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ギュンターと四年達の、不本意な午後

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 間もなく腹ペコのギュンターが食べ物を口に掻き込み始めると。
最初にローフィスが、無言で自分の皿をギュンターに差し出し、新たに自分用の皿を取りに行く。
自分の皿をあっという間に空にし、ローフィスの皿の料理にかぶり付くギュンターを見た時。
今度はオーガスタスが自分の皿をギュンターの方へと押し出し、料理の乗った皿を手に、戻って来るローフィスと入れ替わり、自分用の皿を取りに行く。

持って来た皿をテーブルに置き、腰掛けたローフィスが食べ始めて間もなく。
ギュンターがオーガスタスの差し出した皿に手を付けるのを見て、リーラスもため息吐き、自分の皿をギュンターへと押し出すと、自分の分を取りに席を立つ。

夢中で食べ、周囲の声も聞こえてないようなギュンターを見、ローフィスが囁く。
「また、食って直ぐ気絶するんじゃないのか?」
オーガスタスが、ため息交じりに告げる。
「あれは気絶じゃ無く、寝たんだ」
リーラスが頷きながら
「寝る方に1ロッドル賭ける」
と言うと、ローフィスが
「じゃ俺はナットのハム一塊、寝ない方に」
と賭けに応え、二人は同時にオーガスタスを見る。

二人の視線を受けたオーガスタスは、おもむろに
「賭ける物が無い上、俺にはどっちに転がるかも判断付かない。
それより今日、マレーの実家に出向くって?」
とローフィスに問う。

ローフィスは頷く。
「午後の二点鐘に馬車に乗る。
だから…ここが終わらなかったら、バックレる」
「それしか無いよな」
オーガスタスが頷いて言うと、リーラスも腕組む。
「ギュンター身代わりに残しとけば、問題ないんじゃ無いか?」

オーガスタスが、アタマ抱える。
「…ギュンターが三年って、お前忘れてないか?
三年の講義で、ギュンターはサボってる事になってるんだぞ?」
リーラスは呆れた。
「書庫移動の監督講師、とっくに気づいてるのに人手逃がしたくなくて、見て見ぬ振りだぜ?」

ローフィスはふとギュンターに言うことを思い出し、ギュンターを見るものの、ギュンターは脇目も振らず、がっついてる。

ローフィスが口開こうとした時。
講師が横にやって来ると
「たんと、食わせてやれ。
合同補習になったら解放しろ。
俺の方から、三年の講師にギュンターがこっちを手伝ってると。
話を通しておく」
と告げて去って行った。

それを聞いたリーラスは、声を落とし、尋ねる。
「何人、バックレたんだ?」
オーガスタスは肩すくめる。
「グーデン一派は、誰一人居ないし。
荒くれ者のアラソン一派もとっくに、逃げてる」

リーラスは呆れた。
「10人以上、足りないのか?」

ローフィスはやっと、飲み物に手を伸ばすギュンターに、言いたい言葉を放った。
「昨日お前のとこに押しかけて来て、酒場で待ってた六人の美女。
ディングレーが偽名使い、お忍びで酒場に行って、お前に代わって満足させたが。
お前に恨まれないか、心配してた」

ギュンターはまた、皿から肉を手づかみし、口に放り込もうとして、顔上げる。
「…俺の代理してくれたのか?
悪かったな。
王族に、尻拭いなんてさせて」
と言い、直ぐ食事に戻る。

ローフィスは呆れたが、オーガスタスはくっくっくっ…と肩揺らし笑いながら
「…ディングレーと、気が合うはずだ」
と言って退けた。

「そろそろ作業に戻るぞ!!!
皿は重ねて置け!」
講師のかけ声に、皆うんざりしながら立ち上がる。

ギュンターは満腹の腹を抱え、椅子に座っていたが、オーガスタスに腕をつかまれ
「講師の言ってた事。
聞こえてたか?」
と問う。
ギュンターが、その美貌の無表情を向けると、オーガスタスは短いため息吐いた。
「…聞いてないな」

ローフィスが頷くと、無表情のギュンターに説明した。
「三年の講師に、こっちを手伝ってると、言ってくれるそうだ」

ギュンターはそこでようやく、眉しかめる。
「…ってコトは、午後は…」

リーラスは、立ち上がると笑った。
「良かったな!
三年の講義は、講師のお墨付きでサボれるぞ!」

ギュンターはオーガスタスに掴まれた腕引っ張って立たされながら、ぼやく。
「…講義の方が、マシだ」
オーガスタスは頷いたものの、言い捨てる。
「こっちは食った物、全部消化できるぞ?」
ローフィスも、立ち上がったギュンターの、もう片腕引いて言った。
「それに人の、役にも立てる」

