感じやすいぼくの話

香月ミツほ

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第3章

母に似たかったぼくの話⑤

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お城に行ったらまずはご挨拶。
王様は謁見室でお仕事中なので、連絡だけしてディーのお仕事部屋へ。

王妃様が……!

椅子に縛り付けられていた。

「母上、反省しましたか? 今後あのようなバカなことをしないと誓えますか?」
「誓う!」
「……信用できません」
「いや、若いんだからさ、絶対喜ぶと思うだろう? まさか我が子が……ゴニョゴニョ……」
「 は は う え ? 」
「げっ! あー、アリョか? ルネもいたのか。よく来たな!!」

ぼくたちは縛られたままの王妃様に、戸惑いながらご挨拶をした。

「王妃殿下、ディートリント殿下は今夜、アリョとルネを自室に招くそうです。余計なことはなさらないでくださいね?」
「分かった分かった! もう諦める! ディーの好きにしなさい!!」

バズがなにやら釘を刺してから王妃様のロープを解くと、王妃様は走って逃げていった。

「ディー、ここは走っていいの? ぼくのおうちは走っちゃダメ、って言われるよ」
「走っちゃダメだよ。でも母上は……、たぶん、お漏らししそうだったんじゃないかな?」

ディーが適当なことを言ったらルネが笑い転げた。それにしても……。

「絶対喜ぶと思ったのに、ディーが嫌だったことって、なぁに?」

知っておかないと間違えてやって、嫌われちゃうかも知れない! 心配になって真剣に聞いたのに、大人の話だ、ってごまかされた。

……早く大人になりたい。


*******


ディーがお仕事の間、バズが相手をしてくれた。

「バズ! ぼく、騎士の訓練が見たい!!」

ルネはうちの訓練も見たばかりなのに、お城の訓練まで見たがった。ぼくはお庭が見たい。そう言ったらわざわざ庭園を通って鍛錬場に連れて行ってくれた。

「うわぁ、この木、葉っぱがみんな白いよ!」
「木がみどりだ! へんなのー!!」
「こっちはキラキラしてる!」
「見えない! 見せて!!」

この国では珍しい植物が植えられた奥庭は、植物にあまり興味がないルネも大興奮だった。幹が緑で白い葉をつける木は、根から甘い樹液を出して虫を集め、その虫から栄養を分けてもらって育つ木らしい。

キラキラしてるお花は、10歳のルネの身長と同じくらいの高さで、まっすぐ上を向いて咲く花。銀細工みたいな花芯の真ん中から透明な蜜を出すから、そのままのデザインでブローチにできそう。

育てるのが難しくて、とても高いらしい。
見たことないけど、父様は母様に贈ったりしないのかな?

あ、王妃様……。

鍛錬場に着くと、王妃様が楽しそうに暴れてた。たくさんの騎士たちが代わる代わる打ち込んで、それを嬉々としていなしていく。

「おうひさま、すごーい!!」
「おっ! ルネもやるか?」
「やるー!!」

最後の1人の剣を跳ね飛ばし、余裕で勝ってルネを構ってくれる。

「叔父上に勝てるのは王様と隊長達だけなんだよ。今は新人達相手だから、物足りなくてまとめて相手してるんだろうな」

バズが呆れている。
王様や隊長さん達だって、勝ったり負けたりなんだって。もちろんバズもまだまだらしい。

「バズ。そちらが例の?」
「ヴァルフレム、いたのか。そう、この方と王妃殿下がお相手なさっている方が、エーレンフェルス侯爵家の、イク様のご子息だ。 アリョーシャ様、同期のヴァルフレムです」

バズに紹介されてご挨拶をする。
王妃様と同じくらい背が高くて筋肉がたくさんあって、大きい。

「お美しいですね」
「……ありがとうございます」

ディーには大人っぽくなった、って言われたいけど、他の人からはかわいいって言われたい。年齢的に級友達は皆、大人扱いされたがるから、一般的な社交辞令としては正解なんだろう。

「おや? 失礼がありましたか」
「アリョはかわいいって言われたいんだよなー? 未だにかわいいイク様みたいに」
「べっ、べつに社交辞令にそんなの求めてないもん!」
「社交辞令と思われていたのですか……。本心ですよ? それに、頬を膨らませるあなたはとても可愛らしい」
「子供扱いされたい訳じゃありません!」

どうせ子供ですよーだ!


