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5 敵を退けるため、動き出すエルベス大公家
裏でニーシャが糸を引いてるのにも気づかず、ブログナを思い切り楽しむゼフィス
しおりを挟む(サランフォール公爵)
「また、あなたですか!」
ブログナが開催される屋敷の隠れ部屋で、アドラフレンの配下であるサランフォール公爵は、迷惑そうに言った。
「…どうしてあなたとの合同の謀に、いつも私が巻き込まれるのかな!」
腹立たしげに告げるサランフォール公爵を、ニーシャはチラ…と見る。
「他の男だと、私に夢中になって仕事に成らないからじゃ無い?
…どうして女に、興味無いのかしら…」
ニーシャは、濃い真っ直ぐの栗毛で、スレンダーなしまった体付きの、男らしく粋なサランフォール公爵を不満げに見つめる。
「女にはちゃんと興味ある!
あなたのような、恋愛を謀にする女に、興味が無いだけだ!」
「…だって私が、胸、はだけてしなだれかかっても。
勃たないなんて、異常よ?
…ま、だからゼフィスが相手でも、決して誘惑されそうにないって。
アドラフレンにこの任務に、抜擢されたんでしょうけど」
「…勃たないから何だって言うんです!
あなた、アドラフレンにそれを報告したでしょう?
お陰でこの間、真顔で彼に聞かれましたよ。
“まさか君、私に恋してないよね?”」
きゃははははっ!
サランフォール公爵は、笑いこけるニーシャを心から不快そうに睨み付けた。
が、ぼそり…と伝言を口にする。
「アドラフレンが貴方に。
先日報告を受けた、ギュンターと言う近衛騎兵は、アドラフレン殿のいとこのディングレー殿が現在、面倒見ているようなので。
彼が直接様子を見に行って、出歩かないよう警告するとの事です」
「…私が行くつもりだったのに…」
サランフォール公爵は、そのセリフに目を剥く。
「貴方みたいな目立つ人が近衛隊長宿舎なんかに足を運んだら!!!
それこそゼフィスが、万一ここから抜け出したりした場合!
密偵から即座に報告を受け取って!
銀の影の一族を焚きつけ!
今度はギュンターのいる隊長宿舎に、暗殺集団が!
奇襲するかもしれないんですよ?!
アドラフレン殿の、おいとこ殿まで危険にさらしたいんですか?!!!!」
「…耳が痛いわ」
「そうでしょうとも!
これで少しは、態度を改めますか?!」
「………耳が痛いのは、私に非があると思ったからじゃ無くて。
貴方が大声だからよ」
「……………………………………!!!」
サランフォール公爵はぷりぷり怒って、部屋の扉をバタン!!!と大きな音を立てて出て行き、ニーシャは思い切り、肩を竦めた。
屋敷には、招待客が続々と馬車で到着していた。
屋敷の入り口では、侍従がたくさんのマスクを乗せたビロードの布を持ち、招待客に選ばせる。
皆、案内されて広間へと足を運ぶ。
総勢、40名ほどの着飾った紳士淑女らが中に入ると、広間の扉は閉められ、間もなく主催者のレナーテ公爵が、マスクを付けて姿を現す。
ゼフィスの心は躍った。
ブログナは、カンファッテに招待しても良いかどうかの、新人の品定め。
…つまりは全ての貴族がこぞって憧れ。
厳選された貴族、だけが出席を許されるカンファッテの、入会審査も同様。
本当は、ロスフォール大公が自分のためにブログナを催してくれる事を期待していたけれど…。
ロスフォール大公は、自分のような身分低く品の無い女の為にブログナを開くなど、名折れだ。
とはっきり、ゼフィスの前で言い切った。
ゼフィスの取り巻きの一人、一番身分高いシァル侯爵が、ゼフィスを指名したと連絡を寄越し…逢瀬を匂わせた。
女好きのデブ。
嫌らしい視線でいつも身体を、舐め回すように見る。
けれど、それだから上流の女達には相手にされず、ゼフィスのような身分低い女の網に、引っかかったのだ。
けれどゼフィスは会場を見回し、心躍った。
「(レストール伯爵!
それにナンタステ公!
…シャルロネ公爵もいらっしゃるじゃないの!)」
それぞれが皆、由緒ある家柄で色男。
王宮内でかなりの影響力を持ち…そして、全てがニーシャの取り巻き………。
「(シァル侯爵なんて、メじゃないわ!
