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アスランとマレーを連れて講義に出るスフォルツァとアイリス

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 食事を終えて、一年大貴族らは揃って一階大食堂へと降りて行く。
スフォルツァは流石だった。
アスランとマレーを側に置き、片時も目を離さない。

…最も二人と一緒に、アイリスもいたためだったけれど。

アイリスは、側に寄ると途端嬉しそうなアスランに、思わず微笑みかける。

アスランは階段の踊り場の、窓から差す朝陽に照らされたアイリスが、色白の肌がもっと白く見え、その輪郭はぼやけて…。
濃い栗毛の外側は明るく光り、濃紺の瞳は白い肌に浮かぶようで、微笑は例えようも無く綺麗に見えて、頬を染めて見惚れた。
アイリスに視線を向けたまま背を押され、階段を降りたせいで。
一段踏み外しそうになり、横のマレーは目を見開き、慌てて支えようと手を差し出したけど。
さっ!とアイリスが直ぐアスランの腕を掴み、転ぶのを止めた。

アイリスはマレーにじっ…と見つめられ、優しい女顔でうっとりするような微笑を返す。
けどマレーは…理知的なヘイゼルの瞳を見開いた。
「(…アイリスって…アイリスって、運動神経もめちゃめちゃ良いんだ…)」

アイリスがアスランの二の腕を掴んだまま、一緒に階段を降りる。
アスランは言葉が出ないまま『ありがとう』と頬を染めて、自分より長身の、アイリスを見上げた。
「気をつけないと、また踏み外すよ?」

アイリスに言われ、ようやくアスランはアイリスから視線を外し、足元を見た。

マレーはつい…じっとアイリスを見た。
確かに、この男らしい大貴族らの中で、アイリスは女性的に見える。
でも今はなんだか…とても優美な、けどいざと言う時体を張ってでも守ってくれそうな、頼もしい騎士に見えた。

気づいたアイリスは、マレーに視線を送る。
面長のアイリスは、やはりとても綺麗な顔をしていた。
濃い栗色巻き毛のたっぷりとした髪を背に優雅に流し、先が鋭角の、とても綺麗な鼻筋をしていて、その下の唇は下唇が少し厚めだけど、どこか色香を感じさせるのに秘やかで。

何より濃紺の理知的な瞳がキラリ!と光ると、見ている者をどきりとさせる。

けどその肩や胸は、けっして華奢じゃなくてむしろ…頼り甲斐のある、青年っぽさが覗えた。
優しげに見えても、実際はとても気概があって。
それを優雅さで隠した、実は大胆で華麗な騎士に思えた。

アイリスはマレーの思惑が、分かっているかのように一瞬とても、悪戯っぽく笑った。
マレーは目を、ぱちくりさせたけど。
アイリスはもっとチャーミングに笑って、見ているマレーの心臓を、その青年の魅力でどぎまぎさせた。

けど階段を降りきって、先に降りたスフォルツァが振り向き、アイリスを横に迎えると途端、アイリスはその青年っぽさを、こっそり隠すようにひっこめた。

マレーがスフォルツァを見ると、スフォルツァは涼しげなグリンの勝つヘイゼルの瞳を向け
『心配要らない』
と言うように、一つ頷いた。

マレーはスフォルツァのその心遣いに、胸の奥がジン…と熱く、なった。
横のアスランはスフォルツァがアイリスの向こう隣に並ぶと。
途端、居心地悪そうに恐縮して顔を下げたけど。

スフォルツァにエスコートされるように、三人は並んで進む。
その三人を守るように目を光らせるスフォルツァは、騎士たる風格があって、皆その派手な四人組に、場を開け見送った。

宿舎を出、乗馬の授業に出るため、背後に一年大貴族を先頭に平貴族らも続き、ぞろぞろうまやへと歩き出すと、その先で二年の群れに出くわす。

中肉中背でさらりとした真っ直ぐの明るい栗毛を肩に流したローランデが、その一際色白の顔を上げてくっきりとした青の瞳を向ける。

背後にシェイルを伴って、近づいて来る。
少し明るい栗毛を胸の前でカールさせ、涼しげなヘイゼルの瞳のスフォルツァへと、ローランデは最初に視線を送った後。
焦げ茶の艶やかな美しい巻き毛を品良く胸に垂らし、理知的な濃紺の瞳を向ける優しげな面長のアイリスの、美しい顔を見つめ、囁いた。

