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大公家からの使者
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…それからアイリスはひたすら耐えた。
スフォルツァが恋人のような熱い眼差しを注ぎ続け、事ある事に肩を抱き寄せ、姫をエスコートする騎士さながらに振る舞う様子を。
講義の席に着くにも、椅子を引かれて、どうぞ。と促される。
べったり張り付くスフォルツァに学友達は、優雅でお似合いのカップルに驚き、目を見開き、そして羨んだ。
アイリスはエルベスを思い浮かべた。
自分に良く似た面差しと、同色の髪色。
自分よりほんの少し色味の明るい青の瞳をした、優雅で穏やかで頼れる叔父を。
母の弟で、祖母。母の姉である叔母。
そして母と妹二人。
の、女だらけの家族の中で唯一、頼れる兄のような年の近い叔父。
六つ違いの二十歳に成ったばかりだったが、もう大公としての威風を身に付けていて、優雅そのものだが、迫力があった。
が自分に対してはまるっきり弟として接してくれていて、アイリスが父親の公爵家を継ぎ、家を離れた後も、面倒見てくれていた。
エルベスはさすがで、午前の最後の、剣の授業後。
皆が手にしていた剣を置き、講堂を後に、昼食を取ろうと食堂へ詰めかけ始める頃。
使者が到着し、剣の講師は講堂の入り口で、使者から伝言を伝え聞く。
「アイリス!」
スフォルツァは相変わらず、アイリスから持っていた剣を取り上げ、アイリスに代わってそれを剣立てに終い、振り向き、背を抱こうとした矢先。
その声に気づき、振り向く。
講師は戸口で使者を待たせ、アイリスが自分に歩み寄るのを見届け、告げる。
「至急の用事だ。
大公邸に出向いて欲しい。と。
馬車が、校門の外に控えてる。
着替えも必要無いそうだ。
身一つで今直ぐ、出向けるか?」
講師の問いに、アイリスは頷く。
廊下を見ると、そこに居たのは良く見知った父の取り巻きの一人。
アドルッツァだった。
彼は長身の肩を壁に持たせかけ、長くくねる金髪を肩に、爽やかで整った顔に微笑を浮かべ、見つめる自分に一つ、ウィンクを送って寄越す。
金髪碧眼のアドルッツァは父シャリスのいとこ。
早くに両親を亡くした父は、彼の屋敷で世話に成っていた。
その家の長男、黒髪に近い栗毛の、逞しく厳格なラルロッツェと違い、次男で後妻の連れ子の彼は、神聖神殿隊付き連隊に勤務する、軽やかな金髪の伊達男だった。
アドルッツァは可愛い甥っ子に、笑みを向ける。
アイリスは彼の懐に、笑って飛び込む。
「エルベスの屋敷に来てたの?
どうして?」
アドルッツァは肩を竦める。
「俺だってタマには大公屋敷を訪問するような、お行儀の良い仕事を、賜る事だってある」
アイリスは笑った。
「あんたにエルベスなら、鬼に金棒だ!」
「…元気そうだな?
緊急の呼び出しで、てっきり…乱暴な上級生に、強姦でもされたのかと心配したが」
「それなら、どれだけ良かったか!!
…もっと厄介なんだ」
アドルッツァは絶句した。
「…強姦が…良かったのか?」
アイリスは頷く。
アドルッツァは背を抱き、促そうとし…。
自分達を見つめる視線に気づく。
「学友が、心配してる様子だ」
アイリスはアドルッツァに従おうとし、その言葉を聞いて背後に振り向く。
スフォルツァは突然現れた年上の、派手な金髪の伊達男に大事な恋人を連れ去られようとし、眉間を寄せていた。
アイリスはアドルッツァに頷かれ、スフォルツァの方へと歩を運ぶ。
「…大公邸から、至急の呼び出しだ。
多分五月の、大舞踏会の事だと思う。
衣服の合わせか…それとも招待客の打ち合わせか…。
理由は良く、分からないけれど。
でも君も招待客の一人に、名前を入れるよう。
叔父に、そう言うから」
スフォルツァはエルベス大公邸の、毎年催される名誉ある大舞踏会の、話は聞き知ってはいた。
アースルーリンドの重鎮が軒並み顔を揃える。
とあって、招待状が届くと皆、飛び上がって喜ぶのが常だった。
同じ大貴族と言っても、その家の格の違いに、スフォルツァはつい、俯く。
アイリスは気づいて、そっ…と声を落として、ささやく。
「私の父の公爵家は、大した家柄じゃないよ」
スフォルツァは言葉を返す。
「それでも、大貴族だ」
アイリスは、にっこり笑う。
「君の所と、同じか。
それ以下のね」
スフォルツァは、顔を上げる。
がアイリスは鮮やかに微笑むと、くるりと背を向け、その、大人の。
