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一・二年グーデン配下の不穏な動き

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 アイリスはスフォルツァとの間に、三人の美少年を挟み講義に出向いた。
乗馬の講義で、まだ怪我の完全に癒えてないアスランは、しぶしぶスフォルツァの前に座る。

二年との合同講義だったけど、二年の愛玩は誰も姿を見せていなかった。

スフォルツァは二年グーデン配下の筆頭、ローズベルタが馬上で、チラチラと前に乗るアスランを覗い見、自分を“邪魔者”と睨むのを見た。



一年取り巻き大貴族らとアイリスは補習の時同様、マレーとハウリィを真ん中に据えて前後左右に馬を配し、二人を護っていた。
が、ドラーケンとその手下が、何度も視線を向けるのに気づく。

その都度、アッサリアやディオネルデスは睨み付け、フィフィルースは脇差しに手を伸ばし、柄を握って見つめ返す。
“手を出したら、タダじゃおかない”と、無言の威圧をかけて。

ヤッケルが馬を寄せ、アイリスに話しかける。
「奴ら、隙覗ってるな…」
アイリスはヤッケルの言葉に、頷く。
「愛玩全員が、ホントにグーデンの元から、一斉に逃げ出したんですか?」

問われてヤッケルは、頷く。
「…それだってグーデンの元に、残っていられた者達だけだが。
グーデンが金払って雇ってた、去年の四年が乱暴に扱うわ。
なのに集団で犯しまくるわで。
俺が知ってるだけでも三人。
グーデンは愛玩にしたがってたのに、そいつらのせいで自ら退学した者達がいる。
噂では…陰でディアヴォロスが、自分の元に雇い入れると確約したので、『教練キャゼ』を去ったという説もある」

アイリスは目を見開く。
「…いいな…。
私もディアヴォロス殿がいらっしゃった時、在籍したかったです。
すっごーーーーく、いい男なんですよね?
私がお会いしたのは、かなり前の大公家の舞踏会で。
まだ、お若くていらっしゃったけど…とても素敵でした❦」

ヤッケルは、女の子のように頬染めるアイリスを、ジト目で見つめる。
「…ミーハーだな…」
アイリスはそれを聞き、ふくれっ面で言い返す。
「ディアヴォロス様相手じゃ、誰でもそうなりますよ」

ヤッケルは顔を下げると、呟く。
「俺の言った事、聞いてた?」
「グーデンが愛玩にと、目を付けた美少年三人に、逃げられた話ですよね?
去年の四年って、そんな最悪なんですか?」

ヤッケルは頷く。
「オーガスタス並の身長と体格の、熊みたいなドナルドだろ?
銀髪の超男好きで、泣かすのが大好きなサドのアルシャノン。
それに金髪で顔にキズのある、狂犬みたいなシャンク。
この三人は、ガタイがデカい。
あと一人は黒髪の美形で小柄だが、やっぱサドのザッダン。
機転の利く、参謀役ってとこかな?
迫ってきた男のアソコ、咥える振りして食いちぎったとの、物騒な噂がある。
他の三人は脳味噌あんま使わず、暴れまくるタイプだから」

アイリスはザッダンの話を聞くと、顔下げる。
「…やっぱ不本意な男に迫られたら、そうなりますよね。
私は流石に咥える前に、蹴り倒して潰しますが」

ヤッケルは、目を見開きしばしの沈黙後、尋ねた。
「ナニを、ツブすんだ?」
アイリスはヤッケルの股間を見て言う。
「貴方も、持ってるモノですよ。
男なら大抵、一つは持ってますね」

ヤッケルは目を見開いたまま、固まって問うた。
「…それ、女顔の美形男に共通した意見か?」

アイリスは素直に頷くと、問い返す。
「ギュンター殿にも、聞いてみたら?
彼も若年の時絶対、幾度も男に迫られてますよ」

ヤッケルは、上品でたおやかなアイリスを見つめ、まだ目を見開いたまま呟いた。
「ギュンターが蹴るだろう事は、容易に想像付く」
アイリスはにこにこ笑うと
「ですよね」
と、同意した。

