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三年ディングレー取り巻き大貴族デルアンダー

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 ディングレーの対戦相手は、警戒するように間を取りながら…。
野生の狼がいつ喰い付くのかを恐れるように、そして挑発するように。
剣を遠くから幾度も振り入れる。

が、ディングレーは剣を持ち上げたまま、何度もその剣を避け…自らは剣を振らない。

マレーはふ…。と会場の誰もが、ディングレーを。
…彼だけを、見つめているのに気づく。

いつ…ディングレーが剣を振るのかを、注目してるみたいに。
四度、五度…。

相手は剣を振り入れるのに、ディングレーはまだ、構えたまま振らない。
そしていきなり…気づいた。

三年に成るまで学校を去らずに残るには、かなりの腕前が要るのだと。
そんな猛者ばかりが生き残り、卒業を、果たすのだと………。

マレーはつい、俯いた。
自分が居残るとしたら、ディングレーのものに成って、彼の威を借りなければ無理だと解って。

学校一の美貌を誇るシェイルですら、ただのディアヴォロスの可愛い子ちゃんなんかじゃない。

学年四位に残る腕前なんだ………。

マレーは自分が、計算だとか、領地の作物を増やす肥料にやたら詳しいだけで、全然剣に触って来なかった事を思い返す。

“きっと皆、幼い頃から鍛錬を、積んで来てるんだ。
自分は到底、追いつけない程に”

カン!
マレーは、はっ!と顔を、上げた。

一瞬でディングレーは剣を振り切り、相手はその手から剣を、吹っ飛ばされていた。

マレーはディングレーを、見つめ続けた。
が彼はもう次の列に並び、横に居る次の対戦相手に振り向き、戦う気構えを崩さない。

黒髪が散る。
彼が肩を振り、足を床に滑らせ、間合いを一気に詰めると。
あまりの格好良さに、視線が彼に吸い付き…見惚れる。

激しく黒い、狼のような…静けさから一瞬にして襲いかかる、その凄烈さ。

勝敗はあっけ無く決し、次の列に、並ぼうとするディングレーの肩を講師が押し止める。

ディングレーは黒髪を散らし振り向き、講師の促す瞳に残った人数の、数が奇数だと気づく。

戦いのさ中から引き離され、ディングレーは肩で息を吐きながら仲間の戦いを、見つめる。

自分の居場所を…戦いを奪われ、いとぎおってるようにも見えた。

“どんな…気持ちなんだろう…?
どうして…あんなに剣を持つ手が自然なんだろう…?

農夫がくわを、持つように…。
庭師が大きな枝切りはさみを持つのが当たり前のように、剣を持つ気持ちって………?”

敗者は次々と見物席に戻り行き、残った八人が向かい合って次の対戦相手と戦い始める…。
マレーはその時初めて、八人の内二人が、グーデン配下の見た顔だと気づく。

ぞっ…。
と身が凍ったが、配下の一人の対戦相手は、気品があり堂とした態度で…明らかにディングレーの、取り巻きの大貴族の一人だと解った。

剣の扱いに慣れ…まるで基本の出来てない力任せの乱暴な剣術。
とグーデン配下の男を見下し、巧みな剣捌きと断固とした気迫で、暴れ狂う剣を叩き返していた。

横で同様対戦を見守る、アスランの細い指が腕に喰い込む。
その、気持ちは痛いほど解った。

ディングレーの取り巻きの大貴族の青年に、勝って欲しかった。
がグーデン配下の二人の内、一人はディングレーの取り巻きの大貴族に勝つ。

アスランが、喜びと見下す視線を対戦相手の大貴族に向けるグーデン配下の男を、目を見開き見つめ、その指は痛い程マレーの腕に喰い込んだ。

が、マレーは目前のもう一人のグーデン配下の男と大貴族の青年の激しい攻防を、歯を食い縛り見つめた。

…アスランもそれに気づき、視線を目前に戻す。

グーデン配下の男は大振りの、激しい剣を対戦相手にぶつけていた。
が、軽くかわされあしらわれて大貴族の貫禄に負け、一瞬足を引いて体勢を崩した横脇に、思い切り突きを喰らい負けた。

首を垂れ、罵るように剣を振り悔しがるグーデン配下の男を。
勝った大貴族の青年は、顔色も変えず見つめる。

その動じない態度は、大貴族とはどういうものか。
見ている皆に、はっきり示した。

勝って、当然。
その頼もしさ。
アスランはほっ。としたように、マレーの腕に、喰い込ませた指を緩めた。

が、勝った方のグーデン配下の男は、皆の戦いの場から、離れた所で待つディングレーへと振り向き、睨み付ける。

けれど狂犬のような鋭い視線に気づき、直ぐさま睨み返すディングレーの射抜くような青の瞳は、誰の目にもハッキリと、相手を上回って見え…。
格の違いを見せつけて、マレーとアスランを安堵あんどさせた。

