75 / 101
9 復活を果たすエルベス大公家とギュンター
監獄で大物を見つけ自白させるニーシャ
しおりを挟むニーシャはズボン姿で、アドラフレンが隠れ屋敷として使っている別邸の、広い監獄を歩く。
ナーダの自白の元に暴かれた、ロスフォール大公の秘密の部下らのアジトを。
アドラフレンの隠密部隊は次々と急襲し逮捕しては、ここに連れ込んでいた。
ロスフォール大公の秘密部隊らの殆どは捕らえられ、両手を後ろ手に縛られて、この地下広間に放り込まれてる。
鉄格子の嵌められた、横長で幅広の窓から陽は差すが、室内は暗い石の広い部屋。
石のベンチや石のテーブル。石の寝台と…やたら寒々しい。
ニーシャは壁に沿って一列に、並んで座ってる猟師風の汚い男から、町民や商人。
盗賊から下級貴族に至る、秘密部隊の男らの顔を、ジロジロと眺めて歩いた。
アドラフレンの部下が、ウロつくニーシャに気づいて
「幾ら縛ってあるからと言っても!
危険です!
万が一貴方が、人質にでも取られたら!
我々は動きを封じられ、この連中を全員解放なんて事態も、招きかねないんですから!」
と叫ぶ。
が、ニーシャはそう忠告した男を、美しい顔でジロリ。
と睨めつける。
「…私を誰だと思ってるの?」
「…全くだ。
そんなじゃじゃ馬を人質に取ろうなんて考えた、男が痛い目見るだけだ」
後の言葉が扉から響いて、二人は同時に振り向く。
アドラフレンが、姿を現して微笑んでいた。
「…じゃじゃ馬?!」
歩み来るアドラフレンにニーシャは異論を唱え、アドラフレンは彼女の目前に来て、横の部下に肩を竦めて見せる。
「ドレスを着ていない彼女は、とても危険で凶暴だから」
ニーシャが横を見ると、忠告した部下は、恐る恐る横から離れようとしていた。
「失礼ね。
男みたいな格好はしていても、私はレディなのよ?!」
アドラフレンは苦笑する。
「とても物騒な…ね。
ところで、知った顔でも、見つけたのか?」
アドラフレンに問われて、ニーシャは顔をうつむけて隠してる、一人の男を指さす。
「…あんな汚いナリしてるけど。
彼、ディンダルティン公爵よ?」
「…ホントだ…。
ロスフォールの右腕がこんな汚い格好で、隠密行動してたのか…。
さっき、ラデュークの部下に聞いたけど。
彼、何かロスフォール大公の重大な秘密を知ってるらしい」
浮浪者風のボロを纏ったディンダルティン公爵は、アドラフレンとニーシャから、さっ!と顔を背け、うそぶいた。
「…何言ってるだ!
誰に似てるか、しんねぇが!
おいらはダートだ!」
ニーシャは腕組みしてつぶやく。
「…だから、町民ダートはディンダルティン公爵の変装。
って…私もアドラフレンも、とっくの昔に知ってるのよ」
ディンダルティン公爵は、顔を下げたまま、動揺で揺らす。
「…知っ…て…?!!!!
およがせていたのか!!!」
アドラフレンは叫ぶディンダルティン公爵を、じっ…と見る。
「…泳がせ…たかったけど。
君、いっつも、尾行をまいて姿を突然消すだろう?
どこに消えるのか、教えて貰いたいんだけど」
ディンダルティン公爵が、アドラフレンを激しく睨めつける。
「…私を、吐かせられると思ってるのか?」
嘲笑の、笑みを浮かべながら。
無言のアドラフレンの横で、ニーシャはベストの内ポケットから、小さな薬瓶を取り出す。
それを見たアドラフレンは目を見開き、こっそりニーシャに尋ねる。
「…それ…使うと、廃人になるとか言ってなかった?」
ニーシャはにっこり笑う。
「噂では、そうよ?
でも試してみる、絶好の機会じゃなくて?」
数分後、別室の椅子に縛り付けられたディンダルティン公爵は、ヨダレを垂らし、定まらない目の焦点を泳がせながら、べらべら吐いた。
「地下通路が完備されてる所しか、私は行かないから、どれだけ尾行してもムダなんだ!
ロクル街道の宿屋も…。
コナクル宝石店にも…地下通路が、通ってるんだ…。
へへ、ホラむかーーーし。
アースルーリンドの地上は、人を喰らう大型獣だらけ。
我々の始祖の、ひ弱な漂流者らは、まだ数が少なくて…。
獣を恐れて、地下に穴掘って暮らしてた。
『光の民』が、たまーーにやって来ては、地下道を広げてくれて…。
知ってるか?
