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グランデルとフィンスの激しい攻防

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 だが、グランドルとフィンスの決着は、まだ付かない。



フィンスは控えめな性格ながら、いざとなれば腕っ節も強い、誰もが認める端正な美男。
癖の無い長く濃い栗毛を背に流し、深いブルーの瞳はいつも穏やかそのもの。
がグーデン一味が近づくと、瞳は鋭さを増し、表情を引き締める。

背も高く体格も良く、喧嘩も強かったから。
グランドルも迂闊に突っかかれず、業を煮やしてた。
顔のいいフィンスに対する多分なやっかみも手伝い、ここが好機とばかり、グランドルは鋭い突きを何度も入れる。
毛が逆立つような、殺気すら帯びた、喧嘩腰の剣を立て続けに、フィンスの顔に突き入れる。

が先ほどシェイルに向けた、嫌らしいグランデルの視線に思い切り腹を立ててるフィンスは。
顔を突き刺さんばかりのその剣を、がっ!と力尽くで剣で避け、合わせた剣を外し突き出す。
しかしグランドルは、怒り籠もるフィンスの剣を、笑って避ける。

からかうようににやにや笑い、激しい剣を数度、またフィンスの顔へと鋭く振り入れたかと思うと。
フィンスに反撃されると途端、間を取ってマトモに打ち合わず、交わして逃げる。

フィンスはますます、かっか来てるように見えた。

ヤッケルがローランデの横に来て、呟く。
「まずい状況だ」

が、ローランデは落ち着き払って囁く。
「フィンスは大丈夫」

ついヤッケルはそう言う、親友の端正な横顔を見つめた。
澄んだ青い瞳。
色白の肌。
淡い栗毛に濃い栗毛の筋が、幾つも混じる独特の髪色。
微笑むと、とても優しく目に映る。

がいったん剣を握ると。
その雰囲気は、凜として清々しい。

シェイルは負け組として端に控えてた。
フィンスがグランドルに勝てば、結局グランドルと、四位を決する対戦をする事になる。

フィンスがチラ…。と、俯くシェイルを目の端に捕らえる。
銀のふわりとウェーブのかかる髪。
エメラルド色の、大きく綺麗な瞳。
小さな赤い唇の、『教練キャゼ』に不似合いなとびきり可憐な美少年。
少し不安そうに顔を下げてると、思わず近寄って背を抱き
『大丈夫』と慰めたくなってしまう。

が、グランドルも同様、視線をシェイルに振る。
簡単に力尽くで組み敷き、好きなように出来るご馳走を、目の前にした狼のように。
舌なめずった嫌らしい視線で、シェイルを舐め回す。

それを見たフィンスは瞬間、腹の底から怒った。

ぞっ。とする程冷たい表情で、フィンスは剣筋を変える。
真剣そのもので剣をグランドルの胸に、突き刺すように振り入れる。

突然の攻撃の、その変貌に。
グランドルはぎょっ!とし、慌てて後ろに、ふっ飛んで逃げる。
が、フィンスは先読みし、回り込んで待ち構え、また…。

避けなければ、頬に刺さってた。
それ程きついフィンスの一撃を、グランドルは必死で首を振り避ける。

腿。腹。首。肩。

どれも突きで、グランドルはそれを止めるのに間に合わず、必死で足を使い、体を倒しまくって逃げ始める。

が集中力の増したフィンスは逃さず、先回りしては直ぐ次。
グランデルが背を向けると容赦なく、背を貫くような突きを入れる。

「ひぇっ!」
グランデルは転がらんばかりに体を傾け、必死で剣でフィンスの剣を薙ぎ払うものの、その剣は大きく空振った。

「…殺気だろう…あれって」
リーラスが呆れ、オーガスタスも唸った。
「間違いなく本気で殺す気でやってるな。
フィンスは」

ローフィスはフィンスが、次に対戦するシェイルの為に、グランドルをくたくたに疲れさせる腹だと読んだ。

真っ直ぐな気性の、仲間思いの…。
大貴族の癖にそれは控えめな…頼もしい男。
その評価を裏切らない戦いぶり。

グランドルの、息が上がる。
体勢は崩れっぱなし。
腰の入った重い剣が振れず、防御一方。
がフィンスは容赦無し。

足がもつれるグランドルの、体を刺し貫こうと突き入れる剣の鋭さを、いや増す。

がっ!
とうとうグランドルは避け損ね、フィンスの剣は腿を掠る。
が直ぐ胸。
どっ!

グランドルは服を掠る剣を剣で必死に防ぎ止め、顔を苦渋に歪める。
フィンスは瞬間剣を振り上げ、思い切り真横に振り切った。

がつん!
グランドルは必死で剣を持ち上げ、ぶつけ止めた。
直ぐフィンスは剣を合わせたまま、強引に押しながら歩を進め、一気に間を詰める。

端からはフィンスは剣を、引いたように見えた。
が二人が接近した途端グランドルは後ろに吹っ飛び、フィンスは剣を下げ、グランドルにくるりと背を向けた。

どったん…!

