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4 毒に侵されたギュンターの不幸とその波紋

襲撃命令を受け取る、影の一族、都の部下らの心境と、ギュンターの容態を知らされるローランデ

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「また…!
襲撃命令か?!」

都に詰めている影の一族の部下らは、使者からの羊皮紙に寄り集まって、指令地を覗き込む。

「デクーン、ルラン、サフォッティ…ダナクラン…」
「シュトール、アバナラン…ディオルデン…」
「ま…だあるぞ?!
ユシュフェラント、サンデス!」

皆は暫く、呆然と羊皮紙を眺めた。

「…どんどん増える…」
「こんな…事をしていたら!
我々の本来の仕事が果たせない…!」

一人が叫ぶと、もう一人が唇を噛む。
「襲撃の間に…一人、宝石だらけの大貴族を見逃した…。
あれを奪えば…かなりの生活費に出来たのに………!」

「まだ、蓄えがあるとしても…。
このまま襲撃に追われれば…稼ぎも無く、我らの仕送りは途絶える!
城の皆が生活出来なくなるのを、重臣らは分かっているのか?!」

「だが、指令は絶対だ………」

リーダー格の男の言葉に、皆は黙り込む。

「ともかくこれだけの領地の荷馬車を襲うのなら…地元のごろつきをもっと雇い入れ、我々は…各襲撃地に最低一人はついて。
襲撃の、指揮を執るしか無い」

「新しく雇い入れるんなら、訓練されてる部下は僅かだぞ?!」

「…ともかく、襲撃を成功させるのなら…護衛や荷に付く者らを、素早く殺さねば無理だ」

皆は一斉に、黙り込む。

最初の襲撃は四カ所。
見張りを立て、馬車が動き出すとその先の、人気の無い場所で襲う。

馬車が動き出すまでは、待機を強いられるから…。
四手に分かれるしか無かった。
襲撃を始めると、護衛も荷に付いている農民もが、強固に手向かう。

ぐすぐすしていると、人が通りかかる。
これが一人、襲う程度なら、人の来ない場所へも誘い込める。
が、道を塞ぎかねない、大きな荷馬車が三台も、四台も連なっていたら………。

「まずい!
人が来るぞ!」

その言葉を聞いて、極力殺さず事を納めようと思っていた部下らは、覚悟を決めて護衛らを斬り殺す。
後は…殺すしか、手早く襲撃を済ませる方法は無く…。
ほぼ皆殺しにすると、部下らは殺した農民の御者に代わり、馬車を走らせた。

指令では、馬車の納め先まで指定されていたから、部下は襲撃場所から一番近い納め場所まで馬車を走らせる。

門は開き、馬車は全て、中へ…。

彼らは、運ぶだけ。
一欠片すら、分け前は無い。

それがたった、一度のことなら…。

皆、納得もしたろう。
が、その後五日を置いて、また。

そして四日後に、また。
更に、指定された襲撃場所はどんどん、増え続ける………。

指令書を持って来る使者に、詰め寄っても…。
使者を務める男は俯き
「頭領からの、命令だ」
そう言うだけ…。

“頭領”の命令は、絶対だと。
思い知ってる部下らは、異論を飲み込み…。
いつ止まるとも知れぬ襲撃命令を、実行するしか無かった………。




 ローランデが夕食後に。
王立騎士養成学校『教練』の自室で、アイリスの使者から手渡された羊皮紙を、読んでいた時。

新たな訪問者が訪れた。と召使いに知らされ、ローランデはガウン姿で応接間に出向いた。



「…ディングレー殿!
失礼しました。こんな格好で…」

扉を開けたローランデに、目が合うなりいきなりそう告げられ、尊大な王族に見えたディングレーは、少し居住まいを崩して囁く。
「いや。
こんな時間に訪問した、俺が悪い。
ついその…癖で。
ここにいる間、俺はずっと“王族”と、生徒らに仰ぎ見られてたから。
足を踏み入れると条件反射で“王族”しちまう………」

