若き騎士達の危険な日常

あーす。

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愛しすぎて

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 ローフィスはシェイルが座る、寝台へと歩み寄る。

オーガスタスは振り向くヤッケルの背に触れて室内を出るよう促し、ローフィスとシェイルの二人っきりにして、扉をそっと閉めた。

隣室ではディングレーがため息を吐き、オーガスタスとヤッケルを“声の聞こえない”客室へと案内する為、先を歩き出した。

隣室を抜けて豪華な応接室の、その向かいの扉を開ける。

ヤッケルが天蓋付きの寝台を見て、無言。
その後、背後のオーガスタスに振り向く。

「寝相、いい?」

オーガスタスはうんと小柄なヤッケルに屈み、しばし考え…。
「…どうかな。
大酒かっくらった時は…横に寝てるヤツ、吹っ飛ばしてたらしいが」

ヤッケルはそれを聞いて、思い切り顔を下げる。

「…あんたに軽くはたかれただけで、俺、寝台から飛びそうなんだけど」

ディングレーがそれを聞いて、ため息吐く。
「じゃそっちの長椅子で寝ろ」

ヤッケルは長椅子を見る。
クッションも長椅子自体も、金の縁飾りと刺繍だらけで凄くゴージャス。
「…なんか俺、うなされるかも…」

ディングレーはとうとう怒って
「たかが長椅子ごときに、ビビるな!
ただし、汚すなよ。
掃除担当の召使いに、後に俺が。
丁寧語で嫌味を言われる」

バタン!
と扉が閉まり…ヤッケルは寝台に歩き出すオーガスタスに尋ねる。
「…ディングレーと召使いの関係って…どっちが上?」

オーガスタスは寝台に座ると、揺すって丈夫さを確かめていたが、振り向く。
「…お前だって年上の俺に、言いたい放題するだろう?
遠慮、するか?」
「…でもクビには出来ない。
あんた俺の、雇い主じゃないから」
「確かに。
が、言われて腹が立てば、威嚇するかも」

ヤッケルはオーガスタスのど・迫力の逞しい体を見て、思わずぞっ。
とした。

「で、お前俺にビビって、言葉控えるか?」
「まあ、多少は」
「だろ?
召使いだろうが、言いたいヤツは言う。
それをクビにするかどうかは、ディングレーの度量だ。
多分掃除担当の召使いが、かなり有能だから。
後任見つけにくくて、クビに出来ないんじゃ無いのか?」
「なるほど」

ヤッケルはチリ一つ落ちてない、豪華な絨毯の敷かれた豪勢な客間を見回した。

が、扉が突然開く。

ローフィスが、俯ききって姿を見せ、ヤッケルも目を見開いて見たけど、オーガスタスはため息を吐いた。

俯くローフィスに、オーガスタスはポケットから、超強力睡眠薬を取り出し、ローフィスの前へと歩み寄り、手渡す。

「…で?
長年鬱積した欲望解き放つのが怖すぎて、逆に勃たないのか?」

オーガスタスに問われ、ローフィスは俯く。
「…今解き放ったら、兄貴に戻れない」

オーガスタスはため息吐いた。
「つまりずっと兄貴してたから、兄貴の役目、放棄する決心がつかないって事か?」

ローフィスは、無言で頷く。
そして顔を俯けたまま、部屋を出て行った。

扉が閉まり、ヤッケルの視線を感じて、オーガスタスは苦笑する。
「朝…シェイルをまた、励ましてやってくれるか?」
「…それは…するけど…。
俺も弟と妹、山程居るからローフィスの気持ち、なんとなく分かる」

オーガスタスは、肩を竦めた。
「俺は、男だから分かる。
マジ惚れした相手ほど…考えるな。
その相手に、失望されたくない。
ずっと自分を見つめて欲しい…。
そんな風に欲張れば、まず迂闊うかつに手なんか出せない。
恋して燃え上がって…やがて冷えて。
もう会わなくなる。
それが…怖くなる。
…その場限りの相手なら、ホイホイ押し倒せるのに」

ヤッケルに、じっ…と見つめられ、オーガスタスは開き直った。
「男心は結構、繊細なんだ」

その時、ディングレーがヤッケル用の、毛布を持って扉を開け、オーガスタスの言葉に目を見開く。
「…男心が繊細なのは分かってるが。
あんたもそうなのか?」

オーガスタスはディングレーを見た。
「何か?
俺は男で無いってのか?」
突っかかられて…ディングレーは顔を背ける。
「……………この話題はよそう」

そう言って、寝椅子に座るヤッケルの横に毛布を置き、無言でさっさと部屋を出て行った。

「………逃げたな」
オーガスタスの言葉に、ヤッケルは頷き倒す。
「今のはディングレーの気持ちが、痛い程分かった」

「あんまり分かると、俺に睨まれるって分かってる?」
「…………もう寝よう」

「お前も、逃げたか」

オーガスタスの独り言に、ヤッケルは毛布を被り、思った。
「(普通の神経なら、逃げる)」



 ローフィスは温かいミルクを召使いから受け取り、カップに睡眠薬を入れる。
シェイルのと、そして自分の分にも。

トレーを持って扉を開け、寝台の上に座り見つめる、愛らしく艶を纏ったシェイルを見る。

改めて思った。
自分の一時の欲望なんかより。
もっとお前が大事だから…。

だから………。

ミルクの入ったカップを差し出す。
「熱いから、気をつけろ」

ローフィスは言って手渡し、もう一つのカップを持って横に、座る。

シェイルは嬉しそうに笑う。
「…子供の頃みたいだ………。
ローフィス…ここ教練に来てから、ずっと二人きりでこんな風に…出来なかった」

ローフィスは胸が、ズキン…!と痛む。

シェイルが望むのは、二人っきりで過ごした日々を取り戻したいだけ…。
無邪気に笑い、親父が食料や必要な物を調達しに出かけてる間、ずっと…二羽の小鳥のように、寄り添って過ごした日々…。

危険をいち早く察し、シェイルを守るために安全な洞に隠し…囮として雨の中、ずぶ濡れになって逃げ回り戻った時ですら…。
シェイルが守り切れて誇らしかった。

シェイルはあの時のままでいたいんだ。
他に誰も居ず、大人にもならず…。

ローフィスはシェイルの横に寄りそう。
シェイルは本当に嬉しそうに、無邪気に笑う。

そしてやがて…取り戻したローフィスという温もりに安堵して、暖かな夢の中へ落ちる。

ローフィスはシェイルの手からカップを取り上げ、サイドテーブル置いた後。
シェイルを寝台に横たえて、自分もカップを煽り、横に潜り込んでシェイルの肩に布団を被せた。

恋する青年となり、戻れない自分を、哀れと感じながら…。


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