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8 失墜するゼフィスとロスフォール大公
家族の元に戻るアイリス
しおりを挟むアイリスは真っ直ぐ、エルベス大公邸へと馬車を走らせた。
正直、疲れ切っていた。
が、心は活力に、満ちていた。
馬車が大公邸に駆け込み、壮大な玄関前に着くと。
玄関前に、祖母と母。
そしてニーシャ伯母に更に…いつも忙しい、エルベスまでもが。
皆揃って、出迎えてくれていた。
アイリスは、止まった馬車から降りて、駆け寄る皆を見る。
祖母が真っ先に抱きつき、離してくれない。
「もう!もう!もう!!!
寝られませんでしたよ!心配で!!!」
祖母の声に、アイリスは優しく囁く。
「元気でしょう?
おばあさま」
母、エラインはほっとした表情で、アイリスに囁く。
「私、あなたはちゃんと言った事を果たす人間だって…信じてたわ。
けど!
それと心配事とは、別なのよ!!!
どれだけ…みんな心配したか、分かって?!!!!」
母にまで抱きつかれ、アイリスは祖母と母、同時に抱き寄せ。
左右の胸にそれぞれ顔を埋めてる、二人にそっと囁く。
「無事、戻りましたから…!」
アイリスが、顔を上げると。
少し離れた場所で、エルベスは肩をすくめ
「君と抱き合うのは、もう少し、先延ばしだね?」
と、茶目っ気たっぷりに微笑み、アイリスは思わず、微笑み返す。
ニーシャ伯母、だけが。
「私はこれっぽっちも、心配しなかったわ」
と、妖艶な大輪の華を思わせる華麗さで、アイリスを見つめていた。
「媚薬は大変、助かりましたし、レスルが居なければ…成功はしなかったでしょう」
ニーシャは、頷く。
「大金払ってるんだもの。
レスルは勝利の男神よ」
アイリスはニーシャの言葉に、大きく頷きながら、尋ねる。
「で?
ゼフィスを足止めしてる。
って報告を頂いた時は、本当に助かりました。
正直、いつ帰って来られるかと。
はらはらしてましたからね。
でも一体、どうやったんです?」
ニーシャは、ため息交じりに言った。
「貴方に張り付いてる二人が、満足して離れて。
その後、お行儀良く順番待ちしてる、エルベスが貴方を抱きしめて。
私も、貴方を抱きしめたい気分だから。
…うんと、後になるわね。
その話を、貴方に出来るのは」
アイリスは心から、ニーシャの言葉に微笑んだ。
けど夕食時。
皆で食卓を囲んでいると。
王立騎士養成学校から、使者が来て。
“補習科目が三つを超えると、試験が更に増え、留年の危険があるので、病人の容態が落ち着くようなら、直ぐ戻って、学業をこなすように”
と、伝達されて、アイリスは青ざめる…。
「…食後、直ぐ戻ります」
そう言うと、祖母が叫ぶ。
「まあ!
今夜はいいじゃないの!」
母も言う。
「どうせ、今戻っても深夜でしょう?」
エルベスも畳みかける。
「深夜でも、補習はあるのかい?」
ニーシャが、更に追い打ち。
「無いに、決まってるわ!
今夜は全員が、貴方を離さなくてよ!」
妹達までもが
「いくらどスケベなお兄様でも、帰っていらして嬉しいのに!」
と、ふくれっ面。
ニーシャはぴしゃり使者に
「明日、戻りますと。
担当講師に告げてちょうだい」
と告げ、追い返す。
アイリスは呆れて、皆を見た。
皆が少しでも長く、アイリスの姿を見ていたい。
そう懇願する瞳を向けている。
アイリスは、心から微笑んだ。
「こんなに愛されて、私は幸せ者だ」
祖母は笑顔で告げる。
「まあ…!
何を言ってるの?!
当たり前じゃ無い!」
母、エラインも。
「私は貴方の母なのに。
生まれてから貴方を独り占め、出来た試しがないわ」
とため息交じりに囁き、エルベスとニーシャも、声立てて笑った。
「私とエルベスも、良くアイリスを取り合って、喧嘩したわね?」
エルベスは、ニーシャの言葉に疑惑の目を向ける。
「喧嘩って…一方的に、貴方の勝利でしたよ。
何度、私の腕からアイリスを取り上げたか。
教えて差し上げましょうか?」
エラインが、姉の所業に声立てて笑い、エルベスは即座に、笑うもう一人の姉に言った。
「姉様もですよ!
母の権利だとか言って。
やっと眠った、アイリスを起こしてまで。
私の腕から、取り上げたんですからね!」
祖母がそれを聞いて、エラインを見つめ、小声で言う。
「まあ…!
貴方ったら、酷いのね!」
「お母様こそ!
一時も、離さなかったじゃ無いの!!!
だから私は、エルベスから取り上げるしか、方法が無かったのよ!!!
産みの、母なのに!!!」
そう叫び、食卓は和やかな笑い声で、包まれた。
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