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ローフィスに感謝を告げるハウリィ

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 ふとローフィスは視線を感じ、振り向くとその先に。
一年、スフォルツァ始めアイリスらと共に、小柄なハウリィが居て。
切なげな青い瞳で、こちらを見つめてるのに気づく。

ふらりと場を外し、寄って行く。
ディングレーもギュンターもオーガスタスもが、突然一年の群れへと歩いて行くローフィスの背を、見送った。

ローフィスが寄って行くと、三人の美少年とスフォルツァ、そしてアイリスが振り向く。
ローフィスは三人の美少年の前で歩を止め、アスランに
「治って良かった…」
と言葉をかけた途端。
突然ハウリィに抱きつかれ、言葉を途切れさす。

ギュンターは少し離れた場で、ハウリィに突然抱きつかれ、目を見開くローフィスを切なげに見つめるディングレーに気づき、背後の取り巻き大貴族に聞こえない小声で、ぼそっと囁く。
「…やっぱあんた、ローフィスに惚れてるだろう?
ハウリィに取られて、辛いのか?」

ディングレーは、ぎょっ!として顔を派手に揺らし、ギュンターを凝視した後、つい
『それ系の考えから、いい加減離れろ!!!』
と怒鳴りつけそうなのを、なんとか我慢した。

オーガスタスはくすくす笑い、ギュンターにやっぱり小声で
「珍しくディングレーの、滅多に見られない、繊細な表情見たからか?
あれは
『ハウリィの気持ち、俺にも分かる』
って顔だ。
お前のは、完全に誤解とは言わないが。
かなり的外れ」
と囁く。

ディングレーは目を見開き、そうフォローしてくれるオーガスタスに
「(なんで完全に誤解だと!!!
きっぱり言ってくれないんだ!!!)」
と内心異論を唱えてた。

けどギュンターは
「…そっちか」
とぼそりと言い、納得した表情を見せる。

ディングレーはギュンターの扱い方をよく知る、長身のオーガスタスを改めて見つめ、心から敬意を抱いた。


ハウリィはぎゅっ!とローフィスの胴に腕を回し、きつく抱きついた後。
はっ!と気づいて顔を上げ、ローフィスの顔を見上げる。
明るい栗毛の…優しげな顔。
けど困惑気味に見えて、ハウリィは頬を染めた。

「あの…。
あの、ごめんなさい…。
僕ずっと、お礼が言いたくて。
けどアスランが大変で、でも僕たちの部屋に、貴方はいらっしゃらなくて。
…昼食時も、四年はずっと遅れて来るから。
いつも、すれ違いばっかりで…。
だから、あの…」

ローフィスは、言葉を途切れさすハウリィを見ると、途端にっこり笑って言った。
「俺も色々忙しくて。
会いに行けなくてすまない」

ハウリィは恩人なのに謝ってくれるローフィスを、心が震えるほど感激して見つめた。
「僕…あの…あの、一緒に実家に来てくれたアイリス…様に、貴方が…してくれたって。
僕が安心して、家に戻れるように」

ローフィスは直ぐ、嬉しそうに尋ねる。
「大好きな母君との再会は、楽しかった?」

ハウリィはじっ…と真摯な青の瞳をローフィスに向け、呟く。
「…幸せ…でした」

ローフィスはその言葉の重みに、つい口を閉じてハウリィを見つめた。
可愛い綿菓子のような、甘い美少年。
けれどどれだけの辛い思いを、隠し持っていたことか。
それが、分かって。

ハウリィは、けれどそれでも笑って、一生懸命感謝を伝えようとする。
「母…の笑顔なんて…。
あんな安心しきった幸福そうな顔なんて…。
ここ数年、見た事が無くて…。
だから僕…僕……。
どう感謝を告げたらいいのか…」