グランデルは背から床に、ふっ飛んで倒れ込む。

「反則だ!
今拳か肘で、殴ったろう!」

グーデン一味の一人が、大声で叫ぶ。
間髪入れずディングレーが、低く迫力ある声で怒鳴り返す。
「剣の柄だ!
剣を引く時、たまたま当たった事故だ!」

そうだろう?
とディングレーに見つめられ、フィンスは笑い、擁護してくれた一学年年上の王族の男に、軽く頭を下げて一礼した。

が、グーデン一味の男達は、大袈裟に騒ぎ立てる。
「いや!
絶対肘だった!」
「俺は拳を奴が振ったのを見たぞ!」

ディングレーが腕組みしたまま、二人の対戦を近くで見守っていた講師をじっ…と見る。
判定を伺うように。

講堂中の誰もが。
事の次第を確かめようと、その講師に注目し始めた。

講師は茶の髪を微かに振ると、呟いた。
「確かにディングレーの言う通り、当たったのは剣の柄だった」

ぅおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

歓声が轟き渡る。
講堂中が、フィンスの技に驚嘆し賛美の歓声を上げた。

「…凄いな…」
スフォルツァは隣からの声が聞き覚えがあるのに、ふと横に振り返る。
そこにはアイリスがいて。
いつの間にか着替え、良い香りを漂わせて見つめてる自分を見つめ返し、にっこりと微笑む。

スフォルツァは途端、どぎまぎして狼狽えた。
「あ…あ、どう見てもあの位置からは、拳か肘で殴った方が、早いのにな…」
アイリスが、きっぱり言う。
「そっちじゃない」

スフォルツァは頬を染め、そう言うアイリスの顔を、覗き込んだ。
アイリスは覗き込むスフォルツァに、言葉を返す。
「上級生の、反応だよ…。
ウケる事すると、毎度凄い騒ぎじゃないか…」

スフォルツァはつい、早口に囁いた。
「だって実際、フィンスは凄い。
あの位置で。
咄嗟に手首返し、吹っ飛ぶぐらい相手に、柄を叩きつけるなんて」

アイリスは、そうか?と首を竦め
「…彼くらいの実力者なら、さ程凄くない。
しごく当然じゃないのか?」

スフォルツァはアイリスの感じがあんまり…変わっていて、目を擦りそうになった。
女々しさが、すっかり消えていて少年の表情をしていた。

それで…聞いた。
「…大丈夫だったのか?
さっき…気絶したろう?
様子を見に行けなくて、すまない」

アイリスは親しい友達を見るような視線を、謝るスフォルツァに向けると。
くすり、と笑った。

見物みものは、あった?
私が気を失ってる間に」

「本当に、大丈夫なのか?」
尋ねられ、まだあちこちの筋肉がぎしぎし言ってる。
とは流石に言えず、肩を竦めた。

「シェイムは名医なんだ。
それに…一年に一辺しかない見物を、見逃したくない」

スフォルツァは頷く。
「…見たろう…。
ローランデは不戦勝でシード扱い。
二年の誰も、異論を唱えない。
早々にローランデと当たれば、確実に負けるから」

アイリスは微笑んだ。
「流石だね…。
なのにローランデには、おごりが一切、見られない…。
普通たったの15なら、慢心して当然なのに。
なのに彼は…澄み切った鏡のように静かだ」

スフォルツァはアイリスが。
ローランデを褒めるのが気に入らなかった。
でつい、言った。
「じゃ、当然ローランデは学年一になり…俺は対戦して負ける。
…そう、思ってる?」

が、アイリスは振り向き、にっこり笑って言った。
「君は勝てないとは思う。
けどただ負けたりはしないだろう?
君の実力の全部が見られる、いい機会だ」

スフォルツァの、眉根が寄る。
「俺の実力全部を出し切っても、負ける。と?」

アイリスの微笑はやっぱり、崩れない。
「多分ね。
けど…わくわくしないか?
そんな凄い剣士と戦う機会なんて、滅多に無い。

正直君が、羨ましいよ」

言われてスフォルツァはようやく、頬を染めて俯いた。
「…ごめん」

アイリスが、その殊勝なスフォルツァを伺う。
「どうして、謝る?
君は間違いなく学年一強いのに」

「…その…俺が無神経で。
君が…ローランデをめたから…嫉妬したんだ」

そう素直に告白され、アイリスはやっぱりスフォルツァは可愛い。と思った。
が情にほだされると、また夜のお相手をさせられる。と解っていたのでぐっ!とこらえる。

「気にするな」
つとめて、男っぽく、友達のように告げる。

スフォルツァはそんなアイリスを、怪訝けげんそうに見つめた。

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