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ローフィスの部屋に集う面々に告げる、アイリスの衝撃的な報告内容

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 ディングレーは何とか窮地のローフィスを助け出したかった。
けれどローフィスより口下手な自分は、言葉での戦いは圧倒的不利で、どう頑張ってもこの状況を覆すのは無理。

つい、チラ…と下からオーガスタスを見上げる。

オーガスタスはディングレーから
“この気まずさを、何とかしろ”
と見られ、肩すくめる。
「だって珍しく失言したのは、ローフィスだろう?」

「ローフィスが失言?」
戸口からのその言葉に、室内の誰もが振り向く。

ギュンターが金の巻き毛を首に纏い付かせ、冴えた美貌の顔を出した。

けれどそのギュンターですら、室内にシェイルの姿を見つけ、一瞬で踏み出す歩を止め、顔を背け…。
そして平静を装って、室内へ入って来る。

ディングレーはそれを見て呟く。
「シェイルの毒舌が、胸に刺さったクチか」

ギュンターはディングレーの言葉を聞き
「…なんかあんたはいつも、突き刺さってる言い方だな」
そう、ぼそりと囁く。

ギュンターが見ると、ディングレーは無言で頷いてた。

シェイルはそんなディングレーを睨みながら
「…だって付き合い、長いし。
今更、俺の口からちゃらちゃらした言葉、聞きたい?」
と尋ね、ディングレーは俯いたまま、ぼやく。
「…俺にちゃらけた言葉、言えるのか?」

ギュンターもオーガスタスも、ローフィスも見てると。
シェイルは無言で首を横に振った後、ぼそりと
「無理」
と言った。

ローフィスは顔を下げ
「お前は、もう戻らないと。
遅くなると夜道、怖いんだろう?」
とシェイルに退室を促す。

シェイルは追加したギュンターを見
「…このメンバーでは、ギュンターより俺の方が古いのに…」
と、可愛らしくスネてる。

ローフィスの表面は一応、平静に見えた。
が、良く知るオーガスタスとディングレーは、内心惚れまくってるシェイルの可愛さに、実はオタつきまくってるローフィスをチラと見る。
見かねて、ディングレーが進み出る。
「俺が二年宿舎まで、送って行くから」

ディングレーに背を促され、シェイルは俯き…歩き出して戸口でローフィスに振り向く。

ローフィスはシェイルがしょげてるように見えて、微笑んで言った。
「また機会を見つけて、ゆっくり過ごすと約束するから」
シェイルはこくん。と頷き、聞き分けの良い犬のように退室して行く。

ギュンターは出て行くシェイルを見送り、オーガスタスに振り向く。
「…もしかして、ディングレーもローフィスも、シェイルには弱いのか?」
オーガスタスは頷く。
「ローフィスがな。
ディングレーは多分、いつも冷静で頼りになる兄貴分のローフィスですら、オタつくから。
もうどうしていいのか分からず、ローフィス以上にオタつきまくってる」

けれどその時、出て行った筈のシェイルが、突然戸口から顔出し、ギュンターに顔を向けていった。
「…ごめんなさい。
補習ではちゃんと、監督生って意識して敬語使うから」

ギュンターは目を見開く。
「…ディングレーには…タメ語で、俺には…敬語?
…逆だろう?」

けどディングレーも顔を出すと、説明する。
「シェイル、俺の事はデキの悪い兄貴みたいに思ってて、“王族”だなんて意識が無い」

ギュンターは目を見開いた後。
やっと、頷いた。

「…確かに俺も兄貴達には、大概たいがい口調が荒くなる」

ディングレーは頷き、シェイルはギュンターに微笑むと
「じゃ、また補習でね!」
と言って、二人は姿を消す。

オーガスタスはギュンターを見、ぼそり。と言った。
「人見知りのシェイルがあんな愛想良いって、珍しいぞ?」
ギュンターは
「?」
と顔をオーガスタスに向け
「…そうなのか?」
と聞いた。

ローフィスが、まだ立ってる二人に向けて解説した。
「補習でミシュランからお前に代わって、凄くグループの雰囲気が良くなったと。
喜んで報告に来てたんだ。
ギュンター、お前の評価、ウナギ登りだぜ?」

オーガスタスが、ギュンターに顔を向けて笑顔を披露しつつ、ローフィスの向かいの椅子の背を引いて、腰掛ける。
ギュンターも横に腰かけると、ぼそりと呟く。
「俺が普通なだけで、ミシュランのやり方が最悪だったんだ」

ローフィスが、頷いて告げる。
「それでもめちゃくちゃ喜んでる。
だがこれ以上お前褒めてると、気色悪くなってくるから話題変えるが。
グーデン一味がまた、動き出してるとなると…ヘタすると全面戦争だな」

「その前に、報告させて貰って、いいですか?」

またまた戸口からの声に、ローフィス、ギュンター、オーガスタスが振り向く。
そこにはアイリスが居て、息を切らし室内へ入って来るので。
ローフィスは思わず、目前のテーブルに置いてあった、自分の飲みかけの果実酒の入ったグラスを手渡すと。
アイリスは寄って来て受け取り、一気に飲み干してた。

