アースルーリンドの騎士達 妖女ゼフィスの陰謀

あーす。

文字の大きさ
上 下
9 / 101
2 妖女ゼフィスとの出会い

タニア狙いの近衛の敵ノルンディル一味に襲われるギュンター達

しおりを挟む
 タニアが王家の双子と去った、暫くのち
いきなりギュンターは、両側からローフィスとディングレーに、がしっ!と腕を掴まれ、連行されるように大広間の出口に向かう。

人々の群れる広間の向こう。
柱の影にオーガスタスの姿。
ローフィスはオーガスタスに一つ頷くと、歩調を速める。

ギュンターがつい、ぐいぐい腕を引っ張るディングレーに振り向き、ぼやく。
「…説明ぐらい…」
「後だ!」

ディングレーにきっぱり言われ、ギュンターは結局、舞踏会広間から連れ出された。

玄関出口へと向かう、長い廊下を更に早足で。
ディングレーとローフィスは、歩き抜ける。

が。
すっ…と行く手に、柱の影から現れた、銀髪の男が立ち塞がる。



「(…ララッツ?!)」

近衛連隊、隊長の一人。
真っ直ぐな銀髪で長身。
剣も使えるが、頭も良い。

「逃がすな!」
その怒鳴り声を耳にし、ギュンターは咄嗟、背後に振り向く。

遙か後方。
広間の出口扉の前で、フォルデモルドが怒鳴ってた。



が。
ローフィスは歩を緩めず、目前に立ち塞がる銀髪のスカした男、ララッツに突進する勢い。
ディングレーに素早く
「殴れ!」と叫び、突っ込んで行く。

ディングレーがギュンターの腕を掴んでる、反対側の腕を、拳を握り込んで振り上げる。

しゅっ!
ララッツが、体を傾けて避け…。
が次に、体を傾けた方向に、吹っ飛んだ。

どっっっ!!!

ディングレーが目を見開き、横のギュンターを見る。
ギュンターがララッツを、蹴って目前から吹っ飛ばしていた。

もう、ローフィスはギュンターの掴む腕を放して怒鳴る。
「走れ!」

ディングレーがギュンターを伺うと、直ぐギュンターは駆け出す。
ディングレーはまだ、ギュンターの腕を掴んでいたので引っ張られて転びかけ、ギュンターに付いて、走るしか無かった。

ギュンターは、元から足は速い。
が、歩幅の広いギュンターに、ディングレーも遅れは取らず。
ローフィスは身軽に、横に駆け並ぶ。

庭に出て厩へと駆け込む途中、斜め向こうから御大ノルンディルが、凄まじい形相で駆け込んで来る。



三人はノルンディルに背を向け、もっとスピードを上げた。

「…………流石にあれは、殴れとは言わないな」
ディングレーがぼやくと、ローフィスが言い返す。
「…准将(ノルンディル)相手じゃ、さすが王族のお前でも、問題視される!
飛べ!」
ディングレーは言い返す。
「…無茶だ!」

が、日頃逃げ慣れてるギュンターは、速度を上げる。

ディングレーとローフィスは歯を食い縛って、本気で駆けるギュンターの両脇に、併走した。

ギュンターが真っ先に厩に駆け込み、愛馬ロレンツォに素早く飛び乗り。
ローフィスも続いて、愛馬オーデに身軽に飛び乗って、手綱を引く。

が。
ディングレーは首を振る。
王族の厩は一つ先にあって、この厩に愛馬の姿は無い。

馬上のローフィスが顎を引いてディングレーに“乗れ!”と合図を送る。
ディングレーは直ぐローフィスの後ろに飛び乗って、叫ぶ。
「エリス!
エリス!!!」

ノンディルの手が、ディングレーのブーツを掴もうとした時。
ローフィスが拍車をかけ、寸でで、すり抜ける。

ギュンターの横には赤毛のデカブツ、フォルデモルドが掴みかかって引きずり下ろそうとし。
が、ギュンターのブーツの裏を胸に喰らい、背後に思い切り吹っ飛んだ。

背を地面に打ち付けたフォルデモルドの背後を、ディングレーに呼ばれた黒馬エリスが、王家の厩より抜け出して駆け抜け、ローフィスの馬、オーデの後に続く。

ギュンターは背後、捕まえ損ねて転がってるフォルデモルドを叱りつけてる、ノルンディルに振り向き叫ぶ。
「タニアは自分で口説くんだな!!!
その、技量があればだが!!!」

「煽ってないで、とっとと来い!!!」
ディングレーに怒鳴られ、ギュンターは一気に拍車をかけ、オーデとエリスの後に続いて広い王宮舞踏会の庭園を、出口門へと駆け抜けていった。