バツが悪そうにそう告げるディングレーを、ローランデはクス…と笑い、促す。
「お座り下さい。
近衛連隊では…違うんですか?」

ディングレーはどっか!とソファに腰下ろすと、足を組んで、向かいに腰掛けるローランデに言う。

「近衛は、俺が低学年の時。
ここで仰ぎ見られてたディアヴォロスですら、ひよっ子扱いする場所だぞ?
俺なんて、王族の青二才扱い。
近衛には王族なんて、ごろごろいるし。
年上の男らが、ふんぞり返ってるから。
ナメられないよう、毎度殺気、全開で対応してて。
優雅に威張った王族、してる間もない」

ローランデはそのぼやきに、もっとくすくすと笑う。

ディングレーは、姿は優しげ。
ガウン姿でも気品を醸し出す貴公子、ローランデを見つめ、囁く。
「で、こんな時間に来たのは、ローフィスが。
多分、アイリスから連絡が行ってるとは思うが、一応知らせときたい。
と、ここに来ようとしてたから…。
つまり彼は今、忙しくて大変なので、俺が代わってここに来た」

「…どんな、ご用で?」
「ゼフィスが、訪問に来たとか」
ローランデが、頷く。
「どうして、ご存じ?」
「アイリスが、こっちにも来て、喋っていった。
ゼフィスが来たのは、ギュンターに舞踏会でこっ酷くフラれ。
ギュンターが惚れ込んでる君に興味を引かれたせいらしい。
で、今現在ギュンターは………」

「ええ!
絶対、もう来てる頃なのにどうして来ないのか…。
さっき、アイリスの使者から渡された、書状で知りました。
毒を盛られたとか…。
今はローフィスが、手当を?」

そう言ってる間に、召使いが入って来て目前に置いたカップを。
ディングレーは手にし、一気に飲み干し、頷く。
「…一時はかなりヤバい状態まで行ったらしい。
が、翌日はふらふらだけど、動いてたから」

ローランデは、“かなりヤバい”で、驚愕の表情を浮かべてたけど。
“動いてた”で、目を見開く。

「…その…“動いてた”…って言うのは…寝台の上で?」
「いや?
ふらふらだけど。
用足しは自分の足で行くし。
軍務にも出ようとする。
が。
ローフィスに
“ロクに歩けないし、回復の妨げになる。
欠席の知らせが、既にオーガスタスから送られてるから。
大人しく寝てろ”
と言われると、本人は不満げに、唸ってた」

「唸………。
でも…一昨晩前は、一時とはいえ、死にかけてたんですよね?」

ローランデの問いに、ディングレーは頷く。

「毒を中和する薬を大量に摂取、させすぎたせいか…。
と、言ってもローフィスが目を離した隙に、勝手に自分で煽ったんだが。
ショック状態を起こして。
が、暫くしたら、平静に戻った」

「……………………毒を盛られても、性格は変わらないんですね…」
ディングレーは、おもむろに頷く。
「本人に、病人の自覚がまるで無い。
ここに来ると言うのも、無理だとローフィスに止められ、不満そうだった」

ため息を吐くローランデに、ディングレーは畳みかける。
「ローフィスからの伝言だ。
出来れば君に来て貰って“大人しく寝てろ”と言って欲しいが。
現在の状態だと、逆効果。
自分は病人じゃ無い。と示すため…ギュンターがどんな行動に走るか、予測が付かず危険だから。
“来るな”と」

ローランデはまた、大きなため息を吐いた。

「…つまり毒でやつれて余裕が無いから。
本来の性格が、ダイレクトに出て…」

ディングレーはまた、頷く。
「ほぼ、本能だけの、弱った野獣に成り果ててる。
が、手負いの野獣は…結構、危険だ」

ローランデが、俯ききった所で、ディングレーは立ち上がった。

「こちらはローフィスに任せろ。
ギュンターが理性を取り戻してここに来るまで。
君はこちらに、足を運ぶ必要は無い」

ローランデは、頷いた。

ディングレーは頷き返し、部屋を出て、扉を閉めた。

ローランデは顔を上げ、閉まった扉を眺めつつ。
詳細をもっと、知りたいと思った。

が、ディングレーは口下手…。

「(…ローフィスだと…こちらの聞きたいことも、安気に聞けるんだけどな………)」

代わってきてくれたディングレーには悪いけど…。

“ローフィスが、来てくれたら良かったのに”

そう、ローランデは思って、また、大きなため息を吐いた。
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