「…何の、報告だ?」
オーガスタスが聞くと、アイリスはグラスを下げて言う。
「マレーの事です」
ローフィスは即座に言った。
「座れ」

アイリスは座った後、空のグラスを差し出し、笑う。
「すみませんが、もう一杯頂けます?」

ローフィスがオーガスタスの足元に顎をしゃくるので、オーガスタスは顔を下げ、足元に置かれた果実酒の瓶に気づき、持ち上げコルク栓を抜いて、アイリスのグラスに注いだ。

アイリスが三杯目を飲み干した頃。
シェイルを送って行ったディングレーが、戻って来る。

「ちょうどいい。
ディングレー、マレーの件で、アイリスが報告したいと」
ローフィスの言葉を聞き、ディングレーはローフィスとギュンターの間。
アイリスの向かいに腰掛けて頷く。

アイリスはやっと息切れが落ち着き、一同を見回し、計画の進行状況を告げた。


報告を一通り聞いた後、ローフィスはアイリスを見て囁く。
「…つまり実家の領地と屋敷の権利は。
マレーに移るんだな?」

けれどギュンターがぼやく。
「だがそれって…マレーが画策し、汚い手使って自分から取り上げたと。
父親は誤解しないのか?」

一同は、ギュンターを見る。

「…意外に、鋭いな」
オーガスタスが言うと、ローフィスも頷く。
「確かにあり得るな」

アイリスが、呆れる。
「父親から家と領地取り上げたヤツが、ちゃんと悪人演じますよ。
そしてマレーの学友の、私が。
偶然叔父からその話を聞きつけ、叔父エルベスに買い取りをねだったと。
その悪人役に言わせます。
…つまり、普通の値段より高く大公が買い取ったので、とても儲かったと」
ローフィスは呆れた。
「で、マレーにはお前の名を伏せて譲渡するのか?」
アイリスは頷く。
「父親には、マレーが誰から譲られたのか分かってるけど、マレーは聞いていない。
って流れですね」

皆、呆れてアイリスを見た。

「…つまり薬、盛られて正気無くしてたのか?
その親父」
ディングレーが聞くと、アイリスは頷く。
「けどマレーが“弟”にほぼ強姦されてた事実くらいは、認識出来たろうって…叔父は言うので。
壊れた家庭が、元に戻るかどうかは…」

ギュンターが、口出す。
「ともかく、その親父に母親の住所知らせて、家から追い出せば?」

四人が、そう言ったギュンターに振り向く。
がギュンターは気にもとめず、言葉を続ける。

「愛する妻に逃げられて壊れたんだろう?
妻を取り戻しに行くかどうかは、親父次第。
妻の方も、駆け落ち相手の初恋の男と、壊れかけてるんだろう?」

アイリスが頷く。
「なるほど。
では追い出された父親に尾行を付けて、逃げた母親と上手くいくよう、計らうように連絡入れます。
きっと伯母と母と祖母は、喜んで裏から手を回すと思います。
で、後妻が逃げ出した後、マレーは晴れて家長として実家に戻れますが…。
今週末にかなうかどうかは、まだ分かりません」

ディングレーもローフィスも、オーガスタスも頷いた。

ギュンターはちょっと呆れる。
「…女ってそういう策謀さくぼう、好きだよな?」

皆、そうぼやくギュンターを、一斉に見た。

オーガスタスが口開きかけたが。
ディングレーが先に言った。
「お前、そういう女に詳しいのか?」

ギュンターが肩すくめる。
「俺の屋敷は親戚だらけで。
伯母や姪もいっぱいいるからな。
誰と誰が思い合ってるけど、障害があってくっつけない。
となると…女達は一丸となって、その障害を取り除くべく計らい、二人の結婚式まで夢中になって世話してる。
俺を始め男達は、ナニが楽しくて女達が夢中になってるのか。
さっぱり訳が、分からないが。
でも上手く行くと女達の機嫌がたいそう良いんで、亭主連中は誰も口を挟まず、女達に協力してる」

「…なるほど」
ディングレーが顔下げてつぶやくが、オーガスタスが腕組みして言った。
「分かってないだろう?お前」

言われたディングレーは、顔下げたまま、頷いた。
けどギュンターまでも。
腕組みしてため息交じりに言う。
「俺を始め領地の男達も。
分かってない。
だが女の機嫌を損ねると、エライ事になると、誰もが思い知ってる」

ローフィスが、顔を上げかけたディングレーに説明する。
「シェイルを怒らせると面倒なのと、同じ理屈だ」

ディングレーはまた深く顔を下げ、今度は身に染みて分かった様子で、こっくり頷いた。

アイリスだけが、目を見開き
「シェイル殿を怒らせると…そんなに大変なんですか?」
と聞く。

説明したがらないローフィスと、どう説明して良いか分からないディングレーの二人が、同時に顔、下げてるのを見て。
オーガスタスが口を開いた。
「…感性が、男と言うより女に近い。
本人に言うとめちゃめちゃ機嫌を損ねるが。
だがお前だって、惚れた相手にめちゃくちゃ怒られると、凹むだろう?」

