十字架のソフィア

第一章

領主との対話

　翌日、ソフィアとライルは再び領主の屋敷に来ていた。
もちろん領主に会うためだ。

「おはようございます大佐殿、どうぞ領主様がお待ちです  」

昨日と同じ警備兵に案内されて二人は中に入る。

中に入ると煌びやかな装飾と二人のメイドが出迎える。

その優雅さは外の暮らしとはかけ離れている。

長い廊下を歩いて行く途中でソフィアはこんな事をライルに言った。

「ライル、今回ライルは私がする事を黙って見ていてくれませんか？  」

「……理由を聞いてもいいか？  」

ライルは少し気になり聞く、いや本当のところは違う。ソフィアはここ数日ずっと一緒に過ごしていてライルにただ黙って見ててくれとは言った事が無いのだ。
野宿の見張りも剣術の指南もライルと二人で行っていた。

しかしはそれらの気持ちを仕舞い込み言い直す。

「いや……何でも無い。分かったソフィアには口出ししない  」

するとソフィアは静かに「ありがとうございます  」とだけ返し黙り込む。


「こちらです  」

沈黙のまま廊下を歩くと領主の部屋の前に到着する。

メイドは領主の部屋のドアをノックする。

「領主様、お客様をお連れしました  」

すると中から入れと声がかかる。

メイドがドアを開けてくれるのでソフィアとライルは中に入る。

部屋の中はこれもまた綺麗な装飾で飾られていてとてもただの領主の部屋とは思えない。

「これは帝国軍の大佐殿よくぞいらした  」

ソフィアは声のする部屋の中央の机に腰掛けている男を見る。

煌びやかな装飾で飾られた洋服は身体に纏わりつく脂肪で今にもはち切れそうだ。

顔はやはり脂肪でたるみ脂ぎってテカテカと光っている。


「悪いな、帝国軍大佐は嘘だ領主  」

ライルは領主への返答を嘘の告白で返す。
領主はその言葉に目を見開く。

「な、何！  貴様この私を憚ったな！ 衛兵、衛兵！この者たちを捕らえろ！  」

領主は叫び散らす。

その様子をライルは冷たく見つめる。

「まあ待てよ、俺たちの話を聞いてくれ  」

ライルは手でなだめる。
すると領主はフンと鼻で笑う。

「俗物の言葉など聞くに耐えんわ、ましてやこの街の領民出ない貴様らなどの言葉など尚更だ  」

領主の言葉に今まで黙っていたソフィアが口を開く。

「では、領民の言葉なら聞いてくださるのですね  」

「何？  」

領主はソフィアをキッと睨む。

「いいですか？私達は昨日街の人たちに何故街がこんな有様なのか聞きました。そして貴方の領民は口を揃えて言いました、領主が仕事をしないと。街で犯罪が起きても無視、かつての観光業も栄えず領民は飢えるばかり、そして極め付けは税金の過剰徴収。
この現状を見て貴方はなにも感じ無いのですか？
貴方の所為で飢えて死ぬ子供が沢山いるのですよ？  」

ソフィアは一息に自分が見てそして感じた事を領主に語りかける。
その声音は少し怒りを含んでいる様にライルは感じた。

しかしそれでも領主は聞く耳を持た無い。

「フンッ俗物が死のうと知ったことか！  」

「……では何の罪もない子供が飢えて死のうと構わないと言うのですね？  」

領主に対しソフィアは静かに言う。

「ああ、私の知った事ではない  」

領主の台詞にソフィアは俯く。

「ライル、剣を借りますね  」

ソフィアはそう言うと俺の腰から五本ある剣の内から一本引き抜く。

銀色の刀身が天井にぶら下がるシャンデリアの光をキラキラと反射させる。

ソフィアは剣を右手に持つと静かに領主に近づいて行く。

「な、なにをする気だ貴様！  」

席から立ち上がると領主はその顔に恐怖を浮かべる。

ソフィアはその步を止める事なく遂に領主が居る机の目の前に立つ。
そして剣を逆手に持ち振り上げる。

そして領主に向かって振り下ろす。

「や、やめろー！  」

領主は右手で顔を覆いみっともなく叫ぶ。

しかし剣は領主ではなくソフィアの目の前の机に深々と突き刺さる。

領主は顔を真っ青にして突き立てられた剣とソフィアを交互に見つめる。

「な、何のつもりだ…　」

領主はソフィアに聞く。

するとソフィアは領主を睨みつけ言う。

「いえ、ここで貴方を殺すのは容易いですがそれではこの街の為にはならないと思いまして……   」

ソフィアは一拍間を置き再び領主を今度は更に一層鋭く強く睨みつけ言った。

「貴方を街の皆さんとの対話の場に引きずり出します———  」

そう言ってソフィアは先程領主を睨み付けていたのが嘘の様にニコリと笑う。
その様子をライルはまるでかつての仲間に照らし合わせクスリと笑った——————。