なんとしてもこの機会に、彼らを私の方に、取り込むのよ!)」
ゼフィスは運が、回って来たと確信した。
サスベスを垂らし込んだお陰で、伯爵領を賜り更に。
ニーシャの取り巻きまで手に入れられる!
「(…これでニーシャも終りね…。
エルベス大公家は領地から作物が一切出荷できず、大赤字!
幾らあの女でも、じき手持ちの宝石を全部売って暮らす日が、来るでしょうよ!)」
ゼフィスは笑いが、止まらなかった。
それに。
滅多に行けない王宮舞踏会で、必死ですり寄った麗しのシャルロネ公爵が、今はマスク姿の自分に視線を寄越し、にっこり微笑んでくれている!
以前初めてお目にかかった時は、洗練されきって、宮廷貴公子の見本のような素敵な御方だと思い、必死にお近づきに成ろうと、色目使ったのに無視されて。
やっと側に行くと、公爵はやって来た、女王然と多くの宝石を纏った、煌びやかな大輪の花、ニーシャの手を取った。
ニーシャは自分に一瞥もくべず、格の違いを見せつけ、高級ないい男に取り巻かれ…目の前を歩き去った。
そしてゼフィスはニーシャに憎悪の眼差しを、送ったのだ………。
雲の上の男達…。
けれど彼らが今、手の届くところにいる…!
ニーシャの最高の取り巻き、「左の王家」で王族のアドラフレンが、ここに居たら…!
「(彼をこちらに引き込めたら…!
ニーシャは完全に敗北…!)」
けれど超大物のアドラフレンの、姿は無く、ゼフィスはがっかりした。
「(まあ…いいわ。
このブログナの後、公爵領を賜れば。
絶対、カンファッテに正式に招待される。
その時…アドラフレンの姿を見ることが出来る。
間近で)」
ブログナは招待客が少ないので、直ぐに誰とでも会話が出来る。
ゼフィスが進んでいくと、シャルロネ公爵はにっこり迎え入れ
「おや…!
新顔さんですね?お美しい御方だ」
そう言って、手の甲にキスしてくれた。
やがて、硬派ながらとても女性の好みの良い、ナンタステ公やって来る。
「おや。
新しい御方を口説いてるのかい?
ニーシャに、言いつけるぞ?」
そうシャルロネ公爵に声をかけ…けれどゼフィスを見ると
「なる程、麗しの美女だ。
君は趣味が良い」
そう言ってゼフィスに向き直り
「ナンタステと申します。
お見知りおきを」
と丁寧に、挨拶してくれた。
更に更に。
美々しいレストール伯爵までが来て
「君たち、新しい美女を発掘中なのか?」
そう言ってゼフィスに振り向き、微笑む。
「なるほど、こんな美しい御方なら、君たちが囚われても無理ないね!」
そう言って、微笑みながらゼフィスを、真っ直ぐ見つめてくれた。
ゼフィスは
「(サスベスを垂らし込んで、女ぶりが上がったのかしら!)」
と、舞踏会中の女性の憧れの的。
綺羅綺羅しい乙女の夢見る王子様に囲まれて、笑いが止まらなかった。
その後、マスクを取ってソファだらけのくつろげる部屋で、ゲーム。
おのおの、紳士達はご婦人用の宝石飾りをポケットから取り出す。
どれも素晴らしい宝石の付いた、金細工の美しいネックレスやブレスレットで、名を呼ばれた紳士は、目当ての女性に宝石を捧げる。
三人の貴公子は皆、ゼフィスの元へやって来て、宝石を渡した。
ゼフィスは有頂天!
「では、お食事、ダンス、今夜のお相手をそれぞれ、お選びください」
そう司会者に言われ、ゼフィスは迷いまくった。
「では…お食事をレストール伯爵。ダンスをナンタステ公。
夜のお相手をシャルロネ公爵にお願いいたしますわ」
気品あふれ、趣味の良いナルサス公夫人に
「まあ!
素晴らしい貴公子を独り占めなんて、うらやましいわ」
と言われ、ゼフィスはもうすっかり上流の貴婦人の、仲間入りした気分で、頬が紅潮しっぱなし。
カップルの食事は二人きりになれる豪華な個室で、給仕付き。
踊りですら、照明を落としたロマンチックな中、寄り添うスローダンス。
そして…別室にシャルロネ公爵に誘われ…サスベスとは比べものにならないほどの、まったりとした…。
けれどとても情熱的な時を過ごし、ゼフィスは満足げにふかふかの布団で朝、大きな伸びをした。
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