「君達がいつも一緒なら、きっと彼らもとても、安心だね?」

そう…大貴族の二人と居ると美少女にしか見えない、真っ直ぐの黒髪の可憐なアスランと、栗毛の縦ロールの人形のように綺麗なマレーに微笑を送る。

アスランもマレーも、試合で見た素晴らしく強い剣士が間近で。
二人共揃って恐縮し、顔を下げた。

だが一緒に立ち止まるスフォルツァとアイリスの、背後の一年の群れは。
ローランデの後にいる、銀髪の『教練キャゼ』一の、美少年に見惚れてた。

銀に透ける、ふんわりと緩やかなウェーブのかかった、腰近くまである長い髪。
長い銀の睫毛に縁取られた、大きなエメラルド色の伏し目がちな瞳。
華奢で少し反った鼻筋。
小さな柔らかそうな唇は、真っ赤。

色白の華奢でしなやかな肢体は、朝日に煌めく雫の、零れるような輝きを全身に纏ってるみたいな雰囲気で、人間離れして、まるで妖精のように見えた。

あんまり綺麗で、その場にいた一年生全部の視線が、シェイルに吸い付く。

が、スフォルツァは横のアイリスが、ローランデの素晴らしい気品と、凛とした貴公子ぶりに頬を染めて見惚れながら見つめ返し
「ええ。
スフォルツァが一緒だと、本当に心強いです」
と告げるのを聞いた。

名が出て、ローランデの澄んだ青い瞳が自分に向けられ、スフォルツァはどきっ!とした。

「大変ならいつでも、力になるから」

ローランデに微笑んでそう言われ、スフォルツァは息が止まりかけ、慌てて言葉を返す。

「そ…んな時が来たら、いつでもお力をお借りします」

ローランデが頷いて微笑を残し、シェイルを伴って背を、向ける。
スフォルツァは彼が、剣を握る時とはとうって変わって、普段はとても優しげなのを思い出した。

どうしたって、あの試合の後では真剣で戦うような気迫溢れる彼を、忘れるのは難しい。

フィフィルースが背後で、こっそり囁いてた。
「…じきある剣の合同授業では。
ローランデ、絶対手抜きしないって」

アイリスが見つめていると、スフォルツァは思い切り、顔を下げて長い吐息を、吐き出してた。


厩で、アスランは愛馬の手綱を握り、しきりに周囲を見回す。
がスフォルツァに促され、あぶみに足をかけて馬の背に、またがろうとして馬に向きを変えられ、乗りそこね…。

それを数回繰り返すので、とうとう見かねたスフォルツァが馬から降りてアスランの馬のくつわ(口に通した綱の留め具)を掴み、止めてアスランに乗れ。と顎をしゃくる。

がそれでもアスランは二度乗り損ねてようやく、危なっかしげに馬に、跨った。

手綱を握るスフォルツァが、吐息混じりに尋ねる。
「馬は?今まで乗った事無いのか?」

頷くアスランに、スフォルツァは顎をしゃくって馬番の青年を呼び寄せ、彼に自分の馬の手綱を預ける。
「授業には使わないから、君が運動させてやってくれないか?」

皆がそう言ったスフォルツァを見守る中、彼はすらりとアスランの後ろに素早く跨り、背後からアスランが握る手綱を取って、囁く。
「もっと短く持たないと。
馬は合図が解らず、どうしていいか迷うだろう?」

アスランは背後からスフォルツァに抱かれるように包まれ、色白な顔を真っ直ぐな黒髪に、埋めるぐらい深く、うつむいた。

やがて皆が一様いちように駆け出す。
マレーは思わず、併走する横のアスランを、目を見開いて見る。

背後で馬を操る、軽やかなスフォルツァとはうって変わって。
どすん。どすん。と無様にお尻を馬の背にぶつけ、上下に跳ねるアスランを惚けて見る。

そんな状態なのにアスランは。
スフォルツァが馬を操ってくれる事に安心してるのか、きょろきょろと跳ねながら周囲を見回してる。

その時ようやくマレーは、アスランが何を探してるのかが、解った。
アスランと仲の良い、ハウリィの姿がどこにも…見当たらなかった。

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