アイリスの、眉間が寄る。
「ローフィス殿とディングレー殿とシェイル殿が△関係なのは、初耳です。
確かディアヴォロス様と△関係じゃ無かったですか?」

ディングレーが顔を上げて怒鳴りかけるが、オーガスタスが先に言った。
「ディングレーはローフィスの弟分。
お前だって兄貴が居たら、兄貴が骨抜きな位惚れてる嫁さんにもし、睨まれたら。
戸惑うだろう?」

なぜかこの問いに、ギュンターが腕組みして頷き、肝心のアイリスは
「兄代わりなのは叔父ですが…。
叔父の惚れてる相手は大抵、祖母か伯母か母に追い出されるので。
私が接触する機会はほぼ、無くて。
気を使ってる間が殆ど、ありませんしねぇ…」
と首捻ってた。

ディングレーは呆れて聞く。
「…だから…エルベス大公は今だ、未婚なのか?
…婚約の話が出る度、俺の一族の女連中が騒ぎまくり、婚約解消で大宴会してるぞ?」

「…人の不幸で、大宴会?」
ローフィスが暗い声で聞くと、ディングレーは頷く。

「「左の王家」の女達に、エルベス大公は大人気だ」

アイリスは項垂れて言った。
「でもウチには、どんな淑女にもケチ付ける、祖母、伯母、母の、三妖女がいますから…。
叔父は最近、結婚相手は“男しか無理かも”
と、絶望的になっています」

その言葉で、ローフィスとディングレーは顔を思い切り下げ、ギュンターは同情の大きなため息を吐き、いつも陽気なオーガスタスですら、青ざめて顔を俯けた。

けれどアイリスはこのお通夜のような状況ながら、ついに言うべき言葉を言った。
「で。
マレー計画を進行してくれてる、妖女達がどーーーーしても一目、貴方方を見たいと。
滅多な相手は招待しない、大舞踏会に招待すると言ってます」

ギュンターはしらん顔。
オーガスタスも顔を下げたまま、上げない。
ローフィス、だけが
「…つまりハウリィの時。
俺の要請に応えてくれた面々の、提出物を代わって俺が引き受けた。
あれと同様だ」
そうぼそり…と、説明する。

けれどギュンターはまだ、顔を背け、オーガスタスも顔を下げたまま。

ローフィスはため息吐く。
「…つまりディングレーとその取り巻き大貴族ら、辺りが出れば。
妖女は納得出来るかな?」

ギュンターとオーガスタスは生け贄のディングレーを同時に見つめ、ディングレーは
ガタン!
と椅子を鳴らしローフィスを目を見開き見つめる。
「…当然、お付きの俺も行く」

それを聞いて、ディングレーはほっとしたように大きな息を吐き出す。

アイリスはチラ…とオーガスタスとギュンターを見ると
「どれだけでも招待していいとの事でしたので。
この際、どうでしょう?
リーラス殿も誘い、オーガスタス殿にも出て頂いて。
二年のローランデ殿やシェイル殿。
合同補習で私が仲良しのヤッケル殿。
仲間外れはマズイので、フィンス殿も。
一年からも誘いますし、人数が多い方が、妖女の狙いも分散されて薄まります」

と、言って退けた。

「…確信犯だな」
ギュンターがぼそり…と言うと、オーガスタスも頷き
「実家が金持ちなリーラスはともかく。
そんなたいそうな舞踏会に出れる礼服を、俺は持ってない」
と却下した。

けれどアイリスは、にっこり笑った。
「持ってない御方は、こちらでご用意致しますので。
その中で、お好きな礼服をお選び下さい」

オーガスタスは呆れた。
「ギュンターはともかく、俺に合うサイズがあるのか?」

ギュンターは先に逃げの言い訳する、オーガスタスを軽く睨む。

けれどアイリスは笑顔を崩さない。
「勿論、どんなサイズでも、ご用意できます。
それに…素晴らしいご馳走を山盛り用意しますから」

オーガスタスとディングレー、そしてローフィスはチラ…とギュンターを見た。

ギュンターは顔を揺らし
「(…断れなくなったじゃないか…)」
と顔を下げた。

が、上げて聞く。
「…どれだけ食べても、大丈夫なぐらいあるのか?」

アイリスは、にっこり笑って保証した。
「一人につき十人分だろうが、用意出来ます。
デザートまで、たっぷり!」

ギュンターは、ちょっと嬉しそうな吐息を吐く。
代わってオーガスタス、ディングレー、ローフィスは顔を下げ
「(…ご馳走山盛りに釣られるなんて…)」
と、こっそりギュンターに、呆れた。
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