24 / 30
帰り道 11
しおりを挟む
がたっ!
ローランデが物思いに耽っていた時、音がした。
どこからの音だろう?と室内を見回す。
いきなり…衣装戸棚が内から…扉が僅かに開く。
立て付けが悪いのか?
見ていると、扉が僅かに開いて………。
「…ギュンター……………!」
ギュンターは押し開けた衣装箪笥から漏れる、細長い灯りの向こうにローランデの愛おしい白面(しろおもて)と青の瞳を見つけ、頷いた。
辿り来た背後の薄暗い隠し通路に振り向き、自分の部屋へ戻って行こうとする公爵を見つめる。
公爵は気づき足を止め、微笑って言った。
「私は貴方と大公子息の関係について、口を閉ざす。
だから貴方も、ローズマリーと私の事を妻には決して言わない。
そう…約束してくれるでしょう?」
ギュンターは返答を待つ公爵に呟いた。
「あんたとローズマリーの関係がバレバレのように、俺とローランデもそうだってのか?」
が、公爵は悪戯っぽく微笑った。
「あの決闘騒ぎの演技が、無駄だったか?
との問いに
『無駄ではなかった』と答えましょう。
ローズマリーはいつも気のある男相手に、恋人のように振る舞う。
私で、無い場合も。
だからどの男と居ても『関係がある』と人に思われてる。
貴方と大公子息の関係については…。
だって貴方のような奔放な男がどの女性をも袖にして、彼と居たがるのは今夜は彼と、過ごしたいと熱烈に要望してる。
そう推測した迄です」
ギュンターは肩を竦めた。
「どれか一人女を取り置きしてたら、疑わなかったか?」
公爵は頷いた。
「私も貴方も相手を一人に絞れない。
余程特別な、一人以外は」
ギュンターはぶすっ垂れて言った。
「(いかにも遊び人だと、バレてるんだな)
が、北領地[シェンダー・ラーデン]で相手が男は、御法度なんだろう?」
公爵は肩を竦めた。
「私は中央テールズキース育ちだし、少年相手に遊んだ事もある。
が、恋人にしたがる男は少ないものです。
ましてや相手が大公子息の場合はね」
ギュンターは肩を竦めた。
公爵は念押しした。
「妻は私の浮気相手が、ローズマリーの場合だけ我慢出来ない」
ギュンターは請け負った。
「生涯口を閉ざそう」
公爵も微笑った。
「では私もそうしよう」
入れ替わりに自分の部屋に戻り行く公爵の背を見つめ、ギュンターはその窮屈な衣装戸棚の中から、目を見開くローランデの居る部屋へと潜り出た。
「…ど……抜け…道なのか?
公爵に…………」
ローランデは公爵に、知られたのか?と聞こうとした。
ギュンターは途中屈んだ膝の埃を払いながら呟く。
「俺の部屋に押し寄せる、女を全部袖にしてここに来たから、バレたようだ」
ローランデは真っ赤に成って怒鳴った。
「君と関係があると知られたら、明日どんな顔をすればいい…!」
が、ギュンターは怒ってるローランデの、腕を掴み素早く言った。
「話は後だ。
ここに来る通路は、屋敷の者は皆知ってる」
言ってローランデの腕を引っ張ると、廊下に続く扉を開ける。
こっそり誰も居ないのを見、内心
「(全員、抜け道を使ってるんだろうな)」
と思い、廊下に足音を忍ばせ、出て行く。
ローランデは引っ張られ、ギュンターがこそこそしてる様子につい、口を噤む。
ギュンターが廊下の奥の行き止まり、セルダンの部屋の扉を叩く。
何気に開けて、そこにギュンターの顔を見つけた時のセルダンの、驚愕と恐怖に見開かれた顔ったら無かった。
「ギ…ギュンター殿………!