金髪で頼れる、爽やかな伊達男の元へと、駆けて行ってしまった………。
スフォルツァが恋人のような熱い眼差しを注ぎ続け、事ある事に肩を抱き寄せ、姫をエスコートする騎士さながらに振る舞う様子を。
講義の席に着くにも、椅子を引かれて、どうぞ。と促される。
べったり張り付くスフォルツァに学友達は、優雅でお似合いのカップルに驚き、目を見開き、そして羨んだ。
アイリスはエルベスを思い浮かべた。
自分に良く似た面差しと、同色の髪色。
自分よりほんの少し色味の明るい青の瞳をした、優雅で穏やかで頼れる叔父を。
母の弟で、祖母。母の姉である叔母。
そして母と妹二人。
の、女だらけの家族の中で唯一、頼れる兄のような年の近い叔父。
六つ違いの二十歳に成ったばかりだったが、もう大公としての威風を身に付けていて、優雅そのものだが、迫力があった。
が自分に対してはまるっきり弟として接してくれていて、アイリスが父親の公爵家を継ぎ、家を離れた後も、面倒見てくれていた。
エルベスはさすがで、午前の最後の、剣の授業後。
皆が手にしていた剣を置き、講堂を後に、昼食を取ろうと食堂へ詰めかけ始める頃。
使者が到着し、剣の講師は講堂の入り口で、使者から伝言を伝え聞く。
「アイリス!」
スフォルツァは相変わらず、アイリスから持っていた剣を取り上げ、アイリスに代わってそれを剣立てに終い、振り向き、背を抱こうとした矢先。
その声に気づき、振り向く。
講師は戸口で使者を待たせ、アイリスが自分に歩み寄るのを見届け、告げる。
「至急の用事だ。
大公邸に出向いて欲しい。と。
馬車が、校門の外に控えてる。
着替えも必要無いそうだ。
身一つで今直ぐ、出向けるか?」
講師の問いに、アイリスは頷く。
廊下を見ると、そこに居たのは良く見知った父の取り巻きの一人。
アドルッツァだった。
彼は長身の肩を壁に持たせかけ、長くくねる金髪を肩に、爽やかで整った顔に微笑を浮かべ、見つめる自分に一つ、ウィンクを送って寄越す。
金髪碧眼のアドルッツァは父シャリスのいとこ。
早くに両親を亡くした父は、彼の屋敷で世話に成っていた。
その家の長男、黒髪に近い栗毛の、逞しく厳格なラルロッツェと違い、次男で後妻の連れ子の彼は、神聖神殿隊付き連隊に勤務する、軽やかな金髪の伊達男だった。
アドルッツァは可愛い甥っ子に、笑みを向ける。
アイリスは彼の懐に、笑って飛び込む。
「エルベスの屋敷に来てたの?
どうして?」
アドルッツァは肩を竦める。
「俺だってタマには大公屋敷を訪問するような、お行儀の良い仕事を、賜る事だってある」
アイリスは笑った。
「あんたにエルベスなら、鬼に金棒だ!」
「…元気そうだな?
緊急の呼び出しで、てっきり…乱暴な上級生に、強姦でもされたのかと心配したが」
「それなら、どれだけ良かったか!!
…もっと厄介なんだ」
アドルッツァは絶句した。
「…強姦が…良かったのか?」
アイリスは頷く。
アドルッツァは背を抱き、促そうとし…。
自分達を見つめる視線に気づく。
「学友が、心配してる様子だ」
アイリスはアドルッツァに従おうとし、その言葉を聞いて背後に振り向く。
スフォルツァは突然現れた年上の、派手な金髪の伊達男に大事な恋人を連れ去られようとし、眉間を寄せていた。
アイリスはアドルッツァに頷かれ、スフォルツァの方へと歩を運ぶ。
「…大公邸から、至急の呼び出しだ。
多分五月の、大舞踏会の事だと思う。
衣服の合わせか…それとも招待客の打ち合わせか…。
理由は良く、分からないけれど。
でも君も招待客の一人に、名前を入れるよう。
叔父に、そう言うから」
スフォルツァはエルベス大公邸の、毎年催される名誉ある大舞踏会の、話は聞き知ってはいた。
アースルーリンドの重鎮が軒並み顔を揃える。
とあって、招待状が届くと皆、飛び上がって喜ぶのが常だった。
同じ大貴族と言っても、その家の格の違いに、スフォルツァはつい、俯く。
アイリスは気づいて、そっ…と声を落として、ささやく。
「私の父の公爵家は、大した家柄じゃないよ」
スフォルツァは言葉を返す。
「それでも、大貴族だ」
アイリスは、にっこり笑う。
「君の所と、同じか。
それ以下のね」
スフォルツァは、顔を上げる。
がアイリスは鮮やかに微笑むと、くるりと背を向け、その、大人の。
金髪で頼れる、爽やかな伊達男の元へと、駆けて行ってしまった………。
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