ギュンターは有無を言わせぬ四年達のやり用に、意を凄く唱えたかったが、諦めた。
「(…まるで実家の、俺の兄貴みたいなやり口だ…。
…まだ、拳やナイフや剣が飛ばないだけ、マシか…)」
と項垂れた。

そしてテーブルの上の、空になった四つの皿をチラと見
「(…それに『教練キャゼ』は、腹一杯食えるしな)」
と、食べたいだけ食べられる、幸福感を噛みしめた。

暫く後、やっと運び込む作業は終わり、後は本棚に詰めるだけと成り、ギュンターは種別班から本を受け取りつつ
「それはB-3」
と言われ、b列の三番目へと持って行く。

棚の最上部に本を収める役はオーガスタスで、オーガスタスに手渡すと、オーガスタスがその本を、手を伸ばし本棚に収める。

ギュンターも手を伸ばしてみたが、ギリで届かない。
「…何食ったら、そんなに伸びる?」
オーガスタスは横で伸ばした腕を下げてる、ギュンターを見下ろし、答える。
「遺伝じゃないか?
親父も…一際高かった」

ギュンターはそれを聞いた途端、旅の途中出会った、顔がそっくりな親父を思い浮かべた。
当時、かなりの長身だとは感じたが、出会ったのは…14当時。

オーガスタスを改めて見るが
「遺伝なら…お前ほど、高く成れそうに無いな…」
と項垂れた。

二点鐘が近づくと、ローフィスはそっ…と室内から抜け出す。
ギュンターは気づくと、また本をオーガスタスに運び、尋ねた。
「…マレーの実家に行くって…言ってなかったか?」
オーガスタスは頷く。
「アイリスの実家の大公家が手を回し、マレーの親父から領地と屋敷取り上げ、今やマレーが主だから、凱旋がいせんついでに…マレー追い出した、義母とその連れの男を逮捕する手筈だ」

ギュンターは頷くと
「見物だな」
と呟いた。
ギュンターはその時、ふ…と今朝見た夢を思い出し、オーガスタスにも同様の経験があるかどうかを問おうと口開いた時。

リーラスが積まれた本に足を取られ、派手にすっ転ぶ。

どさっっっ!!!

リーラスは大量に本蹴散らし、尻と両手床に付いて呻く。
「さっきこんなとこに、本無かったぞ!!!」
けどそこに置いたヤツは
「前ぐらい、見て歩けば、散らす事も無い!!!」
と怒鳴り、他の種分けしてた二人も、殺気だって怒鳴る。
「折角、分けといたのに!!!」
「全部、混ざったじゃ無いか!!!」

リーラスが拳握り、種分け班の三人も拳握る。

ギュンター横のオーガスタスが、大音量で怒鳴りつける。
「とめぇら、ここで暴れやがったら、俺がぶっ殺すぞ!!!
さっさと終わらせるんだ!!!
無駄な体力、使うな!!!」

ギュンターは本気で吠えるオーガスタスの迫力に、目を見開き。
結構ざわついてた室内は、一気に静まり返る。

リーラスと種分け班三人は、振ろうとした拳を下ろすと、床に散らばる本をかき集め始めた。
「…ナニあんな、怒ってるんだ?」
リーラスがぼやくと、種分け班の、一人が言った。
「俺がお前殴って、本棚にお前が吹っ飛んだら。
次々に本棚が倒れ、もと木阿弥もくあみだからじゃないのか?」

リーラスは、ぶつぶつ言いながら本を拾う。
「俺が殴れば…あいつオーガスタスが本しまった本棚は、倒れないのに…」

けれど種分け班、三人は呆れた。
「三対一だ」
「俺はこいつがお前に殴られてる隙に、お前殴り倒す気、満々だった」
「俺は、足引っかけてやろうと思ってた」

言った後。
リーラス始め三人も顔を下げ、怒鳴ったオーガスタスの、気持ちが分かった。

「…ここでは、暴れるのは止めよう」
「…だな」
「俺も、倒れた本棚戻し、落ちた本全部、また本棚に戻す作業はしたくない」
「同感」

オーガスタスは講師に首振ってギュンターを示され、横に突っ立つギュンターに告げる。
「合同補習に、行っていいぞ」

ギュンターはオーガスタスを見上げた。
「…やっと、解放か…」
オーガスタスは背を向けるギュンターに、ぼやいた。
「俺達なんざ、二限目からずっとこの作業だ。
囚人になった気になるから、嬉しそうに出て行くな」

けれどギュンターは、振り向いて言った。
「補習が終わる、前に。
こっちが先に終わるんだろう?
俺の方が、大変だ」

けど扉を開けて、出て行こうとした時、リーラスに
「…俺と同じ、昼前に起きて遅刻しといて、よく言うぜ…」
と真実を暴かれ、ギュンターはオーガスタスに背を向けたまま、そそくさと書庫を後にした。
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