ギュンターがローフィスの横に併走すると、ローフィスとディングレーは何か言い合ってる。

「…ギュンターがララッツ蹴ったとこ、フォルデモルドは見てないよな?」
ローフィスの問いに、ディングレーが背後から歯を剥く。
「あっち勢力では、あんた並に目端が利いて利口なララッツだぞ?!
ギュンターが蹴ったって!
言うに決まってる!」
「蹴ったのは、俺だ」

事実を曲げるローフィスの言葉に、ギュンターが呻く。
「…それで通すつもりか?」

ディングレーも頷いて、言い返す。
「いっくら新兵、ギュンターよりマシでも!
身分低い隊長のあんたじゃ!
矢面に立って、奴らに睨まれるじゃ無いか!!!」

「オーガスタスとディアヴォロス(左将軍)が、なんとかしてくれる」

ディングレーは不満げに、前で馬を操るローフィスから顔を背け。
ギュンターは、併走するローフィスの横顔をじっ…と見て。
そして呟いた。

「俺だって、オーガスタスは庇って…」
「問題外だ」

ローフィスに却下され、ギュンターは俯く。
「俺の身分は低い上、新兵で何の役職も無いから?」

ローフィスは真っ直ぐ前を向いたまま頷き、ディングレーもわざわざギュンターに振り向いて、頷く。

「これに懲りたら、王宮舞踏会では、もっと大人しくしてるんだな!」
ローフィスに言われ、ギュンターは咄嗟、怒鳴る。
「タニアは怪力フォルデモルドに細腕を思い切り掴まれ、凄く痛そうだったんだぞ?!」

ディングレーが唸る。
「一言、俺に耳打ちしてたら…」
ギュンターは今度、ディングレーに怒鳴った。
「あんた!
タニアと結婚したくないから、助けなかったろう?!」

ディングレーは頷くと、言った。
「「右の王家」の双子に、助けるよう耳元で囁いた」

「………………………………」

ローフィスとギュンターがそれを聞いて黙り込むので、ディングレーは凄く、居心地悪かったが。
何とか、バックレ通した。


が。
近衛宿舎に向かう途中の、二股に分かれた道を、ギュンターは左へと馬を進める。

ローフィスは右に入って、ギュンターに叫ぶ。
「帰らないのか?!」
「今夜相手になってくれる、色目送ってくれた感じの良い貴婦人三人を!!!
振り切って出て来たんだ!」

ローフィスが振り向き、ディングレーと目を合わせる。
咄嗟、ディングレーが叫んだ。
「…だから?!」

ギュンターは左の道へと入り、振り向いて怒鳴る。
「ローランデに、会いに行く!」
ディングレーが怒鳴り返す。
「こんな、時間に?!」

が、ギュンターはさっさと左道へと、消えた。

ローフィスが思わず、怒鳴る。
「こんな遅くに行ったら!!!
絶対、ローランデに振られるぞ!!!」

「…うんと可愛がって、蕩かすから!
俺は振られない!!!」

左の道からそう叫ぶ声だけが聞こえ、馬の速度を落としたローフィスとディングレーは、互いの顔を見合った。
「…ホントか?」
ディングレーに問われ、ローフィスは首を竦める。

「…あれだけ寝技に自信がある。
ってのも、イヤミだな」

ディングレーのぼやきに、ローフィスが呆れて言った。
「お前と寝た相手もみんな、お前にメロメロじゃないか」
ディングレーは、歯を剥いて怒鳴った。
「俺はあいつ(ギュンター)みたいに、誰彼なしに寝まくってない!!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

恋愛対象

すずかけあおい
BL
俺は周助が好き。でも周助が好きなのは俺じゃない。 攻めに片想いする受けの話です。ハッピーエンドです。 〔攻め〕周助(しゅうすけ) 〔受け〕理津(りつ)

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

勘弁してください、僕はあなたの婚約者ではありません

りまり
BL
 公爵家の5人いる兄弟の末っ子に生まれた私は、優秀で見目麗しい兄弟がいるので自由だった。  自由とは名ばかりの放置子だ。  兄弟たちのように見目が良ければいいがこれまた普通以下で高位貴族とは思えないような容姿だったためさらに放置に繋がったのだが……両親は兎も角兄弟たちは口が悪いだけでなんだかんだとかまってくれる。  色々あったが学園に通うようになるとやった覚えのないことで悪役呼ばわりされ孤立してしまった。  それでも勉強できるからと学園に通っていたが、上級生の卒業パーティーでいきなり断罪され婚約破棄されてしまい挙句に学園を退学させられるが、後から知ったのだけど僕には弟がいたんだってそれも僕そっくりな、その子は両親からも兄弟からもかわいがられ甘やかされて育ったので色々な所でやらかしたので顔がそっくりな僕にすべての罪をきせ追放したって、優しいと思っていた兄たちが笑いながら言っていたっけ、国外追放なので二度と合わない僕に最後の追い打ちをかけて去っていった。  隣国でも噂を聞いたと言っていわれのないことで暴行を受けるが頑張って生き抜く話です

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

処理中です...