もうその青い瞳は、潤んでいて。
ローフィスは眉下げ、切なげに囁いた。
「俺だけじゃ無い。
アイリスが…」
と言いかけた時。
アイリスはハウリィの背後で、きっぱり首を横に、大きく振る。

が、ローフィスは押し切って言った。
「アイリスの叔父大公は、たいそうな権力者で。
アイリスから君の家の事情を聞いて、監督者を送り込んだのも、叔父大公だ。
だから…感謝の半分は、アイリスにも告げてくれ」

ハウリィは涙目でアイリスに振り向く。
アイリスは内情バラすローフィスの言葉に、顔下げて首を横に振ってたけど。
ハウリィに見つめられ
「ローフィス殿からその…状況を聞いた時。
ローフィス殿ははかりごとルビをして、君の家の暴君らが、もう無体なマネが出来ないようにしたって…その…」

スフォルツァもマレーも。
言葉がつっかえさせるアイリスなんて、初めて見て。
つい二人揃って、戸惑うアイリスを凝視した。

「…つまり、管理者が派遣されれば。
もっと確実に、家の中の平和が保たれると…。
そう思って叔父に、頼んだだけで…。
ローフィス殿ほどのご苦労は、私は少しも…」

「ありがとうございます!」
ハウリィに涙目できっぱり言われ、アイリスははにかんだように微笑むと、こっくり頷く。

スフォルツァもマレーも、アスランですら。
いつも余裕の笑顔を見せるアイリスの、そんな心からの感激を内に秘めた表情なんて、見た事無くて。

ついアイリスを見つめ続けた。

「…だから当然…。
ローフィス殿のした事の方が、数倍大変だったと思う」

アイリスがそう告げると、ハウリィは目を見開き、ローフィスに振り向く。
「あの…」

ローフィスは詳細を聞かれそうで…義兄のアンガス調教に参加した面々に
『くれぐれも、誰にも知られないようにしてくれ』
『忘れたい過去だからな』
と釘刺されてる事を思い出す。

だから…言った。
「…何が大変だったかなんて、君は知らなくていい。
もう実家にいつでも、安心して帰り。
母君の朗らかで楽しげに暮らす姿を見て、喜んでくれたら。
俺もアイリスも、満足だ」

ローフィスがそう告げた時。
とうとうハウリィの頬に、一筋涙が伝った。

「僕…一生かけて、ローフィス様とアイリス様に、ご恩返し致します」

けれどローフィスは笑った。
「君が笑顔でいてくれれば。
それが恩返しだ」

アイリスは思わず
「(クサい…)」
と俯いた。

が、ハウリィはもっと感激した表情で、ローフィスを見つめる。
そして振り向かれ、その感激した表情を自分にも向けられ、アイリスは恥ずかしげに頬染めて俯いた。
「(…超苦手だ、こういうの…)」

スフォルツァもマレーも。
ますますそんな見慣れないアイリスを凝視する中。
ローフィスは微笑む。
「…『教練キャゼ』は…続けるのか?」
ハウリィは戸惑うように、ローフィスを見上げる。
「…マレーもアスランも居るし、一年だけは。
一年経って…僕がここでも、やっていけるようなら…。
続けたいと思います」

その回答に、アイリスもスフォルツァも微笑んだ。
「君は乗馬は上手だし、剣もそこそこ使えて、筋も良い」
アイリスが言うと、スフォルツァも頷く。
「後は気合いだ。
母君を、君が護る気で剣を習えば。
ここを卒業しなくても、いざと言う時、役に立つ」

ハウリィは二人に振り向き、嬉しそうに頷いた。
アスランもハウリィの横で
「凄い落ちこぼれの僕ですら、ここから去りたくないんだから。
君だってきっと、卒業するよ!」
と言い、マレーに目を見開かれ
「卒業まで、居るの?!」
と驚かれて、アスランは赤くなると、つぶやく。
「…無理かな…」