わ…わ…私は田舎育ちで、たしなみが無いしその………。
貴方が楽しめる相手とは、到底思えません!!!」
がギュンターは言い訳るセルダンを肩で突き飛ばして押し退け、ローランデの腕を引いて中にさっと滑り込み、セルダンに怒鳴る。
「とっとと扉を閉めろ!」
セルダンはローランデを見、呆けたまま扉を閉める。
ギュンターはセルダンに振り向き、素早く言った。
「俺は大公から彼の私生活を護れと、言い渡されてる。
ローランデの部屋には抜け道で出入り自由だ。
それで…アナベルに深夜押しかけられると、子供が生まれたばかりのローランデは困った事になる」
ローランデも言葉の内容にぎょっ!としたが、セルダンも叫んだ。
「アナ…!」
言いかけて、はっ!とする。
「…確かに無いとは言い切れない」
ギュンターはたっぷり頷くと
「君には代わりにローランデの部屋に泊まって貰い、今夜の監視を命ずる」
セルダンは、驚いてギュンターを見上げる。
「でも私はあの…万が一、アナベルが私とローランデ殿を間違えたりしたら………」
「君が彼女を不快と思うなら
『深夜男の寝室に押しかけるのは、はしたない』
と怒ってやれ」
「では…でも………。
不快と、思わなかったら?」
「ならローランデの代わりに、抱けばいいだろう?」
「私の事を、彼女はローランデ殿と思ってるのに?!」
「ちゃんと自分だ。と、事の終わった後に言ってやれ」
「そんな事をしたら、大騒ぎに成りますよ!」
ギュンターはジロリ…!とその年若い青年を見た。
「事の、後でもか?
君は男として、そこ迄自信が無いのか?」
セルダンはごくり…!と唾を飲み込んだ。
「つまり、騒がれないよう満足させろと?」
ギュンターは、当然だろう?と頷く。
そしてさっさとセルダンの背を押し扉を開けて押し出す。
廊下に出たセルダンはそれでもまだ、不安そうに年上の金髪美男を見つめる。
ギュンターは、頷いて言った。
「男なら腹を括れ!
ソノ気で迫れば、君はいい男なんだから相手は陥落するさ!」
セルダンは後押しされ、うわずりながらも何とか、頷いて見せた。
廊下を歩くその足取りはよろよろで、何もない場所でコケている。
「その直ぐ横の扉だ」
こっそり言ってやると、セルダンは頷き、もう一度縋るようにギュンターを見、ご利益を貰うように頷き掛け、意を決してローランデの部屋の、扉を開けて中へと消えた。
ローランデが物思いに耽っていた時、音がした。
どこからの音だろう?と室内を見回す。
いきなり…衣装戸棚が内から…扉が僅かに開く。
立て付けが悪いのか?
見ていると、扉が僅かに開いて………。
「…ギュンター……………!」
ギュンターは押し開けた衣装箪笥から漏れる、細長い灯りの向こうにローランデの愛おしい白面(しろおもて)と青の瞳を見つけ、頷いた。
辿り来た背後の薄暗い隠し通路に振り向き、自分の部屋へ戻って行こうとする公爵を見つめる。
公爵は気づき足を止め、微笑って言った。
「私は貴方と大公子息の関係について、口を閉ざす。
だから貴方も、ローズマリーと私の事を妻には決して言わない。
そう…約束してくれるでしょう?」
ギュンターは返答を待つ公爵に呟いた。
「あんたとローズマリーの関係がバレバレのように、俺とローランデもそうだってのか?」
が、公爵は悪戯っぽく微笑った。
「あの決闘騒ぎの演技が、無駄だったか?
との問いに
『無駄ではなかった』と答えましょう。
ローズマリーはいつも気のある男相手に、恋人のように振る舞う。
私で、無い場合も。
だからどの男と居ても『関係がある』と人に思われてる。
貴方と大公子息の関係については…。
だって貴方のような奔放な男がどの女性をも袖にして、彼と居たがるのは今夜は彼と、過ごしたいと熱烈に要望してる。
そう推測した迄です」
ギュンターは肩を竦めた。
「どれか一人女を取り置きしてたら、疑わなかったか?」
公爵は頷いた。
「私も貴方も相手を一人に絞れない。
余程特別な、一人以外は」
ギュンターはぶすっ垂れて言った。
「(いかにも遊び人だと、バレてるんだな)
が、北領地[シェンダー・ラーデン]で相手が男は、御法度なんだろう?」
公爵は肩を竦めた。
「私は中央テールズキース育ちだし、少年相手に遊んだ事もある。
が、恋人にしたがる男は少ないものです。
ましてや相手が大公子息の場合はね」
ギュンターは肩を竦めた。
公爵は念押しした。
「妻は私の浮気相手が、ローズマリーの場合だけ我慢出来ない」
ギュンターは請け負った。
「生涯口を閉ざそう」
公爵も微笑った。
「では私もそうしよう」
入れ替わりに自分の部屋に戻り行く公爵の背を見つめ、ギュンターはその窮屈な衣装戸棚の中から、目を見開くローランデの居る部屋へと潜り出た。
「…ど……抜け…道なのか?
