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試合を見守るデルアンダー、そしてシェイル

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 三年席でデルアンダーは唸った。
捕らえたと思った相手ディングレーはるか、先を行っていた。

自分が今のディングレーと対戦していたら、もう三度も斬られてる。
…いや、四度…五度!

どうして…ローランデがいきなり飛び出す、突拍子も無い豪剣を。
剣を合わせ止められるのか、解らなかった。

ローランデ自身もそうだから?

流れでここに来るだろうという予測を、いきなり裏切る。
それまでは読み通りの剣が、来てるのに突然。

あらゆる型を身に付けたつもりだった。
が、あんな変則的な剣技は初めて見た。
ディングレーはそれを完全に自分のものにしてる。

狙って。
考えて繰り出される剣じゃない。

幾度も肝を冷やされたが、これ程速く、立て続けに振れるだなんて知らなかった………!

ローランデは剣を、振る途中剣筋を変える。
がディングレーは後ろに剣を引き、突然予測不可能な方向から剣を振る。
瞬速で。

不意打ちの稲妻に…豪風に、どうしてローランデはああも見事に対応出来てる?

唸りたくなんか無かったが、デルアンダーは自分が今にも唸り出しそうで、唇を固く噛みしめた。


オーガスタスは剣を入れ続けるディングレーを見、吐息混じりに横の、親友を見た。
「…あれ、お前の影響だろう?」

ローフィスは無言でばっくれた。

オーガスタスがじっと見続けるので、とうとうローフィスは白状した。

「…だって…型どおり剣を振って、どこが楽しい?
相手の予想をとことん裏切る。
それが対戦相手への、礼儀ってもんだ!」

背後の席に陣取ってる悪友共が、一斉に目を剥く。
「嘘付け!」
「ただでさえ、奴は「左の王家」の血筋なんだ!
あの激しい気性から繰り出される豪剣だけで厄介なのに。
化け物に変えちまいやがって!」

「あんな気まぐれに剣を滅茶苦茶めちゃくちゃ振るから!
あのローランデすら、あの場から動けないじゃないか!!!」

悪友共に一斉にわめかれて、ローフィスは片目つむって聞き流した。


シェイルはディングレーを見つめた。
彼は最初、ローフィスが連れて来た。

ローフィスの後ろに付いて来る、真っ直ぐの黒髪の印象的な青い瞳をし、毛並み良く背の高く、整った顔立ちの少年をびっくりして見たが、あっちも自分を見てびっくりしてた。

ローフィスが、ぶっきら棒に言った。
「義弟だ。女と間違えて口説くどくな」

ディングレーは一瞬で、青冷めて顔を、下げた。
ローフィスは下げたディングレーの顔を、屈み覗き込んで、尋ねた。
「…思いきりタイプだったか?」

ディングレーは初対面だからマズい。と思って言葉を、選んだんだろう。
「会った中で一番の美人が男なんて。
そう言うの、アリか?」

ぶっきら棒で粗雑そざつで。
ローフィスにさりげなく言われるまで、知らなかった。
「ああ…奴は『左の王家』の血筋だからな」

つい、尋ねた。
「それ…王族だって事?」
「俺はそう、言わなかったか?」

いつもの、ローフィスの口調。
どれだけ意外な事でもさらりと何気なにげ無く、言葉にする。
絶句ぜっくしてた。
そしてディングレーを、見た。

ディングレーは
『どうして見るんだ』
的な驚きの表情をし、があんまり呆れたからつい、怒鳴ってた。

「ローフィスはいつも、とんでも無いのを拾ってくるけど、今度は特に変だ!」

ローフィスが唸った。
「…変にのはタマにしか、拾わない」

怒鳴りたかった。
『王宮みたいな“城”に住む王族なんて拾って来るのは、あんた位だ!』

でも、ローフィスはこたえないから、言うだけ無駄だって知ってたけど。

喧嘩の仕方もロクに、知らなかった。
体格は良かったけど…でも品のいい、気まぐれで高慢こうまんな、甘々のお坊ちゃんに見えた。

時々ローフィスに『世間知らずの馬鹿』扱いされて、くやしげに唇を噛んでる。

誇り高いんだ。
がふと、思った。
『王族』だっけ。当然か。

口の悪いローフィスに言いたい放題され、きっとこんな扱いされた事なんて、今まで一度も無かったんだろう。

時々侮辱ぶじょくを受けたみたいにローフィスを、睨む。
けどいつもローフィスの後にくっついてた。

不思議だった。
どうして?