ヤッケルはやっぱり、通じていそうで言葉の通じてないアイリスを、思わず目を見開いたまま凝視した。


アスランは起伏の激しい土地を駆け抜ける様を見、スフォルツァの前で青ざめる。
「…こんな…ところ、絶対僕、落ちずに馬に乗ってる自信、ありません」

スフォルツァはアスランの泣き言を聞いて、ため息吐いた。
「(…グーデン配下が愛玩不足で、改めてアスランに狙いを付けてるみたいなのに。
心配事はそっちか…)」

けれどグーデンに、無残に扱われる事を想像した途端、スフォルツァは自分でも意外なほど…アスランを絶対そんな目には、合わせまいと覚悟決めてる自身に気づく。

振り向くと、マレーとハウリィを両脇で取り囲む大貴族らも、彼らに笑顔を向けながら…側にピタリと馬を並べ、離れない…。

前の方では二年のグーデン配下、冷酷で乱暴者の美形ローズベルタを、ローランデが隣に付いて見張っていた。

ローズベルタは何とかローランデを振り切ろうとするが、ローランデはさせず、どこまでもぴったり付いて、併走する。

他のグーデン配下達は、この中では事実上のトップ、ローズベルタが見張られて迂闊に動けず、更に美少年三人のガードが固いのを見て、ちっ!と舌打ちし、離れて行った。

フィンスとシュルツは、馬を寄せると小声で話し出す。
「三年のセシャルとシャクナッセルは、講義に出てるらしい」
シュルツの言葉に、フィンスも頷く。
「今日は来てないからいいけど。
ラナーン、レナルアン、ミーシャの三人が講義に出始めたら…護るのは大変そうだね…」
シュルツもその言葉に、頷く。
「まあ…いざ出るとなったら。
護るしかないが」

フィンスもシュルツのその決意に、同意して頷いた。


 オーガスタスはギュンターの
「腹減った…」
と呻く声を聞く。
まだ半分眠った頭で反射的に
「ディングレーかその召使いに、食い物くれと頼め」
と言葉を返し、ギュンター方向から背を向けて背もたれの方に顔を向け、クッション抱えて二度寝に入った。

間もなく、いい匂いがし、ギュンターのガツガツガツ…と、食べ物を掻き込む音に、とうとうむくっ!と起き上がると、長椅子で食べてるギュンターに皿を差し出し、給仕してる召使いに尋ねる。
「今、何時だ?」

召使いは微笑むと
「後少しで12点鐘です」
と答えた。

オーガスタスは額に手を当て、暫し黙り込んだ後。
顔を上げて再度尋ねた。
「ローフィスは別の部屋に居るのか?
それとも…」
召使いは頷くと
「ディングレー様の寝室にいらっしゃいます」
と答え、ギュンターが空にした皿を持って、一礼した後下がる。

ギュンターは手づかみで鳥のもも肉を噛み千切っていたが、オーガスタスが固まったままなので、目を見開いた後、ぼそり…と告げる。

「まさか昨夜、ヤってないよな?」

ギュンターはオーガスタスを見る。
が、オーガスタスは額に手を当てたまま、頷くでも、首を横に振るでもなく、そのままなのでついギュンターは、再度尋ねた。
「…まさか…ディングレーが、突っ込まれる側?」

その時、突然扉が開くと、ディングレーがガウンの前をはだけ、呻く。
「ダレがダレに突っ込まれるって?」

「………………………………」

ギュンターがもも肉を手にしたまま、振り向くのでディングレーは目を見開く。
「…まだ…残ってるぞ?」

ギュンターは手に持つ、もも肉を見る。
上少しと下半分は、まるっと肉が付いていた。

「…だから?」
尋ねると、ディングレーは目を見開いたまま、呟く。
「…だってお前が食事途中で顔上げた試し、今まで一度も無いし。
召使いも、どれだけの量の料理を出しても、食べ残しを一切出さない食いっぷりは、気持ちが良いほどだと。
褒めていた」

ギュンターはそう言う、ヨレた服装のディングレーを見た後。
自分の手に持つ鳥もも肉を見た。
そして、思い出したように食べ始める。

ディングレーが一人掛け用ソファに座るのを見て、オーガスタスは顔下げたまま、ぼそりと言う。
「…お前がローフィスに突っ込まれたのかと、聞かれてたんだ」

ディングレーはテーブルの上の飲み残しのグラスに手を伸ばしかけ、ピタリ、と止まる。

「………………………どっから出るんだ?
その発想」

オーガスタスは俯いたまま髪をぼりぼり掻くと、口開く。
「お前らが寝室で二人きりだからなんじゃ無いのか?
俺が運べないのは分かる。
運べそうなローフィスとギュンターの二択で、ローフィスを取ったから。
ギュンターに勘ぐられるんだ」

ディングレーは納得して頷きながらグラスを持ち上げると、口に運びながら告げる。
「目が覚めて見る顔がギュンターだと。
寝起きに悪い」

オーガスタスはがっついてるギュンターを見やり、ぼやく。
「顔・ダケは美麗だから…目の保養になるぞ?」
ディングレーは眉しかめる。
「本気か?
どれだけ美形だろうが、性格知ってて…。
あんただったらその性格の方、綺麗に忘れてあいつに見とれられるのか?」

オーガスタスは髪揺らして首を振る。
「そんな器用な事、俺には無理だ」
「だろ?」
ディングレーは口に運んだ残り酒をようやく飲み込んだ。

ギュンターも水のグラスに手を伸ばして言う。
「同性のヤツに、顔が綺麗だと思われてると大抵、馬鹿にされてると感じる。
なんで、あんたらと居ると、居心地は良いが。
あんたらだと、性格の方を馬鹿にされてる気がするのは、なぜだ?」

「同性に呆れられる性格の俺ですら、お前には呆れ返る程、いい性格してるから」
オーガスタスがぼそりと言う、その言葉を聞き。

ギュンターだけで無く、ディングレーまでもが、オーガスタスを凝視した。
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