マレーはそんなアスランを見て
「気持ちは…凄く分かる。
僕もここに来て、凄く素敵な人達に出会えて…。
君がその気なら。
僕も頑張って卒業する」
と告げるから。
アスランもハウリィも、心から嬉しそうに、にっこり笑った。

ローフィスはそんな初々しい一年達を見て、微笑む。
「俺は来年卒業だ。
が、グーデンも卒業する。
来年、ここを統べるのはディングレーだから。
とりあえずこの一年乗り切れたら。
その後、ディングレーやローランデが怖い奴らは、君らに暴挙働けない。
別の言い方をすれば、君らがソノ気になれば、卒業なんて楽勝だ」

スフォルツァも、マレーもアスランもハウリィもが。
そんな風に軽くわれて、目を見開いた。

けれどアスランだけが。
目を見開きながら、真剣にその言葉を受け止め
「僕、じゃ絶対卒業します!!!」
と笑顔で告げるので、途端マレーもハウリィも。

スフォルツァとアイリスまでもが、心配げにアスランを見つめた。


少し離れた場所から、相変わらずローフィスと一年らを見ていた、ディングレー、ギュンター、オーガスタスは。
シェイルが寄って来て、ディングレーに
「もしかして、あのハウリィって可愛い子…。
ローフィスの事、好き?!
で、ローフィスって、ああいうか弱いタイプに弱いから。
すごーく親切に、してたりするの?!!!!」
と、喧嘩腰で突っかかってるのを、びっくりして見た。

ディングレーはいっぺんにオタついて、どう言おうか狼狽うろたえまくり。
オーガスタスが見かねて
「別に、親切ぐらい、いいだろう?
浮気した訳じゃないし」
と、助け船出した。

ギュンターは“『教練キャゼ』一の美少年”の、結構気の強い姿を見て、ただ沈黙。
シェイルはぷりぷり怒って
「…あんたなら、どんな親切してるか。
内情、知ってるんだろう?!」
とまだ、ディングレーを詰問する。

ディングレーは
「で…」
とか
「だ…」
とか言いかけて、けど言葉が出ない。

オーガスタスがとうとう、ため息交じりにシェイルに告げた。
「不器用なディングレーをいじめるな。
困ってるだろう?」

けどシェイルは引かない。
「ローフィスがディングレーとつるむと、いっつも浮気する」

オーガスタスは目を閉じ、頷き
「俺と連む時も、浮気するぞ?」
と、ディングレーを庇った。

ギュンターが見てると、シェイルはオーガスタスには突っかかる気は無いようで、可愛らしく頬を膨らませてスネ
「…いつかあんたでも。
あんまりローフィス、浮気に誘ったら。
ずっと文句、言い続けてやるから!」
と可愛らしい捨て台詞ぜりふ吐くと、銀のふわっとした長い髪をふって、愛らしいピンクの唇を尖らせ、ディングレーに大きなグリーンの瞳を向け、一睨みし。
つん!と背を向けた。

「………怒ってても、あれだけの美少年だと。
可愛らしいな…」

ギュンターが、ぼそっ。と感想を述べる言葉を聞き、オーガスタスが呆れて告げる。
「甘く見るな。
ローフィスを肉親以上に思ってるから。
ローフィスが微笑みかける相手、全員に嫉妬しまくりなんだから」

ディングレーも頷く。
「俺がローフィスと連み始めた最初の頃も。
すんごくきつい目で、じろじろ見られた」

ギュンターは、ディングレーの情けない姿を見、目を見開く。
「…あんたでも、シェイルは怖いのか?」

ディングレーは髪に顔を隠すぐらい、深く顔を下げて俯き。
オーガスタスは、大きく頷く。
「ディングレーは基本、殴り倒せない相手は全部、苦手だ」
ギュンターは、呆れて口開く。
「怖がる基準は、そこか?」

ギュンターにそう聞かれ、ディングレーは言い訳もせず、無言で頷いた。
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