいて手を伸ばしたチサトを膝に乗せ、抱きしめて背中をポンポン叩いてやればぎゅっとしがみついてくる。不安なのだな。
「ずいぶん懐いていますね。ここでは年長者らしく振舞って甘えようとはしないのに」
「そうなのか? 詰所では子供らしく振舞っていたが……」
「聡い子は相手の気持ちを汲んで期待に応えようとします。また、そうする事で身を守ろうとするのです」
確かに隊員は庇護欲の強い者が多い。
こんな小さな子なら庇護を求めて「良い子」になろうとするのだろう。
「院長、言葉が通じたならチサトに伝えて欲しい。チサトが良ければ引き取って一緒に暮らしたい、と。国の許可が降り次第迎えに来るから、と」
「伝えます。それと、チサトは16歳だそうですから、子供としてではなく、戸籍を作ることになると思います」
「16!?」
自分の口で伝えたいところだが、突然喋れるようになったり喋れなくなったりするのでは機会を逃す可能性が高いと考え、院長に頼んだのだが。16歳……、まさか……。
今は通じていないのも構わず、チサトに向かって一緒に暮らそう、と語りかけた。
……しかし成人していたなんて。
『お菓子の家を探すんだろ?』
副隊長の言葉を思い出し、鼓動の変化に戸惑った。
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