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シュルツの部屋に場を移し、ギュンターを巡るレナルアンとラナーン、ローランデの乱

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 フィンスはヤッケルが
「俺、ラナーンがシュルツの部屋に移ったって、ローランデに知らせてくる」
と、さっさと部屋を出て行くのを、無言で見つめた。

レナルアンはまだ胴に腕を回し、背後から抱いてるフィンスに、顔を傾けて見上げ、囁く。
「これ、すっごいいい感じ。
このまま…ちょっとシない?」

フィンスはさっきまで、ラナーンとギュンターを争ってたレナルアンのその発言に、暫し頭の中が真っ白になったのち
ぼそり…と囁く。
「…………思い出して欲しいんだけど。
私の以前言ったセリフ。
君とそーゆー関係になると…」

レナルアンは途端、がっかりして顔下げる。
「親父さんに、仕送り止められるんだっけ」

フィンスは頷いた後、耳元で囁く。
「…それにラナーンは、現在ギュンター独り占め状態だと思うんだけど…いいの?」

レナルアンは一瞬、そう呟くフィンスを見た後。
「ごめん!!!」
と叫び、胴に回されたフィンスの腕を振り払い、部屋からすっ飛んで出て行く。

フィンスはそれを見て、にっこり微笑むと、背後のソファにどっか!と腰掛けた。


ギュンターがシュルツの部屋を探し、並ぶ扉を見回していると。
ヤッケルが背後から通り過ぎ、二つ向こうの扉を開け、ギュンターに振り向く。

ギュンターはラナーンを抱き上げたまま、ヤッケルに頷き、開けてくれた扉を潜る。
シュルツの部屋は、緑が基調のフィンスの部屋と違って、茶が基調。
洗練された重厚感も洒落た雰囲気も無く、家具も荒削りな木彫りで、どこか素朴で親しみ易かった。

けれど所々に隠れたように配された、古い壺や小物入れは大変手が込んでいて、彼が古い名家の大貴族だと物語っていた。

シュルツは入って来るギュンターを見つめ、左側の扉を開けて
「こちらです」
と導く。

開けられた扉を潜ると、天蓋付きの寝台があった。
が、寝台も荒削りな木彫り、天蓋の布も落ち着いた黄土色で、飾りも少ない。
クッションも農婦の手作りのような、素朴さ。

けれど居心地良さげな、暖かな雰囲気があった。

扉の横に避けたシュルツは、入って来るギュンターとラナーンに
「グーデンの私室と比べたら、うんと質素だと思うけど」
と、少し恐縮したように笑う。

ギュンターは大貴族の敷居を感じさせない、寝心地の良さそうな寝台に、ラナーンを下ろす。
ラナーンはふんわりした布団に横たわると、室内を見回し
「…凄く、感じいい」
そう、ぼそり…と告げた。

シュルツは笑顔で入って来ると、ゴツい黒の、陶器のコップを手渡す。
「…薬草入り。
元気が出る」

ラナーンはシュルツを見上げると、コップを受け取り、こくん。と喉鳴らして飲み込んだ。
「…ハチミツ入り?」
ラナーンに聞かれ、シュルツは笑顔で頷く。

ギュンターは補習で、知ってると思ったシュルツの人柄を改めて知らされた気がして、彼を見つめ直す。
明るい栗毛の、無造作に跳ね、胸まである長さの髪。
誠実に輝く、明るいブルーの瞳。
朴訥ぼくとつで素朴。
けれど隠れた品性と、確かな信頼感を持っている。

突然扉が開き、レナルアンが飛び込んで来るのを見、ギュンターとシュルツは目を見開く。
直ぐその背後から、ヤッケルとローランデまでもが入って来た。

ラナーンはレナルアンの姿を見るなり、陶器のコップをサイドテーブルに置き、横に立つギュンターの腕を掴んで自分に引き寄せる。

ギュンターは突然下に引っ張られ、腰を屈めつつもレナルアンと、その背後。
艶やかな明るい栗毛に濃い栗毛の筋の混ざる、エンジェルヘアの貴公子、ローランデに視線が吸い付いた。

こっちにやって来る、手前のレナルアンは明らかに…際立つ美少年。
けれどローランデの侵しがたい気品と存在感は、卓越たくえつしていて。

まるで天上人のように、目に映った。

レナルアンは咄嗟、背後のローランデに振り向き、ヤッケルもほぼ並んで部屋に駆け込む、隣のローランデに視線を送る。

ローランデはいきなり、レナルアンとヤッケルの視線を浴び
「?」
だったけど。
その向こうでギュンターが真っ直ぐ、自分を見つめてるのに気づくと、納得した。

歩を止め、微笑んで尋ねる。
「顔がどこか、変ですか?」

ラナーンは最初、レナルアンを睨み付けてたけど。
その後、レナルアンがギュンターと背後のローランデを、交互に首振って見つめるのを見。
標的をローランデに変え、睨み付けた。

レナルアンは直ぐ気づいたし、ヤッケルも、まさか…と、まだローランデを凝視してるギュンターに、視線を送る。

ギュンターが黙ったままなので、ローランデは困ったように、顔を傾けた。
レナルアンは気品が雫となって、周囲に零れ落ちてるみたいなローランデに振り向くと、怒鳴りつける。

「そりゃ、よくよく見たら、俺と並んでも同じ位の美少年と言われてるシェイルが特別なのは!
肉感的な俺と違って、人間離れした雰囲気まとってて!
そのシェイルと並んでも負けないほど、人間離れした独特の雰囲気なのが、あんたローランデなんだから!」

そして、ギュンターに振り向く。
「あんたが俺素通りして、ローランデに惹かれるのは分かる!!!
だけどローランデは絶対!!!
あんたに、落ちないぜ?!!!!」

ローランデはそれを聞いて首捻りまくり
「…どう考えても、ここには落差が無いから。
私はギュンターに、落ちようが無いと思うけど…?」

そして、横のヤッケルに振り向くと
「ギュンターだって、私に落ちて来ないよね?」
と聞く。

ヤッケルはローランデのその天然ボケに、笑っていいものかどうか真剣困り、ひきつり顔で、無理して笑って誤魔化した。

けどローランデに、まじっ…と見つめられ。
思わず少し背の高いローランデを見上げる。

ローランデの、まるで人外のような澄んだ青の瞳は
『会話が、まるで通じてないみたいなんだけど…』
と困惑の色を浮かべ、通訳を求められ。
ヤッケルは困ってギュンターで無く、答えが返ってきそうな、レナルアンに尋ねた。

「…ギュンターって…。
もしかしてローランデに見惚れて、固まってると思う?」

レナルアンがその問いに大きく頷いたのと、ラナーンがギュンターの腕を思いっきり自分に引き寄せたのは、ほぼ同時だった。

ギュンターはもっと下に引っ張られ、がくん!と肩を下げ、ローランデはそう告げたレナルアンに視線を向ける。

「…見惚れてる?
………まさか」
そう言って、ローランデは微笑む。

レナルアンはローランデから視線外すと
「言ってろ!」
と悔し紛れに顔背け…けれど背後のローランデに視線戻すと
「ラナーンには楽勝で勝てるけど。
テク無しどころか男との経験、まるで無いあんたに。
勝てる気がしないのは正直言って、悔しい」
と言い捨てた。

ヤッケルが見てると、ローランデは黙り込んで俯く。
のでやっぱり、ローランデには意味が、全然分かってないんだと悟った。

ローランデはヤッケルに、困り果てた顔を向ける。
「どうして同じ言語げんごを話してるはずなのに。
意味が、通じて無いんだろう?」

ヤッケルは表情には一応、同情の色を浮かべたけど。
素っ気無く、言い返す。
「二人は別の世界に、住んでるから」

ローランデは周囲を見回す。
それでヤッケルは、言葉を足した。
「肉体で無く、精神が」

ローランデはそこでようやく
「…ああ」
と納得の微笑を浮かべた。

場の雰囲気に置いてけぼりにされたシュルツは、扉の手前で会話についていけず、顔を下げて横に振りまくった。
そしてギュンターに、上目遣いで視線を送り、こそっ…と尋ねる。

「一番の当事者ですよね?
何か、言う事は?」

ギュンターはレナルアンとラナーンに凝視されてる中、俯いてちょっと考え込むような表情の後
「俺の口挟む間もなく、勝手に会話が進行してるのに。
俺に、ナニ言えって?」
と言い返す。

ヤッケルは、ごもっとも。
と頷き、シュルツも無言で、顔下げた。
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