公爵に…………」
ローランデは公爵に、知られたのか?と聞こうとした。
ギュンターは途中屈んだ膝の埃を払いながら呟く。
「俺の部屋に押し寄せる、女を全部袖にしてここに来たから、バレたようだ」
ローランデは真っ赤に成って怒鳴った。
「君と関係があると知られたら、明日どんな顔をすればいい…!」
が、ギュンターは怒ってるローランデの、腕を掴み素早く言った。
「話は後だ。
ここに来る通路は、屋敷の者は皆知ってる」
言ってローランデの腕を引っ張ると、廊下に続く扉を開ける。
こっそり誰も居ないのを見、内心
「(全員、抜け道を使ってるんだろうな)」
と思い、廊下に足音を忍ばせ、出て行く。
ローランデは引っ張られ、ギュンターがこそこそしてる様子につい、口を噤む。
ギュンターが廊下の奥の行き止まり、セルダンの部屋の扉を叩く。
何気に開けて、そこにギュンターの顔を見つけた時のセルダンの、驚愕と恐怖に見開かれた顔ったら無かった。
「ギ…ギュンター殿………!
わ…わ…私は田舎育ちで、たしなみが無いしその………。
貴方が楽しめる相手とは、到底思えません!!!」
がギュンターは言い訳るセルダンを肩で突き飛ばして押し退け、ローランデの腕を引いて中にさっと滑り込み、セルダンに怒鳴る。
「とっとと扉を閉めろ!」
セルダンはローランデを見、呆けたまま扉を閉める。
ギュンターはセルダンに振り向き、素早く言った。
「俺は大公から彼の私生活を護れと、言い渡されてる。
ローランデの部屋には抜け道で出入り自由だ。
それで…アナベルに深夜押しかけられると、子供が生まれたばかりのローランデは困った事になる」
ローランデも言葉の内容にぎょっ!としたが、セルダンも叫んだ。
「アナ…!」
言いかけて、はっ!とする。
「…確かに無いとは言い切れない」
ギュンターはたっぷり頷くと
「君には代わりにローランデの部屋に泊まって貰い、今夜の監視を命ずる」
セルダンは、驚いてギュンターを見上げる。
「でも私はあの…万が一、アナベルが私とローランデ殿を間違えたりしたら………」
「君が彼女を不快と思うなら
『深夜男の寝室に押しかけるのは、はしたない』
と怒ってやれ」
「では…でも………。
不快と、思わなかったら?」
「ならローランデの代わりに、抱けばいいだろう?」
「私の事を、彼女はローランデ殿と思ってるのに?!」
「ちゃんと自分だ。と、事の終わった後に言ってやれ」
「そんな事をしたら、大騒ぎに成りますよ!」
ギュンターはジロリ…!とその年若い青年を見た。
「事の、後でもか?
君は男として、そこ迄自信が無いのか?」
セルダンはごくり…!と唾を飲み込んだ。
「つまり、騒がれないよう満足させろと?」
ギュンターは、当然だろう?と頷く。
そしてさっさとセルダンの背を押し扉を開けて押し出す。
廊下に出たセルダンはそれでもまだ、不安そうに年上の金髪美男を見つめる。
ギュンターは、頷いて言った。
「男なら腹を括れ!
ソノ気で迫れば、君はいい男なんだから相手は陥落するさ!」
セルダンは後押しされ、うわずりながらも何とか、頷いて見せた。
廊下を歩くその足取りはよろよろで、何もない場所でコケている。
「その直ぐ横の扉だ」
こっそり言ってやると、セルダンは頷き、もう一度縋るようにギュンターを見、ご利益を貰うように頷き掛け、意を決してローランデの部屋の、扉を開けて中へと消えた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる