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ギュンターがローランデに恋愛してないか、懸念するディングレー

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 マレーが扉を開けた時。
アスランは寝台に乗って衣服をはだけ、ハウリィに痛み止めの薬草湿布を脇腹に貼って貰っていたけど、振り向いて慌ててシャツを羽織り、寝台を飛び降りては痛みに顔をしかめ、転びそうになりながらも踏みとどまり、駆け寄ってマレーに抱きついて叫んだ。

「お帰り!」

ハウリィも横にやって来ると、抱きつくアスランの横で、ほっとした表情で笑う。
「…良かった…。
元気そう」

マレーはきつく抱きつくアスランを抱き返し、泣きながら頷く。
けれど声が出ず…。
しばらくアスランの、温かい体を抱きしめ続けた。

やっと落ち着くと、アスランに導かれるまま、崩れ落ちるように長椅子に腰かける。
両脇から、静かに泣いてるマレーを、アスランもハウリィも優しく見つめる。

マレーはやっと落ち着いて、首を両脇に座るアスランとハウリィに振り、涙を拭って掠れた声で囁く。
「…逮捕…された…。
義母と…僕…を…酷い目に合わせた男…」

ハウリィは、うん、うん、と頷きながらもらい泣きし、アスランは囁く。
「…お父さんは?」

マレーはまた、涙を頬に滴らせて囁く。
「ぼく…を…見捨てたんじゃなかっ…。
義母に盛られた…薬…と…。
アルコールで…中毒みたいに…なっ…て…て…」

アスランが、一瞬で眉をしかめて叫ぶ。
「薬盛ったの?!
薬で言いなりにさせてたの?!
酷すぎる!!!」

マレーは頷く。
「…その罪で…義母は逮捕…されて……」
ハウリィはもう、涙で頬を濡らし
「良かった…良かった」
と頷くもんだから、マレーも泣いてたけど、横で一緒に泣いてくれるハウリィを抱き寄せ、怒ってるアスランをももう片腕で抱き寄せ…。
そして、囁いた。

「心配…してくれて、ありが…と…」

アスランはそれを聞くなり、怒ってた顔を一気に泣き顔に変えて瞳を潤ませた。
「だってマレー…一番大人で…。
辛いのに、何でも無いように…我慢して…。
同い年なのに…」

アスランの言葉で、とうとうマレーは涙を次から次々と頬に零し、三人は暫く、一緒に泣き続けた。

「失礼し…」
ノックした後、ワゴンを押して部屋を開けた召使いは、長椅子で固まって抱き合いながら、泣いてる三人の姿を見
「ここに置きます。
冷めない内に…お召し上がり下さい」
と小声で囁き、扉を閉めた。


一方。
ディングレーの豪華な居間では、召使いが
「食事の用意が出来ました」
と告げ、ディングレーは室内を見回す。

「…四人分…?」

聞くと召使いは頷くので、ディングレーは確認取った。
「…ギュンターが、居るんだが…」

召使いは、尚も頷く。
「ギュンター様の椅子の後ろに、大盛り料理の皿の乗ったワゴンを、待機させました」

ギュンターはそれを聞くと
「悪いな」
と言って、さっさと席を立つ。

居間に続く小ぶりの食堂(それでも豪華)に、勝手が分かってる様子で入り、料理の乗ったワゴンが椅子の後ろに置かれた椅子に、さっさと腰掛ける。

ディングレーは食堂の扉前で
「…ローランデには、惚れて無いよな?な?」
と、小声で尋ねる。

が、ギュンターがいつも道理がっつき始め、ディングレーはため息交じりに顔を下げると、背後からオーガスタスとローフィスがやって来るのを見、二人に
「…あれは、冗談だよな?」
と聞き、ローフィスに
「そう願う」
と言われ、オーガスタスにも
「冗談なら良いな」
と言われ、首をがっくり、下げた。

がつがつがつがつがつ…。

オーガスタスもローフィスも、ディングレーすら不穏な空気を感じ、ギュンターの食べっぷりを見つめつつ、味があんまり分からない食事をする中。

ギュンターの快進撃は続き、ワゴンの皿が、一つ…また一つと空になる。

「…いつ見ても、五年くらい食ってないような食いっぷりだ…」
ディングレーは呟きながら、ナプキンで口元を拭き、テーブルの上に置く。

オーガスタスもローフィスも、時間差で食後酒を持ち上げ、飲み干した後。
ギュンターがやっと、空の最後の皿をワゴンに戻し、顔を上げる。

ワゴンを下げに来た召使いに、ギュンターが
「馳走になった。
いつ食っても、最高に美味い」
と告げるので、召使いはにっこり笑い
「コックに伝えます。
とても、喜ぶでしょうから」
と言い、ディングレーに
「…ナニか?
俺だと、喜んでナイのか?」
と聞かれ、召使いは真顔に戻ると
「ご主人様は、テーブル料理より、まかないを喜ばれるので。
コックは趣向を凝らしテーブル料理を作る意義を、いつも懸念しております」
と言うので、ディングレーは思いっきり顔を下げた。

「…俺だって“王族の体面保て”と叱咤する者が居なければ。
ギュンターみたいに手づかみで、がっつくさ!」
と文句垂れると
「でも、王族でいらっしゃるので。
身分相応、上品に。
テーブル料理を楽しんで頂けると、幸いでしょう」
と、召使いに言い返された。

ディングレーはその時、ディアヴォロスは勿論。
嫌味な従兄弟のアドラフレンですら、食後は必ずコックに礼を伝えるよう、召使いに言伝ことづてるのを思い出した。

「…配慮が欠けてて、悪かったな」
「…でもまかないが、一番お好きなんでしょう?」
「…まぁな。
気遣わなくて済むし。
気取らず食べられる」
「そういう御方だと、コックも納得してますから。
まかないを頼まれると、大変喜びます」

ディングレーはそれを聞き、小声で尋ねる。
「…やっぱり出した料理を、美味そうに食って貰えるのが、コックの醍醐味か?」
召使いは囁く。
「…料理をされた事は?」
ディングレーは即答した。
「ナイ」

オーガスタスとローフィスが見てると、召使いは
“で、しょうね…”
とため息吐き
「ではコックの気持ちは、分からないと思います」
と言い、ディングレーは素直に
「…そうか」
と項垂れる。

オーガスタスもローフィスも、このやりとりに吹き出しそうになった。
が、ディングレーの手前、耐えた。

どう見ても、召使いはそんな不器用な主人を
“可愛い”と思ってる様子が、見て取れた。

が、一生懸命王族たろうと努力してるから、威厳を損なわないよう本心を控えてる。

けれどディングレーは、ギュンターがナプキンで手と口元を拭ってるのを見、立ち直って勢い込み、尋ねる。
「…どうして、ローランデに惚れた?!!!!」

が、ギュンターは問われた途端、ナプキンをテーブルに置いたまま、固まる。

ディングレーはギュンターを、じっ…と見、ギュンターは暫く固まると
「…惚れてるのかどうか、よく分からないが、意識してるのは確かだ」
と言って退けた。

オーガスタスとローフィスは隣同士に座ってたけど、互いから、顔を背けるように俯く。

ディングレーは察しが悪いので、そのまま尋ねる。
「どう、意識してる?」

ギュンターは王族から同輩になり下がってる、ディングレーを見つめ返すと、口開く。
「ローランデを見ると、光ってて温かく、彼を意識した途端、俺はブリザードの中に居る」

「?????
…さっぱり分からん」

が、ギュンターは頷くと
「俺にもさっぱりだから、他人のアンタはもっと分からなくて、当然だ」
とつぶやく。

それを聞いた途端、ディングレーは背を反らせ
「それを聞いて、ほっとした」
と言い、オーガスタスとローフィスはもっと深く、俯いた。

オーガスタスが、ぼそり…と囁く。
「ブリザードって…吹雪って事か?」

ギュンターは、頷く。
「実際居るんじゃ無く、心の中に」

オーガスタスが躊躇いながら口を開こうとした時。
ギュンターが俯いて囁く。
「…以前リーラスに…あたんは孤児だと…。
その時、俺と同じだと…。
経緯が同じとは言わないが、ずっと他人の中に居たんだろう?
親切な人も居た。
が、肉親とは違う。
…父親に偶然、旅の途中出会った時。
俺は初めて、肉親がどういうものか、理解出来た。
…話さなくても…口調や態度、考え方が…似てる。
一緒に暮らしてないのに。
肉親だと、相手が理解出来る」

オーガスタスとローフィスは、顔を見合わせる。
ローフィスが、そっと囁いた。
「つまりそれまで…肉親がどういう存在か。
知らなかったのか?」

ギュンターは頷く。
「だから…正式には従兄弟の兄達と、養母の母との仲に…入っていけない自分を、いつも感じてた。
理屈を…超えてるよな?肉親って」

ディングレーだけは、いかつい顔の父親を思い返し、首捻ってる。
接触時間は短い。
が、いつも必要な召使いを配し、彼らを通じて、細やかな世話を心がけてるのは確か。
会うと、いつも厳しい事を言われる。
が、愛情表現は不器用だが…確かに愛情を、感じてはいた。

つい顔を上げ
「つまり肉親の愛情を…知らずに居たと言う事か?」
と問う。

ギュンターは投げやりにつぶやく。
「元々知らないのに、知らずに居たと、気づくはずも無い…。
だが、ローランデを見ると…なぜかその事に、突然気づかされるんだ」

ディングレーは素で聞く。
「なんで?」

ギュンターは、項垂れて首を横に振る。
「…だが気づかされた途端…なぜかローランデだけが、やたらきらきら温かく感じる」

ディングレーはギュンターを見つめ、直ぐ感想を口にした。
「父親か母親が昔作った、実はローランデは隠し子で。
…血が繋がってるとか?」

ギュンターは首を横に振る。
「母は15で俺を産んだ。
その前に男は居ないし、俺が産まれて直ぐ亡くなって…子供は俺しかいない。
長年所在の分からなかった父の方は…あるかもだが…。
そうすると、シェンダー・ラーデン北領地大公は、妻の浮気した相手の子を息子として育て、後継者にしてる事になる」

それを聞いて、オーガスタスとローフィスは目を見開く。
「…つまり、異母兄弟かもと…言ってるのか?」

ローフィスに聞かれ、ギュンターは首を横に振る。
「ディングレー説なら…そうだ」

ローフィスとオーガスタスは、また顔を見合わし、ローフィスが言った。
「ディアヴォロスに頼んで、それが事実か探って貰う」
オーガスタスは頷く。
シェンダー・ラーデン北領地大公には悪いが…。
ディングレー説を、俺は歓迎する」

ローフィスも頷く。
「ローランデに惚れた。
なんて聞かされるより、数倍マシだな」

ギュンターは目を見開いて二人を見
「なんでそこまで“ローランデに惚れた”は、不都合だ?」
と素で尋ねる。

オーガスタスとローフィスは
“もう説明したくない”
と言うように、顔を下げ、ディングレーが二人に代わって
「ローランデは神聖視されてる上、大公子息と身分も高く、崇拝者だらけだから、どれだけローランデに焦がれてる男好きでも、涙を呑んで諦める相手だ」
と、説明した。

「…つまり、誰も彼を恋愛対象にしないから。
“するな”と?」

オーガスタスが、とうとう口出す。
「ローランデは後継者を残すためと、真っ直ぐ育てられてるから、恋愛対象は女。
…男には、絶対振り向かない。
その相手を、どうやって自分に惚れさせられる?
不可能だろう?」

ギュンターは
『不可能』
と言われ、少し顔を俯けた。
が、まだ顔を上げる。

それを見てオーガスタスは、きっぱり言い切った。
「無理だ。
手込めならやれるかもだが。
そんなコトしたらローランデの信奉者に、袋叩きか闇討ちで殺されるぞ。
…これは、冗談じゃ無い。
奴ら、本気でやる。
もしローランデに、惚れて欲しいと思っても。
ローランデは男を恋愛対象にしないから、絶対あり得ない」

ギュンターはピシャリと言い切られ、顔を下げた。

ディングレーだけが、かろうじて微笑むと
「無いな?心配事は?」

と、年上のオーガスタスとローフィスを交互に見る。

が、二人は俯いて、顔を上げなかった。
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