始祖らは『光の民』に
“獣をやっつけてください”
って、頼んだんだぞ?
けど利口な『光の民』は、断った。
“一匹二匹。
いや、十匹倒したところで、君たちの被害は無くならない。
けれど縦横無尽の地下道があれば。
誘い込んで一匹ずつ獣を殺し、少しずつその数を減らせる。
その間、安全な地下道で、君たちが数を増やせば。
必ず獣の数を上回り、やがて獣の数を劇的に減らせて、地上で暮らせるようになる”
そんで…その通りになった!
『光の民』って…すげぇよな…」
アドラフレンは、横のニーシャを見る。
「…イカレた?」
「でも、吐いてるわ」
「でも、余分な事も、かなり言ってるけど?」
「肝心なことも、ちゃんと言ってるじゃない…。
それで、地下道で姿をくらまして。
どこへ行ってたの?
私たちに、絶対知られたくない、どこかよね?」
ディンダルティン公爵は、首を垂らす。
「…そうでぁ。
知られたくない…知っちゃいけない…場所でぁ。
大公の、秘密のお宝のある場所でぁ」
ニーシャは、くす。と笑う。
「どこ?それ」
「…ニャンニャ街道の…」
アドラフレンが、小首を傾げる。
「ナーナ街道のコトかな?
もしかして」
「そう…らぁ…。
ニャンニャ街道の…先にある…」
「街道の先は、でっかい岩で崖。
行き止まりじゃない」
ニーシャが憤慨して言う。
ディンダルティン公爵は、ヨダレ垂らしながら、にやり…。
と笑う。
「とーーろーーがぁ。
行き止まり、じぇねーんでぁよーーー」
アドラフレンは、横のニーシャに屈んで問う。
「なんか…かなりヤバくなってないか?」
「まだかろうじて、聞き取れるわ」
「いーーーわぁのうーーしろーーに、ちーーかぁにおーーりる、ほーーそいみーーちがぁーーーー」
「アドラフレン様。
また新たなアジトを知ってる者が。
どうします?
そっちも、襲います?」
部下の言葉にアドラフレンは振り向く。
「今、行く」
そして、ディンダルティン公爵の言葉を、じっと聞いてるニーシャに囁く。
「廃人にしちゃったら、後始末は君に任せるから」
「………………ペットにして、飼えと?」
アドラフレンは、クスと笑い、言った。
「まあ男性機能が正常なら、君は満足かもね」
そしてニーシャが言い返す、前にさっ!と背を向け、室内から出て行った。
その背をニーシャは睨みつつ、尚もディンダルティン公爵の言葉に耳を傾ける。
「ちぃーじょーおーーーーーにでぇぇぇぇえると。
おーーやししぃぃきぃ、がぁぁぁぁ。
そーーーぉこぉーーに、ひぃーーとに、しぃーーーられぇーーーて、いーーーけなぁいおーーーちからぁがぁぁぁぁ」
「他に知ってる人は?」
ディンダルティン公爵は、首を横に振る。
「いーーーちどはぃーーると、でぇぇぇぇられぇぇぇなぁぁぁぃぃぃぃぃ。
かーーーんとぉぉぉくがぁぁぁこーーおろすぅぅぅ。
でぇぇいりでぇぇきるのぉぉぉぉは、おぉぉぉぉれだぁぁぁけぇぇぇぇ」
「だって…食べ物とかはどうしてるのよ?」
「おーーーりぇえぐぁぁぁぁ、はーーーこーーーぶーーーー」
ニーシャの横で、監視してたアドラフレンの部下は囁く。
「…聞き取れています?
私、何言ってるか全然、解らなくなってますけど」
「実は、わたしもよ(嘘だけど)。
これ、飲ませて。
多分正気に、戻るはずだから」
「…はず……です…か。
戻らなかったらきっと、アドラフレン様は…」
「私に引き取れって、言うでしょうね」
ニーシャは素っ気無く背を向け…けれど足早に部屋を出、地下広間にまた、ロスフォールの部下が数人、縛られて放り込まれていくのを見、庭に出ると繋いであった馬にひらりとまたがり。
拍車をかけて、走り去った。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
褐色ショタを犯しても宇宙人なら合法だよな?
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
多忙で有休が取れないので役所に行けない。そうボヤいたときに、代わりに行くよという褐色少年が現れた。
誰よ? と聞くと宇宙人だと言うが、どう見ても普通の日本人。でも本人は宇宙人と言い張る。
宇宙人なのであれば、犯しても合法という気がしないでもないが……。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
真冬の痛悔
白鳩 唯斗
BL
闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。
ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。
主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。
むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる