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タフなレナルアンの身の上話と、鍛錬に戻る生徒達

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 シェイルは暫く、泣いてるラナーンを抱きしめてるヤッケルを、呆けて見つめた。
少し離れていたけれど…ラナーンが叫んだから。
ほぼ話は、聞こえてた。

レナルアンがシュルツの剣をスカし、寄って来て話しかける。
「気にするか?
あいつに凄く、嫌がらせされたんだろ?」

シェイルは背の高いレナルアンを見つめた。
赤毛で水色の瞳。
凄く整った顔立ちで、華やかさすら垣間見えた。
着飾って品良く振る舞えば、誰もが振り向く程の美少年。

けれど本人に自覚無く、誰もが口を揃えて
『口を開くと幻滅する』
と感想を述べる。

シェイルはレナルアンの顔を見つめ、囁く。
「あんた…も…酷いの?」

レナルアンは肩すくめた。
「俺は平民で悪餓鬼だったし。
兄弟やたら多いし、食えない時は畑から盗んで毎度、農夫の親父に怒鳴られてたし。
喧嘩だってしてきたしの、雑草育ちで。
金持ちの女に誘惑されたフリして大金せしめ、親兄弟にたらふく食わせたコトもあるし。
近衛に進めて給料貰えりゃ、別に大した苦労だとは思ってナイ」

それを聞いたシュルツは、剣をちょい振ってレナルアンを促しかけ…止めて、下げた。

シェイルはレナルアンを見上げる。
「家族…の為に?」

レナルアンは頷く。
「ねーちゃんや妹らには、マトモな結婚して欲しいからマネさせられない。
兄貴と俺と、二つ下の弟で、しょっ中金持ち女や男、カモにしてた」

シェイルは呆けて、レナルアンを見た。
レナルアンは見つめられて、肩竦める。
「別に、どってコトないぜ?
男じゃ、妊娠しないし。
農夫の手伝いより、労働全然楽だし。
…それにヘタすりゃ粘着質のモテない金持ち女より、粋で金払いいい男の方が、いい時もあるぐらいだし」
言って、レナルアンは華奢で生活力無さそうで、妖精のようなシェイルを見下ろし、告げる。
「…お前のにーちゃん、お前がそんだけ生きる気力とぼしけりゃ、苦労したろうな」

シェイルは一気に顔下げる。
「…分かる?やっぱ…」

シュルツが見てると、レナルアンは頷く。
「…ラナーンが苦手なら、近寄るな。
あいつ、グーデン専用になってから、かなりキツい思いしてっから。
目の前のコトにしか反応出来なくなって、突然泣き出したり、怒り出したり、威張り出したりで、支離滅裂しりめつれつ
シャクナッセルさんが、無理無いってさ。
あ、そっちじゃない?
親友のヤッケル取られたみたいで、ける?」

シェイルは俯いたまま、首を横に振る。
「…じゃなくて…僕虐めてストレス解消しようとしたのに…。
結局僕、毎回ヤッケルに庇われて…。
ラナーン、ますますイラついてたんだよね…」

レナルアンが小声でそう呟くシェイルの顔を、屈んで覗き込む。
「ラナーンに、ムカついてナイのか?」

「…だって僕…も、グーデンがどんな酷い事するのか…分かってるし。
凄く、嫌だったし…。
僕の時は、ローフィスが助けてくれたけど、ラナーンは耐えるしか、無かったんだよね…」

シェイルの顔が、うんと下がるのを見て、レナルアンは大きなため息吐く。
「お前、他人のこと考えすぎ。
人の事ばっか気にしてたら、自分のしたいコト、思いっきり出来ないぜ?
一度くらい、虐められた仕返しに殴ってやればいいんだ」

シェイルがびっくりし、そう言うレナルアンを見上げた。

しかし周囲では、『教練キャゼ』一の美少年の、淡い銀の髪のシェイルと。
やはり外見だけは、際立つ美貌の赤毛のレナルアンが並ぶのを見て
「…目の保養だな」
「ああ。
ムサい野郎ばっかだもんな…」
「あそこだけ、後光が差してる」
「華やかだよな」
と、二人に見とれていた。

ギュンターがやって来ると
「…なんで剣、振らない?」
と尋ねた。

レナルアンはシェイルに首振って
「ちょい、俺が落ち込ませた」
と言い訳る。

ギュンターは壊れそうなくらい儚げで、可憐そのもののシェイルを見、ため息吐く。

けれど周囲はやっぱり
「…ギュンターまで来ると…」
「…なんかあそこだけ、世界違わなく無いか?」
「美々し過ぎ」
と囁き合った。

ギュンターはシェイルを見
「俺、学年無差別剣の練習試合に出てないから、実際は知らないが。
結構強いって聞いたぞ?」
と、話を振る。

シェイルは顔を上げ
「…ローフィスと…。
ローフィスが『教練キャゼ』に入学後は、ディングレーが剣を見てくれたから…。
…打ち合うのは得意です」
と小声で囁く。

「そうか。
ならレナルアンの相手してやれ。
真剣に振れよ!
じゃなきゃレナルアンは、自分の身が守れないし、近衛にも上がれない!」
ギュンターの言い切りに、レナルアンとシェイルは顔を見合わす。

剣下げて二人の会話聞いてたシュルツの前に、ギュンターは立つと、剣を持ち上げる。
「俺は正規の訓練受けてない。
お前、大貴族でちゃんと訓練、積んで来てるんだよな?」

シュルツは笑顔で剣を持ち上げる。
「あなた相手なら。
思いっきり振って、いいんですね?」
ギュンターはシュルツのヤル気に、美貌の表情は変えずそのまま。
しかし小声で呟く。
「…まあ…大抵の危険は避けられる」

シュルツは思いっきり振り被ると、一気にギュンターに剣を、叩き込んだ。
カンッ!

ギュンターが泡食って、早い剣を弾く。
「…振り上げてから俺に届くの、早いな!」

けれど直ぐ飛ぶシュルツの剣に、再び剣当て、弾く。
弾かれ直ぐ手元に戻した途端、剣をギュンターに振り入れながら、シュルツは叫ぶ。
「…ディングレー殿なんて、もっと早くて変則的ですよ?!」

突然突かれ、ギュンターは
「そうか…」
と呟きながら、後ろにすっ飛んだ。

シェイルはシュルツの剣を見、きっ!とした表情でレナルアンに振り向く。
「…俺も、お前が近衛に進めるよう、頑張る!」
と言って、レナルアンに剣を振った。

「おっ…と!」
レナルアンは瞬時に、首を薙ぎ払う剣を、アタマ下げて避ける。
「…避けるだけ?!」
叫びながら剣振るシェイルに、今度は胴を横に薙ぎ払われ、レナルアンは後ろにすっ飛ぶ。
「…避ける・ダケなら得意だ!」
「剣振らなきゃ、意味ナイんだけど!」

肩から斜め下に振られる剣を、今度レナルアンは肩を後ろに下げ、避けた。
「だっ…さっきシュルツとしてたのは!
剣の握り方と、振り下ろし方の、全くの初心者向きだぜ?!」

「いいから!
剣で止めてみて!」

しゅっ!
「こ…こう?!あ、ムリ!」

剣を合わせかけ、間に合わず止められないと知るとレナルアンは剣握ったまま、後ろに転んで避けた。

カンッ!カンカンカンッ!!!

ギュンターとシュルツの激しい攻防。
シュルツの剣筋覚えたギュンターが、降って来るシュルツの剣を剣で、ことごとく止めていた。

レナルアンは転がり起きると、またシェイルの剣を、首竦めて避けながら叫ぶ。
「あれを俺に期待しても!!!
ムリだってば!!!」

スフォルツァはアスランが見惚れてるので、振る剣を止めた。
アスランはシュルツの鋭い剣を、瞬時に剣をブツけ止めるギュンターの格好良さに見惚れてた。
紫の瞳は獲物を捕らえたように鋭く、その動きはしなやかながら金髪を派手に散らし、激しい。

ガッツツ!!!
カンカンカンッ!!!

シュルツの的確で早い剣に剣を合わせ、次に肩下げてスカした後、ギュンターは一気にシュルツの胴を薙ぎ払う!

しゅっっ!!!

シュルツの猛攻は止み、一気に背後に、飛んで避ける。
下がる獲物を追うギュンターは、しなやかで獰猛な、野生の猛獣に見えた。

しゃっ!

腿近くに剣が飛び、シュルツはガチっ!と音鳴らし、剣で止めると一気に振り上げ、振り下ろす。
ギュンターは咄嗟横に首振ってその場を動かず避けると、今度は剣を突き刺した。

シュルツは懐に潜り込む剣を、上から叩き落とす!

カンッ!

一方、レナルアンは逃げ続け、シェイルは追い続けて、場内のうんと外れで追っかけっこを続けていた。

グーデン配下で二年のボス、ローズベルタが近くに来るレナルアンに、詰め寄ろうと近づくが、ローランデが一気に足音も立てず、正面に立ち塞ぐ。

ローズベルタは、ちっ!と舌鳴らし、ローランデを睨んだ。
が、背後から剣が飛び
「!!!」
振り向く途中で斬られると分かり、飛んで床に伏せた。

どっっっ!!!

ローズベルタは床に腹ばいに転がり、顔を上げて振り向くと、ディングレーが剣を下げて立つ姿を見る。

「さっさと立て!
…それとも、蹴られたいか?」

腹の底に響く、低い怒声でディングレーに怒鳴られ、ローズベルタは上体だけ起こし、躊躇ためらってると。
ディングレーは横に来て、足後ろに引く。

蹴られる瞬間、ローズベルタは横に転がり、避けた。
今度は上から剣で突き刺されそうになり、更に転がる。

「どこまで転がる?!
壁の行き止まりまで、付き合ってやるぞ!!!
…それともとっとと、起き上がるか?!
なら立つまで、待ってやる」

ローズベルタはしぶしぶ、床に手を付いて起き上がる。
が、直ぐ。
顔を横に薙ぎ払う剣が飛ぶ。
轟音立てた、早く凄まじい剣に全身身震いし、ローズベルタは思いっきり、首を下に下げ、決死で避けた。

直ぐ、腿に剣が飛ぶ。
足を引くのが一瞬遅れ、剣が腿を掠る。

今度は腹を突き刺す剣。
体を横向けるが、やはり腹の衣服を剣で抉られ、腹にも鋭い痛みが走った。

練習用の切れ味の悪い剣で、この威力。
ローズベルタは決死でディングレーの、自分を殺す剣を避け続けた。

講師は、やっと本来の鍛錬に戻る場内を見回し、幾度も頷きながら、満足の笑みを浮かべた。
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