「浮いた噂を聞かないと思っていたが、お前少年趣味だったのか?」
「そうじゃない。この子がこれからどれだけ美しく花開くか、見守りたいだけだ」
「まぁ、分からなくもない、かな? けど見守るにしてもエーレンフェルス侯爵という壁は高いぞ」
「下心がないと分かってもらうさ」
「まぁ、頑張れよ」

そんな2人の会話は、むくれたぼくの耳には届かなかった。


*******


「ディー! お仕事、お疲れ様」
「おつかれさまー!!」
「あぁ、ありがとう。アリョとルネは退屈しなかったかい?」
「おうひさまと、このえに きたえてもらったの!」

うちでやってることと同じだったけど、場所が変わったのと、王妃様が相手をしてくれたのが新鮮だったらしく、ルネは大喜びだ。

「アリョは?」
「ぼくは珍しい木やお花を見せてもらって、楽しかったよ。バズはルネに付いていたから、近衛のヴゥルフレムが案内してくれたの」
「ヴァルフレムか。彼は近衛騎士に相応しい、真面目な男だったな。楽しかったなら良かった」

夕食をいただいて、ルネはディーとお風呂!って行っちゃった。ディーの部屋で2人を待つ。

ディーのお部屋!
淡いベージュを基調とした壁に飴色の柱と機能的で上品な調度。絨毯はふかふかだけど、うちのより毛足が短い。動きやすさ優先なのかな?

ソファは少し硬め。
ここでお茶を飲んだり、お酒を飲んだりするのかぁ。ふふふ……。

「アリョー! お風呂、おっきかった!!」
「良かったね。じゃあ、ぼくも行ってくるね」
「のぼせないようにな」
「はぁい」

やっぱりディーの笑顔って、かっこいい。
しかも寝間着!
昨日も見たけどいつもと違う服、それも家族にしか見せないようなリラックスした姿を見られるなんて! 嬉しいなぁ。

しっかり洗いながらも、気が急いてすぐに出てしまった。ディーも入ったお湯だと思ったら、恥ずかしくなっちゃったからでもあるけど。

しかもしかも!
ちゃんと拭けてなかった髪を、ディーが優しく拭いてくれた!!
嬉しくて泣きそうになっちゃった。

ルネが目を擦り始めたので、ベッドにはいる。昨日はディーを守るために真ん中にディーで手前がルネで、奥がぼくだった。でも今夜はルネが真ん中。

って!
もう学校に行ってるぼくがディーのお部屋に泊まっても、良いの? 父様がダメって言ってたような……?

「アリョ、どうした?」
「あ、あの、ぼく他のお部屋に……」
「すまないが王宮の警護は万全、とは言い難いんだ。何しろ、やらかすのは王妃である母だから、護衛では止められない。イクに嫌われるまではしないだろうが、何かしらやらかす可能性が高い。だからここで寝てくれ」
「……でもぼく、寝言言ったりよだれ垂らしたりするかも……。恥ずかしい……」
「ふっ、ふふっ、それは私も同じだ。だが今夜1番心配しなくてはならないのは、ルネのおねしょだ」
「そうだ! また失敗したらかわいそう……」

だから夕食に果物が出なくて、料理も薄味にしてあったのか。水分を摂り過ぎないように配慮してくれたんだね。10歳でおねしょって、かなりショックだもんね。

「だから万が一、ルネがモゾモゾしたら、気付いた方がトイレに連れて行けるよう、一緒に寝てくれ」
「うん!」

自分の恥ずかしさよりルネを立ち直らせる方が大事!!

そう思って3人で寝たら夜中、ルネが寝ぼけた。
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