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10 逆転する明暗
歓喜溢れるエルベス大公家と、命の危機を感じ逃げ出すロスフォール大公
しおりを挟むエルベスは報告の使者の、やっと途切れた午後のお茶を、寛ぎながら頂いていた。
が、ふと賑やかな馬車の音に窓の外を見ると。
…淑女の筈の、大公母と姉が。
大はしゃぎで馬車の御者席に座り。
手綱を取って馬車を駆り。
背後の大量の馬車らを引き連れ、庭に凱旋し。
勢い込んで、屋敷の前に着ける様子を。
お茶のカップを手から滑り落としそうになりながら、見た。
その後、後続の馬車が、続々やって来ては…。
大量のお宝を護衛達は、どこに運び入れるのかを大公母とエラインに尋ね、二人は指示を始めて。
広い庭はごった返す。
エルベスは大量の宝が運ばれる様子を見ながら、幾つか見慣れた宝飾品に、目を止める。
「ああその…大きなエメラルドのペンダントは確か…サーズィー公がなくされたと…。
いつの間にか屋敷から、消えていたとおっしゃってました」
それを聞いて、エラインは呆れる。
「きっと自分に刃向かう相手から毎度、大切な物を部下を使って、盗ませていたんでしょうね」
大公母はエルベスに言う。
「お返し出来る物は、取られた御方にお返ししましょう」
エルベスも、微笑む。
「それが、いい。
ずっとウチとロスフォールの勢力は拮抗していましたから。
これをお返しすれば、こちらに大勢の方が、味方に付いてくれるでしょう」
大公母も、頷く。
「大切な物を奪い、引き換えに自分の味方に付けていたのだから。
お返ししたら感謝されて、味方も増えて。
我が家にとっては、最高だわ!!!」
招待された園遊会に出かけていたニーシャが、馬車に乗って門を潜ると。
人と物が大量にあちこちに移動し、ごった返しまくる庭を目にする。
とても馬車で通り抜けられる隙間が無くて、仕方無く、門の間近で馬車を降りた。
宝物を手に行きする護衛の間を潜り抜け、なんとか屋敷(城)の、横に長く広い玄関階段まで来る。
そこで姪のセフィリアとアリシャが、お宝の中のとても可愛らしい陶器の人形を、取り合ってるのを見た。
「これは私が頂くの…!」
「ひどいわおねえ様!
お人形と言えば、私のものなのに!」
「だってこれは、遊びにつかう物じゃ無くて、げいじゅつさくひんよ!」
「…おチビさん達…!
それはイクシュ男爵が、娘のように大切にしていた人形よ。
男爵にお返しするから。
欲しかったら、男爵にお伺いしなさい」
姪達は、口を尖らせる。
「男の御方なのに、お人形がだいじなの?!」
セフィリアが言うと、アリシャも必死。
「だってこれは、私たちの屋敷のお庭にあるのに?!」
大公母…姪達にとっては祖母。
が、飛んで来て、慌てて取りなす。
「まあまあ…!
そんなに振り回しては、壊れてしまうわ!
おばあ様がもっと素敵な、他のお人形をあげるから!
これは男爵に、お返しして?
お願いよ」
二人の孫は祖母の言葉に、嫌々人形を渡した。
ニーシャは母と妹のエラインに尋ねる。
「それで全て、奪って来たの?」
「人聞きが悪い!」
大公母が叫び、妹のエラインも。
「人を、盗賊みたいに!!!」
「…………………アドラフレンにバレたら、幾ら隠し屋敷でも…。
全て奪ったりしたら、列記とした犯罪よ。
こっそり幾つか盗もうとかいう発想、まるで無いのね。
第一ちゃんと護衛連隊が暴けば、これら全ては王家の財産になるんだから」
大公母とエラインは、顔を見合わせ。
次に、叫ぶ。
「ぜひ、アドラフレン様にここに来て頂いて」
大公母が言うと、エラインも畳みかける。
「持ち主の分かってる物、以外は。
どれだけでもお持ち頂いて構いませんからって。
…………貴方から伝えて?」
「……………賄賂で黙らせる気?」
エラインは姉に、愛想笑いする。
「それに姉様が幾らでも!
寝室でサービスして、慰めてくださるんでしょう?」
「…………アドラフレンは山程女が寄って来るし。
不自由してないから。
第一私とは、たまーーーにしか、寝ないわよ!
お互い、舞踏会で。
他にいい相手が互いに居なかった場合の、非常用なんだから」
「分からないわよね。
貴方方の関係って」
大公母が言うと、エラインもが。
「理解不能だわ」
と、匙投げる。
「…まあアドラフレンも、ウチの領地が襲撃されて、大損害なのは知ってるから。
来ても全ては、取り上げないと思うわ。
第一隠し財産だろうが、表沙汰にするとロスフォールが、返せと言ってきて五月蠅いだろうし」
公母とエラインはそれを聞いて、飛び上がって喜んだ。
ロスフォール大公家では。
ラデュークの行方を捜していたのに、使える部下が次々と姿を消し。
終いに秘密兵器の“デュカス”ですら、招集できず。
ともかく動ける部下を集めることに、必死に成っていた矢先…。
隠し屋敷から、這々の体で辿り着いた部下に、襲撃されて全て奪われたと………。
ロスフォール大公は、頭を殴られたようなショックに、暫く口を噤む。
そしてようやく。
侍従と僅かな部下に、静かな声で命じた。
「…この屋敷内にある宝物を全て。
馬車に積み込め」
そしてソファに座ると。
高速で…逃げ込める先を、思い巡らした…。
これまでしてきた、非道な所業。
没落した途端、手の平を返す者達に…ヘタをすれば、復讐で殺されかねない。
だからこそ大公家は決して…威光を消しては成らず、没落は“死”を意味し、どんな敵相手だろうが、勝たねばならない…!
だが隠し屋敷の財産は…大公家を維持するのに必要な宝ばかり。
これを無くせば…没落どころではない…。
今や、命の危機に瀕していた。
やっと…一人の顔が浮かび、ロスフォール大公は立ち上がる。
「使者を!
ドローネン大公爵へ!」
そして、書状をしたためる。
“決して…あの男だけには、頼る事態を作るな…”
亡き父に言われた言葉。
が。
「左の王家」の中でも異端。
光竜身に宿す、ディアヴォロスに背を向け…『影の民』と深く関わる負の王族。
父の言葉が再度、脳裏をよぎる。
“『影』に身を売るか!
普通の死すら望めぬ。
最も恐ろしい、永久に救いを閉ざされた、非業の死を迎えるぞ!”
だがロスフォールは心に誓った。
“それでも今はなんとしても生き残り。
いつかエルベスに復讐を!”
「これを…至急!」
ひざまずく使者に書状を渡すと、馬車に財産を詰め込む部下らに怒鳴る。
「どの部屋も、空にしろ!
全て詰め込め!
一つ残らず!!!」
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