一度、ディングレーは剣で、ローフィスは短剣でふざけあってて。
でもてんでローフィスにかなわなくて、石の上にへたり込むディングレーの横に、そっと付いて…尋ねた。

「ローフィスが嫌いなら…来なけりゃいいのに」

ディングレーは少女を見るように、僕を見た。
眉を下げ、囁く。
「俺が…邪魔か?」

シェイルは意志が通じなくて、地団駄じたんだ踏みそうだった。
「そうじゃなくて!
だって…あんたは豪華な“城”に住んでて、召使いを山ほどかかえる『王族』なんだろう?
こんな…ロクな住居もない平貴族の後、くっついて歩くなんてイカれてる!
それにローフィスの言葉は、相手が『王族』だろうが遠慮えんりょ無しだ!」

ディングレーは困ったように顔を下げて、言った。
「俺は兄貴が居る。
…言葉も、姿も上品だが気色悪い。

ローフィスは言葉が悪いが…不思議に慣れると、奴が俺を傷つけようと言ってるんじゃない。と解る。
むしろ…俺の為を思って言ってる。

言葉は最悪に侮蔑ぶべつ的だけど。

けどそれは…凄く気持ちが、晴れやかになる」

シェイルはしばらく…顔を下げてそう言う、まだ年若い高貴な少年を見つめた。

ローフィスと一緒に居る時間が長く、二人で居るとディングレーは全然、王族に見えなくなった。

…そんな頃、ローフィスは『教練キャゼ』へと消え、そして一年経つと…ディングレーも、『教練キャゼ』へと姿を消した。


シェイルはまだ、不思議なものを見るようにディングレーを、見つめた。
まごうことなく『王族』の威風と格の違いを周囲に見せ付け…。
剣でモノを言うのが『王族』。

ディアヴォロスはそれを体現していたが、ディングレーも…。
同様、そうだった。

皆が敬意を払うのにあたいする存在。
一方の…親友ローランデは剣を握ると間違いなく『剣聖』に見えた。

この地上の者じゃないような身のこなし。
風のように素早く、どの振りすら、美しく見える。

剣を握ってこれほど美しく気迫あふれる者を、初めて見たから。
シェイルはローランデの大ファンだった。

剣を握る彼は自分を地上に取り残し、はる虚空こくうへ旅立ち、手が届かない聖なる場所に、居るように見えた。

例え彼が敵を斬り殺し血にまみれても…それでも彼の神聖性は、失われたりしないと確信していた。

普段は穏やかで優しくて…曲がった事には断固として意志をつらぬき通す、頼もしい騎士なのに。

剣を握ると違う場所へ行ってしまう。

それでも…そんなローランデが友である事が、心から誇らしかった。

二人の戦いは熾烈しれつきわめた。
ディングレーは王族と呼ばれるだけの迫力を剥き出しにし、ローランデはどれだけ打ちかかられようと、崩れる様を、見せなかった………。

ローフィスは言うだろう。
『奴らは俺達と人種が違う』

さらりと。何気無く。
うらやましい。
そう言ったらきっと
『馬鹿か?』
と言う瞳を投げて
「人に解らぬ苦労を背負せおわなくていい、身分を楽しめ」

そんな風に…ぶっきら棒に、劣等感けになる俺を、救うだろう………。

ヤッケルも…フィンスもそして、会場中の生徒達はこの素晴らしい戦いに、見惚れ、皆滅多に見られない物を目にした興奮に瞳をきらめかせ、拳を握り…応援してる。

二人を。

どちらも手の届く場所に居ない、特別な存在。
そんな二人が誤魔化ごまかす事無く自分をさらけ出し…しむ事無く存分ぞんぶんに見せてくれる事に熱狂し。

シェイルは短い吐息を吐く。

どちらが勝っても…間違いなくこの試合を見守る皆は。

両者にありったけの、賞賛しょうさんの拍手を降らせるだろう。
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