残ったのは四人。
がその内一人の大貴族は、グーデン配下の男がディングレーを睨み付けている、その間に割って入り、相手は自分だ。と、男を真正面から見据えた。



 ゼイブンは負けて剣を下げ、観客席に戻り、腕組みした。


(ゼイブン16才の絵がありません。この絵は成人したゼイブンです。)

ディングレーの取り巻き大貴族達はボスに習って、貫禄も迫力も有りすぎた。

負けてやる気じゃなかった。
が、勝つ気が無いのも確か。
相手は熟練した使い手ばかりだったから、そんな中途な気持ちで当然、勝てるはずもない。

グーデン配下のヤードネンは最悪に嫌な奴で、残酷な剣を使う上、バレ無いよう反則もやる。
ほぼ黒に近い真っ直ぐの栗毛で、鼻が尖りほぼ黒な目も細く、見た目だけでも冷酷な野蛮人な風貌をしていた。

が対する相手は戦い慣れた、連中(グーデン配下の男達)がディングレーの猟犬共。と呼ぶ、ディングレー取り巻きの大貴族の一人、デルアンダー。



グレーがかった栗毛でグリン・グレーの瞳の、一見大人しげに見える美男子だ。

もしデルアンダーが自分と同じ、酒場をしょっ中出入りする遊び人なら間違いなく奴に女を、取られてたろう。
が、ボスのディングレーに習ってそれは、堅物かたぶつだった。

第一とてもお上品な貴婦人に、それは丁重ていちょうに接するだけで。
それ以外の下品な、遊び好きな女(俺なら大歓迎なんだが)には見向きもしない、育ちのいいお坊ちゃんだ。

が、剣の腕はあなどれない。

ヤードネンは去年、ディングレーに惨敗して執念燃やしていた。
が、デルアンダーは大層な使い手。

落ち着き払ってヤードネンの鋭い剣先を幾度もかわし、微笑すらその整った顔の上に浮かべてる。

しくも二年になったばっかの時、ヤードネンに倉庫で押し倒され、蹴りつけながら
「お前何血迷ってんだ!
俺としたいなんざ、最悪に悪趣味だぞ!」
と怒鳴ったが、ガタイはいいわ、力は強いわ、狂犬のように乱暴だわで、下敷きにされ、犯されそうになった時、助けてくれたのがデルアンダーだった。

わめき続ける俺の声に応えるように、デルアンダーは
「俺もそう思う。
奴を女の代わりにしたら、食中毒起こすぞ?」

そう言ってヤードネンの背を蹴り倒してくれた。

だから…なのか、つい密かにデルアンダーを、応援し続けてた。
が周囲はひそひそ声が止まらない。

ギュンターの不在の理由をそれぞれが憶測並べ立ててしゃべり続ける。

「あいつ、喧嘩は出来ても実は剣が、からっきしで逃げたんじゃないのか?」

…まあ、言われても無理は無い。
これだけ有名な行事に参加しない奴は、大抵晒し者にされると不都合な奴ばかり。

例えて言えば、ディングレーの一つちがいの兄貴、四年のグーデンだ。

奴こそが、威張るだけで剣はからっきし。
意気地無しの典型だから、もう四年だと言うのに、一度も試合に、出ない所か会場にさえ。
姿を見せた試しが無い。

ディングレーに視線を送ると、彼はまるで、苛立いらだってるように見えた。

戦い足りないんだろう…。
一年、二年と過ごして来たが、やっと背が伸びた。
と思っても奴はとっくにもっと、伸びてる。

そりゃ四年のオーガスタスなんかと比べたら、小さいんだろうが…。
今や四年の猛者らと肩並べてる奴だから、ちょっと剣を、振ったくらいは、戦った内に入ったりしないんだろう。

デルアンダーは見事だった。
幾度もリズムにのろうとするヤードネンの剣を叩き切り、ヤードネンの体勢を崩し奴のペースにさせない。

顔は綺麗だったが、その意志の強さと意固地さは、時にディングレーでさえ追い詰める程の腕前の剣士だったから、ゼイブンは思った。

“無駄だ。
デルアンダーは自分が、応援しなくったって勝つだろう”

がその通りで、数度打ち合いヤードネンが剣を突き出し突進して来た時。
いのししをかわすように身を避け、あっと言う間に逆にヤードネンの腹に剣を、突き付けた。

攻撃は最大の防御。とも言うんだろうが、決まらなければ最大の隙だって産む。

ヤードネンの鋭い切り込みは、他の奴には通用したが、デルアンダーには無理で、講師の
「それまで!」
の声に、激しく睨め付けるヤードネンをデルアンダーは一笑に付し、次の同輩の好敵手、テスアッソンを迎えた。

ディングレー取り巻き大貴族同士の、二位三位決戦だった。
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