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アイリスを庇う一年大貴族達

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 隣ではリーラスが、やはり仲間の一人ランドルフと派手な立ち回りをしてた。
リーラスの余裕が、ランドルフは気に喰わない。

がリーラスは達人の域で、自在に剣を振り回しては糞真面目なランドルフをからかうように揺さぶるもんだから、ランドルフはとうとうキレて、思い切りリーラスの剣に自分の剣をぶつけた。

がっ!

「…………………………………」

ランドルフは剣を振り切ったまま、固まった。

剣を、真っ直ぐ付き出し前に踏み込む姿勢そのままの対戦相手に、リーラスはぼやく。

「お前の剣先は上だ」
ランドルフは唸った。
「知ってる。
オーガスタスが何とか出来そうな場所に飛んだか?」

リーラスはまだその姿勢のまま、自分のすっぽり抜けた剣先がどこに飛んだか、見るのを拒否し自分に押しつけるランドルフを見た。

「オーガスタスに後始末させるつもりだったのか?」
がとうとうランドルフは姿勢を戻してリーラスに、怒鳴りつけた。
「そんなん、計算して飛ばせるかよ!
だからお前に聞いてるんだ!!!」

「自分の剣先だ。自分で見ろよ」
「飛ばしたのは、お前だ!」

噛み付くランドルフに、リーラスはため息混じりに剣先を目で追う。

大きく弧を描き今天上の真上から、下に落ちてくる所だった。
ブーメランのように、いびつにその軌道を曲げながら。

「……………どこに落ちるか、全然予測が付かない」

今度試合場の全員は、試合で無く天上から落ちて来る剣先の行方を、固唾を飲んで見守る。

過去にも幾度もあったが、避け損なえば怪我人出るし、ヘタすれば大怪我を負う。

スフォルツァが顔を下げて苦虫かみ潰したような表情で、ぼやく。
「…四年の試合は、余興だらけだな!」

アイリスが振り向くと、スフォルツァは顔を上げ、ブゥン!
とこっちに弧を描き、くるくる回りながら走り来る剣先を睨む。

アイリスはそれが自分目がけて飛んで来るような気がして、思わず目を、見開いた。
スフォルツァが正面を塞ぎ、背を向けてアイリスを庇った時。
同時にフィフィルース、アッサリア…そしてディオネルデスまでもが、剣を抜きつどう。

スフォルツァは両端からこぞって自分同様、アイリスを庇おうとする男達に目を剥いた。
「俺一人で十分だ!」

が、左横に付くアッサリアが囁く。
「こっちのが近い」
左の一番端、ディオネルデスが微笑って剣を抜く。
「君達残念だな。私の出番のようだ」

アイリスはそれは、恥ずかしかった。
会場の上級生達はこぞって、学年一の剣士から滑り落ちた筈のアイリスを庇い、取り巻く一年の大貴族らを、伺い見ていたので。

「…何だ。剣の腕で従わせる必要無しか」
「…まあ、解る。
色白の、本当に品のある美少年だものな」

クスクス笑いが漏れる。
つい、アイリスはチラ…。と二年のローランデを伺うが、ローランデはアイリスを競い庇う、一年の初々しい剣士達を、微笑ほほえましげに見守っていた。

つい、アイリスは思い切り顔を下げて吐息を漏らす。
せめて…敬愛するローランデくらいには、いっぱしの剣士に見られたかった。
それに、目前を防ぐ男達を両手広げ押し退けて
「自分で対処たいしょ出来る!」
と、怒鳴りつけたかった。

がここで目立てば、元も子もない。
窓辺を伺い見る。
シェイムが口元に手を当て、俯きながらくすくすと。
肩を揺らし笑っているのが見えて、二度にたび吐息を吐き出した。

カン!
言った通りディオネルデスが、飛んで来た剣を、手にした剣で思い切り弾く。
すかさず前に居たスフォルツァの腕が伸び、肩を抱き寄せられるように一斉に振り向く男達から引き離され、思わずアイリスは肩を抱くスフォルツァを見た。

彼は自分が剣を弾けなかった事が不満なようで、眉間を寄せていた。

が、アイリスを自分のもののように肩を抱くスフォルツァに、フィフィルースもアッサリアも、ディオネルデスですら、無言で俯く。

アイリスがディオネルデスに、頭を軽く下げて頷き、感謝を示すと。
ディオネルデスはその整った爽やかで男らしい顔に微笑を浮かべ、歩を進めアイリスへと詰め寄った。

スフォルツァが横に振り向くと、ディオネルデスはアイリスの真正面に立ち、姫からの礼を受け取ろうと、礼儀正しく待っていた。

スフォルツァはやはり思い切り、むっとした。
がアイリスはすっ…と歩を踏み出して抱くスフォルツァの手から肩を外し、正面に立つディオネルデスに微笑みかけ、口を開く。

がディオネルデスが先に言った。
「褒美を貰えるのならどうか、口づけで」

スフォルツァが咄嗟にディオネルデスを睨んだ。
が、アイリスはにっこり笑って、すっとディオネルデスに顔を寄せ、その頬に軽く口付けた。

ディングレーはつい、一年の様子に見入る、試合真っ最中なはずの中央の四年達四人と。
アイリスの様子を交互に眺め、呆けた。

中央で一番注目を集めてる、試合中なはずの男らを始め。
審判の講師までもが、揃って。
一年の、その様子を見物している姿を見て、オーガスタスはつい吐息を吐き出す。

試合中の男達がそれだから、講堂中の全員が。
こぞってアイリスを取り合う、一年大貴族達の様子を興味津々しんしんで伺っていた。

ディオネルデスに、アイリスが褒美を与える姫さながら。
優雅に微笑み、頬に口付ける様も。

スフォルツァがそれを、心から“気に喰わない!”表情で、睨み据えている様も。

オーガスタスは腕組みし顔を下げ、内心呟いた。

“あの…スフォルツァってヤツは馬鹿だ。

あんなに喰えない演技派の垂らしを、純情可憐な美少年と見あやまってる。

確かに純情可憐な美少年の、ようには見える。
が、中身までもがそのままだと思うだなんて、迂闊うかつ過ぎる。

が、あののぼせようじゃ、言っても無駄だ。
完全に御姫様扱いだ。

あいつが衣服の下に付けたよろいを外し、真剣振った時。
絶対後悔するのに決まってるのに"

オーガスタスにはその未来が思いえがけて、逆上のぼせ上がる一年騎士達を、気の毒そうに眺めた。
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